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2024.06.21
2024年6月1日に行われた、MCバトル大会「戦極MCBATTLE 第33章 西の3on3 Special」。
MOL53・SILENT KILLA JOINT・CIMAからなる「伝説建設」と戦った、ハハノシキュウ・SONOTA・Amaterasの3人による「マザーテラスとそのた」。
この原稿は、その本番までを克明に記録した、素振りの話である──
クリエイター
この記事の制作者たち
運命なんて相手にすんなリンダカラー∞
「ボクサーズナックル」という言葉がある。
意味は伸筋腱脱臼。
指の付け根の腱を固定してる結束バンドのような部分が切れて、腱が横滑りしてしまう状態の脱臼のことだ。
僕の中指は自損事故により、器具で固定されたままになっている。
そもそも脱臼した理由なのだが、これがあまりにも情けない。
レコーディングスタジオで「誰が一番デコピン強いか?」って話になって「俺、強いよ」と名乗り出てバチンッ!と“から打ち”をしたら中指が壊れたのだ。
本番ではなく素振りで怪我をしたのである。
よって、文章が恐ろしく書きづらい状況下にある。
ネタとかではなく本当に書きづらい。
その証拠に『喧嘩稼業』作者の木多康昭のごとく締め切りを守れず、こうして「戦極33章」レポートの掲載時期が遅れてしまっている。
目次
- 素振り1. これから始めるのは、本番に辿り着けない素振りの話だ
- 素振り2. 「30章の盛り上がりを、33章で超えられるのか?」という命題
- 素振り3. 絶対に人見知りするSONOTA vs 誰の懐にもすぐに入るAmateras
- 素振り4. ハハノシキュウ、戦略を練る
- 素振り5. バトル戦術解説 ミクロな作戦とマクロな作戦
- 素振り6. プロットそのものを書き換える「邪道中の邪道」を選んだ理由
- 回想1. 戦極33章に向けた、大いなる助走──ビートメイカー油揚げとの邂逅
- 回想2. 「破天共鳴1.0」で得られた、マクロな戦術を行う勇気
- 素振り7. MC 正社員からハハノシキュウへの、事前オーダー
- 素振り8. 「3on3はSONOTAちゃん、1人で行こう」
- 素振り9. 「2on2、リンダカラー∞は?」
- 素振り10. 「ここから俺が1人で2回勝ちます」
- 素振り11. 「もし相手が伝説建設だったら、通用しないかもしれない」
- 素振り12. SONOTAの戦い方
- 素振り13. Amaterasのジョーカーで目指したのは、MCバトルの脱構築
- 素振り14. SONOTAが身につけた、16小節の文法
- 素振り15. 大喜利「中指の脱臼とかけて、一回戦の相手とときます」
- 素振り16. 戦極33章本番当日。ハハノシキュウだけ定刻通り大阪着
- 素振り17. ハハノシキュウ、SATORUにリハで絡まれる
- 素振り18. マザーテラスとそのたの「3つの目標と1つの裏目標」
- 素振り19. バトルにおいて、何よりも大事なもの
- 素振り20. ミッション:全員の見せ場をつくって、逆転を期待させる
- 素振り21. ハハノシキュウが教える、パンチラインの方程式
- ハハノシキュウの計算はいつも15足りない
中指を曲げられなくなった僕は中指を立てたまま大阪へ行き、中指を立てたまま東京へ帰ってきた。
中指を立てていると、恐ろしく文章が書きづらい。
これは事実であると同時に隠しようのない隠喩(メタファー)だ。
あまりにも書きづらいため、どこまで書けるかわからない。
どうして書きづらいのかというと、ラッパーが自分の口ではあまり公にしたくない戦術の話をするからだ。
最近のMCバトルがスポーツ化してるとかしてないとか、そういった論争が「最近」という言葉が古くなるくらい昔から変わらずに起こり続けている。
しかしながら、プレイヤー側のほとんどはスポーツだなんて微塵も思っていない。
あくまで喧嘩だ。
格闘技と喧嘩の違いはトレーニングをするかしないかだ。
『グラップラー刃牙』で言うなら花山薫。
『喧嘩稼業』で言うなら工藤優作。
『HUNTER×HUNTER』のクロロvsヒソカならヒソカ側の姿勢だ。
打算も対策もなく、日常の延長として戦う。
普段からラッパーとしてバトル以外のことに精を出している人間であればあるほど、そういう美学が根底にある。
だから、MCバトルに戦術を持ち込むのはどちらかと言うとダサい部類に入る。
最も典型的なのはネタのライムを用意することだ。
ただし、昨今のバトルシーンにおいてネタを仕込むこと自体は昔ほど悪手とは言われていない。
むしろ、即興性とネタのバランスが重要視されている傾向が強い。
今回、僕が話すのはMCバトルにおける戦術の特殊な一例であり、そこに至るまでの前日譚だ。
AbemaTVで本編を観てから本文を読んでもらってもかまわないし、逆にこれを読んでから本編を観てもらってもかまわない。
僕のデコピンは本番に辿り着けず、素振りで終わってしまった。
同じようにこの文章も素振りで終わる。
これはただただ大袈裟に書かれた素振りの話なのだ。
順を追って話すと、まず去年の7月に戦極30章というMCバトルイベントが豊洲PITで行われた。
僕はAmateras、SONOTAとチームを組んでその大会に出場することになった。
ところがAmaterasがここでは書きづらい理由で出場できなくなり、代わりにゆうまくんが登壇してくれることになった。
その時の僕の心情は、リンク先のレポートに綴ってあるため、その解像度を上げたい人は一読してもらいたい。
その戦極30章で僕らは漢さん率いるteam Fuck野郎充満(MU-TON / 梵頭 / 漢 a.k.a. GAMI)に勝利した。
準決勝では敗れてしまったが、決して勝てない勝負ではなかったと思う。
ただし、そこには作戦と呼べるものはなかった。
大将の勝利が2ポイントというルールだったため、単純な話、個人の火力勝負の大会だったと言える。
2024年3月某日、戦極主催のMC正社員から電話が来る。
去年実現できなかったAmaterasとSONOTAの3人チームを再び組んでほしいという話だった。
はっきり言って去年は奇跡的に及第点を超えた感覚があった。あと一個奇跡があれば決勝まで進んでいたかもしれないくらい嘘みたいな結果だった。
30章の盛り上がりを33章で超えられるのか?
