MCバトルという料理は、ヒップホップという器を超えた──「BATTLE SUMMIT」レポート後編
2022.09.17
「FSL VOL.1」の際の対戦表。順位に応じて賞金が支払われる。プロリーグとして定期的に開催されることで、賞金で食べていける可能性が高まると注目された。
──現在では大きな賞金が出たり、プロ化を目指すフリースタイルリーグ(FSL)が設立されたりといった、興行化の流れができています。
晋平太 かつてのようなアンダーグラウンドの文化ではなくなりつつあるのかなとは思いますね。観客の層も、黎明期に比べればタイプが変わりました。
──お客さんの層はどう変わったんですか?
晋平太 具体的に言うと、年齢層がグッと下がりました。MCバトルがヒップホップを聴く入り口的な役割を果たしているのかなと感じます。
──プレイヤー側にも変化はありますか?
晋平太 オーセンティックというか、古き良きヒップホップを貫いているラッパーもいますし、昔はいなかったタイプのやつもいて、多様性が出てきました。その中で、各大会、どのスタイルが支持されるのかというゲームになりつつあるようには感じます。
MCバトルは決して人気投票ではないし、本当は、どちらのスキルが高いか、どちらが会場をロックしていたかで純粋に争うものだとは思う。
でも、お客さんのリテラシーによっては、人気投票の側面が出てしまうこともある。それはもう俺らプレイヤーとしてはどうしようもない部分で。それが気に食わないなら、自分のスタイルでぶっちぎって見せつけるしかないんですよ。
要は、そこまでの情熱を注いでいるやつが誰なのかって話だと思うんです。たとえば、MU-TONはめちゃ戦っている。勝ち負けはもちろん大事だけど、彼が彼のスタイルや哲学で戦っているのはいつも見ている。呂布カルマだってそう。
もちろん俺だってそうですよ。そういうスタイルウォーズが今のMCバトルなのかなって思いますね。それぞれのスタイルがどこまで浸透しているのかは、すごく大事な問題ですよね。
──MCバトルは心身への負荷が高いと聞いたことがあります。FSLのようにプロ化した際に、ラッパーの方はその過酷な道で食べていけると思いますか?
晋平太 今のバトルシーンなら可能かなと思いますね。
昔は1つの大会にかける情熱がもっと高かった。たとえば、R-指定がUMBで3連覇した頃、彼は人生のベストをその場で出そうとしていたと思う。俺もそうだった。
けど、大会毎に全人生をかけて自分をすり減らすのなんて、何年も続けられるものじゃなかった。
今は大会も増えていて、毎月のように大きな大会がある。そうすると、昔みたいに1つの大会に向けて1年かけて心身ともに準備して、っていうのは難しい。
そういう意味では、プロ化は可能だと思いますね。サッカーや野球のプロリーグみたいに、勝っても負けても次の試合が来る。それまでにどうやって気持ちを切り替えて、次の試合で全力を出すかっていうゲーム。
──競技化する中で、参加する側のスタンスも変化していると。
晋平太 でも、俺が本当に見たい、本当にやりたいのは、その瞬間に人生すべてを賭けてるでしょっていうバトル。それを求めて、1〜2年突っ走れたらすごいじゃないですか。
俺は、バトルだけやりたいというラッパーにはあまり出会ったことないけど、バトルに出るだけでそこそこ食べていけるようになれば、最高だとは思いますね。
晋平太さんが見据える、これまでとこれから
──やはりラッパーは、どんなにバトルで稼げるようになったとしても、バトルだけでなく、音源やライブに時間を費やしたいということですか?
晋平太 音源やライブに日常の大半を注ぎ込んでいる人がほとんどじゃないですかね。
むしろ俺らは今こそ、バトルでの注目度とか人気を、ラッパーとしての音源やライブに向けてもらうための導線をどう繋ぐかっていう部分をもっと深く考えて、情熱を注ぐべきだと思ってます。
即興だけが好きっていう人も中にはいるかもしれない。でも、やっぱりラッパーとしての自分のことが好きだって言ってくれる人には音源を聴いて、ライブにも足を運んでもらいたい。それが上手くできている人と、できていない人で大きな差が開いているんじゃないかな。
──晋平太さんとしては、どういうやり方がベストだと考えていますか?
晋平太 俺にとってのベストは、バトルと音源、ライブの両輪を回し続けて、その中間を繋ぐこと。YouTubeやいろんな活動をしながら発信を続けているのは、そのためでもあります。
今思うのは、バトル以外にどういう発信や行動をしていくべきかっていう試行が、俺には圧倒的に足りなかった。これが最後のチャンスかもしれないけど、まだチャンスはあると思っています。
自分という人間をどう愛してもらい、サポートしてもらうか。サポートしてもらったからには、どうしたら愛を行動で返せるのか。
作品で返せれば一番スマートだと思うんですよ。ただ、全員が全員、それが得意なわけではない。結局、自分の得意なことで返していければ良いんじゃないかなって思っています。
──今後、よりヒップホップを浸透させるために必要なこととは何だと思いますか?
晋平太 スーパースター……ですね。AK-69さんや般若さん、ZORNとか、ヒップホップのスーパースターはもういると思うんですよ。
ただ、今の時代、ヒップホップというカルチャーの枠を超えて、日本を1番ロックするような存在にラッパーがなる必要があると思います。Awichがそういった存在になる可能性もある。
もしかしたら、今はスーパースターという存在自体が生まれにくくなっているかもしれない。だからこそ、そういった存在を生み出すには、ヒップホップというカルチャーをずっと繋いでいかないと。
文化を繋いでいった結果、ヒップホップで世の中を良くしていこうというメンタリティのスーパースターが出て、本当の意味でロールモデルになってほしい。
そういう存在が日本にも現れることで、ヒップホップはより前に進むんじゃないですか。一歩前に進めば、その次も出てきますから。
日本で1番輝いている、夢と希望をみんなに与えられる、そんなスーパースターは必要なんじゃないかと思いますね。

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