Column

Series

  • 2022.10.21

バーチャルYouTuberは生モノなのか? メディアが書かない「VTuberと18禁二次創作」の実態 

「VTuberに人権は宿るのか?」という命題

文芸誌『ユリイカ』2018年7月号のバーチャルYouTuber特集に所収されている「虚構世界のキャラクターの人権とVTuber の人権にかんする覚書」では、ゲーム批評家・藤田祥平がVTuberの人権について鋭い指摘を行なっている。

藤田は序盤では、小説やゲームに登場する「人間」を現実の人間と一緒くたにすることについて苦言を呈し、「人間性という光を浮き彫りにする限りにおいて」、フィクションの中で登場人物たちが虐げられることも許容する立場にあることを明言する。

その上で、では「VTuberに、人権はあるのだろうか」と問いかけている。

そこで、バーチャルのじゃロリ狐娘Youtuberおじさんことねこます(現在はVTuberを引退)を例に、存在のあり方について問うている。中でも下記の記述は、VTuberの存在がいかに複雑なものであるかを示しているだろう。

おそらく、この線引きが有効だろう。VTuberの存在はフィクションなのではなく、バーチャルなのだ。3Dモデリングによるアニメーションがどうしようもなくフィクションぽさを漂わせてしまうものの、そもそもの話、VTuberは虚構という枠におさまるものではない。現実/フィクションという対比で考えるのではなく、現実/バーチャルという対比で考えなければならないのだ。そうしたとき、後者はふたつともに、「人間が生来持っている生命・自由・平等などに関する権利」が存在する世界であることが、明らかになる。『ユリイカ』2018年7月号「虚構世界のキャラクターの人権とVTuber の人権にかんする覚書」(藤田祥平)

そして終わりには『コミックマーケット』で確実に頒布されるだろう、ねこますを題材にした同人誌について、レイプや拷問といったエログロ描写が作中で行われた際にはどう受け止めるべきなのか、という葛藤を吐露して寄稿を締めくくっている。

「現実/バーチャル」に存在するひとりの人権を、毀損するものだと、言えるのだろうか。それとも、これはフィクションだ、という言論のもとに、黙認されるべきものなのだろうか……。同上

2018年にまとまった論考の中で、VTuberと性的表現について考察したものはほとんどなく、まだ黎明期の最中と言ってもいいこの時期にこの疑問を呈したことには脱帽だ。

そうして、VTuberの存在が広まることで研究も進み、2021年には法学にも詳しい静岡大学学術院情報学領域 准教授・原田伸一朗が論文「バーチャルYouTuberの人格権・著作者人格権・実演家人格権」の中で次のように解説している。

キャラクターへの侵害をパーソンへの侵害と同視し得るパーソン型VTuber(※編注)においては、まずその「中の人」の人格権侵害が成立し得る。「バーチャルYouTuberの人格権・著作者人格権・実演家人格権」(原田伸一朗,2021)

※パーソン型VTuber ここでの「パーソン型のVTuber」は美学者・難波優輝の「バーチャルユーチューバの三つの身体:パーソン・ペルソナ・キャラクタ」(外部リンク)をもとに関連して定義された概念。原田の本文では「中の人」や「魂」と呼ばれる存在を否定しないVTuberのことを指している

このように法学論の中で侵害が成立し得ることが記されたが、現実問題としてこの論文が掲出された後に複数の裁判でVTuber側が起訴した名誉感情侵害を認めるように求めた情報開示請求裁判(令和3年4月26日東京地裁判決(発信者情報開示請求事件)2021WLJPCA04268004)が存在する。

裁判所は「動画配信やSNS上での発信は,キャラクターとしての設定を踏まえた架空の内容ではなく,キャラクターを演じている人間の現実の生活における出来事等を内容とするものであることも考慮すると,VTuberの活動は,単なるCGキャラクターではなく,原告の人格を反映したものである」(外部リンク)と、VTuber活動には中の人の人格が反映されていると評価した内容の判決を出している。

「人格権侵害が成立し得る」という点は、現実味を帯びつつあるのではないだろうか。

多様性に富む存在であるVTuberと、どう向き合うのか

なお各事務所は、誹謗中傷など行為に対して法的処置を視野に入れ、弁護士法人モノリス法律事務所がVTuber法務の専門チームを立ち上げるなど、VTuberの保護を視野に入れる中、今でもVTuberに関連した複数の裁判が争われている。

今後、企業を中心に二次創作における性的表現が争点になる可能性は否定しきれない。しかし、もしも実際に争われるようになった際には、過剰に騒ぎ立てる必要はなく、先に触れたようにまずはVTuberへの配慮が必要なのだと筆者は思う。

バーチャルYouTuber(VTuber)は非常に多様性に富む存在である(『フィルカル』Vol. 7, No.2 『「バーチャルYouTuber」とは誰を指し示すのか?』山野弘樹,2022、P261)ことからも、一つの問題がすべてのVTuberに適応出来るものではない。様々な面を考慮し、問題が起こったときには時間や問題解決へと向けた対策などが必要になるだろう。

前述の原田伸一朗の論文では本来あらゆる場合を想定しているが、本文では実例を紹介するために割愛させていただいている。内容を捉えるためにも論文の本文も確認いただきたい(外部リンク)。

「妨げられた」歴史を持つVTuber業界の今後を占うもの

ここまでVTuberとセクシュアルな二次創作の関係性を中心に解説と考察を行ってきた。

本シリーズは、あくまで真剣にバーチャルYouTuber、VTuberにおける性の関わりについて解説している。そのことを理解していただければ幸いだ。

ルールとモラルが求められる時代の中で、多くが「煽情的なことはなぜダメか」を根本から説明できないように思う。守られるべきVTuberの尊厳、二次創作ガイドラインによって許された自由。「妨げられた」歴史を持つVTuber業界の上で、VTuberのレイプや拷問は今後も描かれるのか。全てはVTuberと関係者、二次創作者、そして受け手の動向次第だろう。

なお次回は著名なゲームを利用し、アダルトビデオをYouTubeに流したことで騒動となった「AVスプラ」をはじめ、アダルトビデオとVTuberの関係性について紐解き、AVTuberの動向や特徴について解説する。

続きを読む

クリエイター

この記事の制作者たち

※この記事は期間限定でプレミアムユーザー以外にも開放されています。