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  • 2019.03.15

“首を持つ者“が暗示する、暗黒大陸の行く末

ギュスターヴ・モロー「出現」(パブリック・ドメイン)

ギュスターヴ・モロー「出現」(パブリック・ドメイン)

言うまでもなく、ヒソカ対クロロ戦では、執拗に“首”というモチーフが反復されます。

ヒソカがバンジーガムで武器にした、観衆の首。あるいはクロロ戦後、シャルナークが目撃した、コルトピの首を抱えたヒソカ。

サロメに言及するとややこしくなるので、ここではシンプルにヒソカを“首を持つ者”としておきます。

クロロはキリストなのか?

次に、クロロ=ルシルフル。ルシルフルとはルシファー、楽園を追放された悪魔(蛇)のことです。

……ルシファーについても、宗教学的に無限に解釈が存在します。ので、ジョン・ミルトンの『失楽園』、要は旧約聖書をベースに書かせていただきます。

悪魔とは何か。悪いことをする者……ではありません。

ルシファーは、神の庇護にある楽園で暮らすアダムとエバに、禁断の果実を食べるようそそのかす……と書くと悪者っぽいですが、簡単に言うと楽園というディストピアを壊した者。“革命家”なんですよ。

悪魔とは、既存の価値観を揺さぶり、選択を強いる者です。思考停止した保守や既得権益を壊す、タカ(派)のような存在と呼んでもいいです。

そのため楽園サイドからは悪者に見えますが、決して神様を嫌っているわけではありません。これは例え話ですが、右翼と左翼は嫌い合っているとしても、日本を良くしたいという根本が同じなのと一緒です。

9巻でクロロは、ウボォーギンの「俺たちの中に背信者(ユダ)がいるぜ」という懐疑に対して否定すると共に「それにオレの考えじゃユダは裏切り者じゃない」と意味深な発言をしています。

そして、12巻でこれ見よがしに強調される、背中に逆十字のあるクロロのコートもわかりやすいことでしょう。

ウボォーギンを殺したクラピカに捕らえられた際、クロロはクラピカの選択を問います。直接口に出してはいませんが、彼がクラピカに突きつけたのは“使命をとるのか、仲間をとるのか”という問いです。頭に血が上り、取り乱すクラピカ。まさに、価値観を揺さぶる者の姿があります。

同時に、クロロは非常に“キリスト的な要素”も持っています。

再びヒソカ対クロロ戦。両手の甲それぞれに太陽と月の刻印が浮かび上がる念能力「番いの破壊者(サンアンドムーン)」は、どう見ても聖痕(スティグマ)です。

そもそもルシファー=キリストという説もあるくらいです。

ここでは、クロロを“キリストに深く関わる者”としておきます。

"首を持つ者"は、混乱と成長をもたらす

……ところで、この“首を持つ者”と“キリストに深く関わる者”という構図、以前にもあったの分かりますか?

ネフェルピトーとメルエムです。

カイトの首をもぎ取ったネフェルピトーが足の間にその首を抱きかかえる衝撃のシーンを思い出してください。

そして、メルエムが死の間際、コムギの膝で眠るシーン。磔にされていた十字架から降ろされたキリストを抱くマリアを表現した「ピエタ」の図そのものです。

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ミケランジェロの『サン・ピエトロのピエタ』。Photo:Juan M Romero(CC BY-SA 4.0)

つまり“首を持つ者”であるネフェルピトーと、“キリストに深く関わる者”であるメルエムとの関係が、ヒソカとクロロにおいても反復されています。

もちろんネフェルピトーとメルエムは主従関係で、ヒソカとクロロとでは(元旅団員とは言え)関係性が全く違います。

ただ、描かれているモチーフが一緒なんですね。

さて、クロロとメルエムは特定の章において、物語のラスボスとして降臨していましたが、ネフェルピトーとヒソカの共通項はなんでしょうか?

一言でいえば、物語に混乱を、主人公に成長をもたらす試練として描かれたことです。

天空闘技場で念を覚えていないゴンらの前に立ち塞がったのもヒソカなら、ハンター試験の借りを返すためにゴンが越えなければならなかった“試練”そのものだったのもヒソカでした。

ネフェルピトーはと言えば、王であるメルエムを守るためゴンと対峙し、その結果、彼を倒すために強制的に年齢を成長させてしまったゴンの姿がありました。

“首を持つ者”は、越えるべき試練として描かれています。

前置きが長くなってしまいました。ここからが本題です。

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