海外トップアニメYouTuberが語るアニメの現在地 「Shonen」ジャンルと日米ヒーロー比較論
2021.04.20
ギュスターヴ・モロー「出現」(パブリック・ドメイン)
言うまでもなく、ヒソカ対クロロ戦では、執拗に“首”というモチーフが反復されます。
ヒソカがバンジーガムで武器にした、観衆の首。あるいはクロロ戦後、シャルナークが目撃した、コルトピの首を抱えたヒソカ。
サロメに言及するとややこしくなるので、ここではシンプルにヒソカを“首を持つ者”としておきます。
次に、クロロ=ルシルフル。ルシルフルとはルシファー、楽園を追放された悪魔(蛇)のことです。
……ルシファーについても、宗教学的に無限に解釈が存在します。ので、ジョン・ミルトンの『失楽園』、要は旧約聖書をベースに書かせていただきます。
悪魔とは何か。悪いことをする者……ではありません。
ルシファーは、神の庇護にある楽園で暮らすアダムとエバに、禁断の果実を食べるようそそのかす……と書くと悪者っぽいですが、簡単に言うと楽園というディストピアを壊した者。“革命家”なんですよ。
悪魔とは、既存の価値観を揺さぶり、選択を強いる者です。思考停止した保守や既得権益を壊す、タカ(派)のような存在と呼んでもいいです。
そのため楽園サイドからは悪者に見えますが、決して神様を嫌っているわけではありません。これは例え話ですが、右翼と左翼は嫌い合っているとしても、日本を良くしたいという根本が同じなのと一緒です。
9巻でクロロは、ウボォーギンの「俺たちの中に背信者(ユダ)がいるぜ」という懐疑に対して否定すると共に「それにオレの考えじゃユダは裏切り者じゃない」と意味深な発言をしています。
そして、12巻でこれ見よがしに強調される、背中に逆十字のあるクロロのコートもわかりやすいことでしょう。
ウボォーギンを殺したクラピカに捕らえられた際、クロロはクラピカの選択を問います。直接口に出してはいませんが、彼がクラピカに突きつけたのは“使命をとるのか、仲間をとるのか”という問いです。頭に血が上り、取り乱すクラピカ。まさに、価値観を揺さぶる者の姿があります。
同時に、クロロは非常に“キリスト的な要素”も持っています。
再びヒソカ対クロロ戦。両手の甲それぞれに太陽と月の刻印が浮かび上がる念能力「番いの破壊者(サンアンドムーン)」は、どう見ても聖痕(スティグマ)です。
そもそもルシファー=キリストという説もあるくらいです。
ここでは、クロロを“キリストに深く関わる者”としておきます。
……ところで、この“首を持つ者”と“キリストに深く関わる者”という構図、以前にもあったの分かりますか?
ネフェルピトーとメルエムです。
カイトの首をもぎ取ったネフェルピトーが足の間にその首を抱きかかえる衝撃のシーンを思い出してください。
そして、メルエムが死の間際、コムギの膝で眠るシーン。磔にされていた十字架から降ろされたキリストを抱くマリアを表現した「ピエタ」の図そのものです。
ミケランジェロの『サン・ピエトロのピエタ』。Photo:Juan M Romero(CC BY-SA 4.0)
つまり“首を持つ者”であるネフェルピトーと、“キリストに深く関わる者”であるメルエムとの関係が、ヒソカとクロロにおいても反復されています。
もちろんネフェルピトーとメルエムは主従関係で、ヒソカとクロロとでは(元旅団員とは言え)関係性が全く違います。
ただ、描かれているモチーフが一緒なんですね。
さて、クロロとメルエムは特定の章において、物語のラスボスとして降臨していましたが、ネフェルピトーとヒソカの共通項はなんでしょうか?
一言でいえば、物語に混乱を、主人公に成長をもたらす試練として描かれたことです。
天空闘技場で念を覚えていないゴンらの前に立ち塞がったのもヒソカなら、ハンター試験の借りを返すためにゴンが越えなければならなかった“試練”そのものだったのもヒソカでした。
ネフェルピトーはと言えば、王であるメルエムを守るためゴンと対峙し、その結果、彼を倒すために強制的に年齢を成長させてしまったゴンの姿がありました。
“首を持つ者”は、越えるべき試練として描かれています。
前置きが長くなってしまいました。ここからが本題です。
※この記事は期間限定でプレミアムユーザー以外にも開放されています。
様々なジャンルの最前線で活躍するクリエイターや識者を中心に、思想や作品、実態に迫る取材をお届け
様々な記事の中から編集部で厳選したイチオシ作品をご紹介
ラッパー/ライター/編集
現代の日本の音楽シーンを語るなら、ボカロ文化は不可欠。2020年代のボカロ曲において、音楽的な独自性はどこにあるのか? 柴那典さんが「MAJ2025」受賞候補曲から考えます。
ライター
『ブルーアーカイブ』の青い色彩設計、そしてエデン条約のストーリー。この2つを柱に日本のサブカルチャーがアジアにどんな影響を与えたか、韓国でどう花開いたかを紐解きます
ライター
ぶいすぽっ!所属の蝶屋はなびさん。普段から前向きな姿勢を崩さない彼女のひたむきさはどこから来ているのかうかがいました。格ゲートークも充実!
編集
語られざる、違法な海賊版トレーディングカードゲームの歴史。世界広しと言えども、この解像度でその歴史を紡げる人は、SF作家・ゲームコレクターである赤野工作氏しかいない。
編集
結局、同人誌って違法なの? 実在する「VTuber」の二次創作、もしかして肖像権侵害や侮辱罪に当たっちゃう? 令和版、同人文化への最新の法的動向を弁護士に根掘り葉掘り聞いてます。
編集
日本語ラップを、構造的に理解する──音楽としてでもライフスタイルとしてでもない、新しいヒップホップの解釈を提示してもらっています。
編集
オタク/ラップのトップランナーだからこそ語れる“ニコラップ”の世界。懐かしいだけじゃなく、今に接続される話になっています。
ライター・編集者
減らないVTuberの活動休止について、根本的な原因を九条林檎さんに聞きました。推しのVTuberがいる方は、ぜひ読んでもらいたい内容です。