元技術者のイラストレーターが考える、生成系AIの実践と不可能性
2023.08.04
「戦極MCBATTLE 第30章 The 3on3 MATCH」。大番狂わせを起こしたハハノシキュウ自身が、あの日何が起きていたかをつぶさに解説。
かつて、ここまで克明にバトルに出場するMCの生々しい思考を記録した原稿はあっただろうか?
Photo by KK @kohkikanai
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結局自分がかわちい 世界で1番かわちい 僕なら唯一無二だから 世界のどこにもいないぜ代わりSONOTA「かわちい」
MCバトルに対するスタンスを改めようと思った。
確か5月の半ばに「戦極MCBATTLE 第30章 The 3on3 MATCH」のオファーがあって、その後に「Dis4U EPISODE8」やら「破天MCBATTLE 鬼7リーグ第二陣」のオファーが続いた。
ここ何年もパンパンの大箱で僕はバトルをしていない。だから「戦極MCBATTLE 第30章 The 3on3 MATCH」に臨むにあたって自分を鑑みる必要があったのだ。
僕の思うMCバトルに必要不可欠な要素は3つある。
・音楽的であること
・詩的であること
前者についてはスタイル的に諦めている。諦めているというよりは、後者の方にステータスを大きく振っていると言った方がいい。
それに僕は日本語でしか有り得ないオフビート感を宗教のように信仰している節がある。ラップを食塩水に喩えると、音楽的であればあるほど、食塩は目に見えないくらい水に溶けていく。そうなるとリリックの強度が保てなくなったりする。僕が好きなのは、食塩の固形部分を残したまま水の中で沈澱している言葉だ。
なぜこの2つが必要不可欠なのか?
MCバトルをティッシュ配りとするなら、この2つは内封された広告(アーティスト性)だからだ。MCバトルとは自分の店に客を呼ぶための手段なのだ。
ただ、問題なのは昨今のMCバトルにおいては「音楽的」であることも「詩的」であることも共にさほど重要視されていない点だ。
というかMCが各々の「店」を構えていることすらスルーされているような現状だ。まさにティッシュ配りのように。
そして最後の1つ。
・「問題提起」をすること
「問題提起」と言うと意見とか自己主張とか捉えられそうだが、要するに相手の魂に触れるような言葉だ。ボディータッチは禁止されているが魂に触れることは禁じられていない。もう少し砕いて言うと「相手の心を変えたいと思う気持ち」だ。
ところが、年々これがしんどくなってくる。
この文脈で言うなら僕の持つ「問題提起」は、「音楽的」でも「詩的」でもないラップをしている人間を否定することで、クリエイティブの尊さをバトルを観ている人たちに伝えたいという気持ちだ。
「問題提起」をすることの最大の魅力は「バチバチな試合」に発展しやすいという点にある。
しかしながら、FSLのGOMESSくんとミメイくんの試合を観て、僕は「問題提起」と向き合うことに疑問を感じてしまった。
目次
- FSLでGOMESSがミメイに問うたことの真意
- ハハノシキュウのスタンス──「問題提起」の限界
- ハハノシキュウが10年以上封印してきた、ある予感
- 「ラップスタア誕生」を経て、自分と真っ向から向き合った
- 「自分は天才だ」ということを、ハハノシキュウはいかにして自分に納得させたか
- RHYMEBERRYという因果と、こっちのチームのMU-TON
- 運命の分かれ道で、「何もしない」を貫いた
- 向こうのMU-TONが来た!
- あの日、ステージで起きていたこと──対「Fuck野郎充満」編
- 大将戦 漢 a.k.a. GAMI VS ハハノシキュウ
- VS「漢 a.k.a. GAMI」解説編
- 2回戦という鬼門
- VS「SAM」解説編
- 「かわちいーむ」の幕引き
- 「自分は天才だ」ということを、ハハノシキュウはいかにして確信したか
戦極30章を1つのゴールとするなら、この試合がスタート地点と言える。
ミメイくん個人に悪意があるわけではないのだけど、彼が今のバトルの1つの「象徴」になっているという認識が大きい上で、その「象徴」をディスることがシーン全体に対する「問題提起」になると僕は思う。
簡単に言うと「ラッパーとして活動する上で優先順位の1位にあたるものがバトルなのはおかしいんじゃないか?」という指摘だ。(本人からしてみたら実際は違うのかもしれないが「象徴」としてそんな風に思われている)
そして、GOMESSくんはおそらく僕と同じような思いを抱いていた。
「ミメイ、今夜指名したのは俺だ。お前にとってHIPHOPってのはなんだ? お前にとってラップをやっている理由ってのはなんだ?」
そんな彼の「問題提起」に対するミメイくんのアンサーは、僕の想像していたものと違った。
「ツイートで『受けて立つ』って言って、お前が指名した? 受けて立つのはどっちかな?」
これはMCバトル脳から来る論理展開と言える。
そして、彼は彼なりに「ラップが好きでやってる、だから何?」とGOMESSくんの問いにアンサーをするが、それで「はい、そうですか」と溜飲が下がるはずがない。
GOMESSくんは「その好きなラップを使ってどういうヒップホップをやりたいんだ?」という芯の部分を問おうとしている。
だけど、ミメイくんからすれば投げられたボールに対してアンサーを返したのだからバトル的には「もう終わった話だろ?」となる。
むしろ「SNSでは『受けて立つ』って言ってたのに、指名したって話が矛盾してる」という指摘に対するアンサーがないことに不満が募る。
仮にミメイくんが「バトル一筋でやってる奴が他にいないから俺がそれをやってる」くらいのことを言っていたらそれはそれで好感が持てたと思う。
結果としてバトル自体はGOMESSくんの勝利で幕を閉じたが、彼の「問題提起」がシーンに届いたかというと、残念ながら届いていないと思う。それどころか、ミメイくんが負けたことに憤っている人までいた。
「GOMESS全然アンサー返してないじゃん」
彼の魂に触れるような言葉よりも、細かい矛盾やロジックの方を重要視する人が想像以上に多かったのだ。
何より悲しいのは、このバトルがバトル以外の何かに繋がりそうとは到底思えなかったことだ。
これがMCバトルに対するスタンスを改めようと思ったきっかけだった。
別に僕はミメイくんのスタイルを否定したいわけじゃない。むしろ、言葉に重さ(アーティストとして結果を残している重さ、生い立ちやバックボーンの乗せた重さ)を一切乗せずに、ヘビー級相手でも言葉と言葉を組み合わせるスキルで勝ってしまうという、少年マンガ的な見方だとなかなか熱い戦い方をしていると思う。
今のMCバトルにおいて、彼のやり方が正解なのは数字が物語っている。
問題なのは「じゃあ、俺はどうすればいいんだ?」という自分の答えを僕が見つけられない状態にいることだった。
誰も受け取ってくれないティッシュを配り続けるほど、僕のメンタルは強くない。
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