幸い僕には全盛期というものがないが、それでも昨日の自分を超え続けるのは簡単ではない。
この時点でルールが前回とは異なるらしいというのは軽く聞いていたが、その詳細はまだ決まっていなかった。
シングル戦だけではなく2on2や3on3、さらに1on3や3on2など変則的な組み合わせもあり得ると言われた。
意外に思われるかもしれないが、この時点でAmaterasとSONOTAはまだ出会っていない。
つまり、僕は初対面の2人を繋ぎつつ、ゼロからこのチーム戦という仕事を構築する必要があったわけだ。
渋谷の喫茶店にて“初めて”3人で顔を合わせる。
ちなみに僕にとっては「破天共鳴 × KING OF KINGS」の前夜だ。
SONOTAは自他共に認めるくらいの人見知りであるため、まずはその氷を溶かすのが1日目の仕事だと思った。
しかしながらAmaterasが待ち合わせの時間になっても来ない。
「まあ、いつものことだから」
「そうなんですね」
Amaterasのキャラクターを知る人なら、あのひょうきんな性格は人見知りという壁を難なく超えていけると容易に想像できるだろう。
遅れてきたAmaterasは欧米人のように土足で入ってきて、前から友達だったかのように話し始めた。
「SONOTAちゃん、BAD HOPの東京ドーム行った?」
「行きました」
「あれ、ヤバかったよね! メンバーで誰が好き?」
僕の心配を他所に、Amaterasは軽々と初対面の空気感を打破していく。
「SONOTAちゃん、ラッパーだと誰と仲良いの?」
「私、友達いないんですよね」
「そうなんだ! じゃあ、今日から俺が友達だよ!」
詐欺師とその被害者みたいな顔合わせを終えてから予約していたスタジオに入る。
僕はバトルの練習を一切しない。
それは他の2人も一緒だったみたいで、フリースタイルすること自体が久しぶりだった。
軽く3人でサイファーをした上で、僕は戦略を練る必要を感じざるを得なかった。
あんまり偉そうなことは言えないが、バトルには独特の呼吸がある。
それは大喜利の大会で芸人さんがフリップを出す時の呼吸に似ている。
リズム感とか音楽性のさらに向こうの領域だと僕は勝手に定義している。
現役のラッパーだとNAIKAさんが一番秀でているやつだ。
大きい箱のイベントだと特にこの呼吸というものが重要になってくる。
その呼吸が2人にはまだ足りていない。
Amaterasに関しては、僕よりもラップ自体は上手いし、他人に心を開かせる才能がある。
それでもバトルにおいて呼吸の打率はまだそこまで高くない。
今のバトルシーンでお客さんからお金をもらうためには、8小節3本あったら最低でも3本はヒットを打たないといけない。
優勝者レベルになるとそれが6本ずつの世界になる。むしろ、減点方式でその6本からいかにマイナスをつくらないかの勝負になる。
作戦として1番オーソドックスなのはネタのラインを用意することだ。
しかし、これは諸刃の剣というか呼吸を間違えるとマイナスにしか作用しない。
バトルにおける戦術には、大きく分けて2つのアプローチがある。
ミクロな作戦と、マクロな作戦である。
ネタのラインを用意するのは前者に当たる。
これは映画の脚本に例えるなら、セリフだけを考える作業だ。(逆に向こうが言ってきそうなセリフを予測するという作業もある)
どれだけ名セリフを用意したところで、場面にそぐ合わなければ全く意味がない。
SONOTAはどちらかと言うと韻のストックで戦うタイプであるため、そういう意味で打率が不安定と言える。
しかも、バトルのお客さんはフィメールに対して集団心理的な壁をつくる傾向がある。
僕が選んだのはマクロな作戦だった。
映画の脚本で言うなら、プロットそのものを書き換えてしまうという大胆なものだ。
MCバトルの世界でこれをやっている人はあまりいない。
邪道中の邪道である。
キャッチーな言い方をすれば『パリピ孔明』みたいなことを実際にやってやろうという試みだ。
この決断に躊躇が全くなかったのには理由がある。
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