日本の音楽文化には、プロ級の“チュートリアル”が足りない
2023.08.18
たとえば、あるレアカードをフリマアプリで高額出品し、自ら別のアカウントで落札後に取引をキャンセル。取引が成立していないにもかかわらず、アプリ上でそのレアカードは「SOLD OUT」と表示され、利用者にはあたかも“実際にその値段で取引された”かのように誤認させることができた。
M氏によれば、このように自作自演で市場価格を吊り上げる手口は珍しくないという。こうした動きもPSA10暴落騒動の一因とされる。しかし、それでもポケカバブルはまだまだ健在だ。
「PSAは査定に出すカードの価値によって鑑定料が変わってきて、高額カードだと鑑定料が十数万円かかる場合もあるけど、それでも今回の下げ幅を含めて十二分に利益がある計算です。
暴落と言ってもトータルだと全然負けてないからなんとも思わないし、群がってたイナゴが散ったなくらいの感覚(笑)。仮想通貨みたいなもので、ババ抜きじゃないけど高い時に掴まされた人が損をしたというだけ。そこまで悲観することではない」(S氏)
PSA暴落騒動をへても、2人は依然、投資としてのポケカ市場は手堅いと続ける。
「みんな面倒くさいことが嫌いだから、自分でカードを集めてPSAに出すということをしたくない。でも、まめにPSAに送れば資産価値が何倍にもなって返ってくる世界なので、やり方さえ間違えずに王道を進めば今のポケカバブルが続く限り、投資家としては負けません。
落ち着いて考えれば誰でもわかることだけど、精神面や金銭面などに余裕のない人はそれすら考えられない。だからTwitter(現X)で『リーリエの全力PSA10を80万円で買ったけど暴落した、助けてください』みたいな、ネタなのかガチなのかわからないつぶやきが話題になる(笑)」(M氏)
シオさんを信じてリーリエの全力のpsa10を80万円で購入しました。この80万円は彼女や消費者金融に頭下げて借りてきたお金です。
現在の値段は30万円です。
当然お金は返すことができず、本当に困っています。彼女からは絶縁されました。
来月の支払いできませんどうすればいいですか#ポケカ投資家 pic.twitter.com/vgGmTfqVg6— タコ太郎キング (@Takotarou10) June 18, 2023
PSA10の値段は6月末以降、安定はしていない。1150万円での販売実績がある「がんばリーリエ」は8月現在、その1/4ほどの300万円ほどで取引されるようになっている。そもそもが吊り上げられすぎていたとしても、ピーク時の価格で購入した店舗や個人には大打撃だろう。
「あるカードの値段が落ちても、ほかの美品カードがあれば十分に取り返すことができる。安易に流行りに乗らなければ、どこかで取り返せる形にはなっていると思う。だから、僕はもう基本的に絶版のカードしか買わないようにしています。『ポケモン』という世界的に人気のIPが潰れない限り、価値としては上がっていくしかないはずなので。
商売として考えても、少なくとも今のバブル下ではオイシい。僕の知り合いだと、秋葉原のショップを回ってオリパを購入して買取金額が高い別の店で売る……という売り買いを1日500〜1000万円規模で行うだけで粗利として10%取れると言っていた。だから、商売としてポケカ転売業を仕事にしている人もいるでしょうね」(S氏)
2人が語るように、ポケカの熱はいまだ冷めやらない。その結果、ポケカ投資という界隈は肥大化する一方だ。
投資で重要となるのはいかに情報を早く得るのかということだが、こうした情報は主にTwitterやLINEのオープンチャット、Discord上で交わされており、中にはM氏が前述したような価格の”吊り上げ師”を名乗る輩までいるという。
「Twitterやポケカ投資向けのLINEオープンチャットの中には、『これからこのカードの値段を吊り上げます』と宣言するやつもいて、僕はその動向を見てます。実際にその動きに乗っかる人もいますね。
ほかにも、YouTuberのヒカルさんといった発言力を持った人間、インフルエンサーが言及するだけで高騰するカードもある。株の世界にも“吊り上げ師”はいますが、ポケカも面白い世界だと思って見ていますよ。
オープンチャットにも『高額者専用』『有料会員専用』『無料で入れる』と何段階かあって、まず『高額者専用』に情報が流れて買いに動いた後、『有料会員』にそのカード高騰の情報が流れる。そして、最後に『無料で入れる』オープンチャットに情報を流していく。そうすると、上のグループが売り抜けて利益を得ていくことになる」(S氏)
結局、投資額に余裕がなく明日の金ほしさにポケカ転売に手を出しているような転売ヤーたちはいいように利用され、相場に大きな影響力を持つ者たちの養分になっているという図式も見え隠れする。
LINEのオープンチャットは利用規約で原則として営利目的での利用を禁止しているが、別サービスでの決済で会員を管理することでポケカ投資のオンラインサロン的に運用されているそうだ。こうしたオープンチャットの運営を指して、M氏も「実質、情報商材と変わらない」と苦笑する。
「ほかにも、オープンチャットで知り合った人から大量転売の話を聞いたこともありますよ。ポケカ転売は大抵シュリンク付きのボックスで行われますが、メーカー希望小売価格6000円前後の1ボックスが日本だと1万円強で販売されていても、海外では1万5000円弱で買い取ってくれるんだとか。
なので、アジア圏の外国人を雇って人海戦術で日本のショップで多少高くてもシュリンク付きボックスを1000箱集めれば、海外との差額約3000円×1000でおよそ300万円の利益になる。PSA申請なども何もせず、新弾が出るたびにボックスを海外に流すだけで儲かるんです」(M氏)
この背景には、円安はもちろんだが“日本のポケモンカード”の海外需要がある、と両氏。ポケカは全世界的に展開されているが、そもそも『ポケモン』自体が日本発のブランドであり、国内外問わずコレクターは“日本のポケモンカード”に特に価値を感じるのだという。
また、印刷品質についても日本製のカードは質が良く、日本語版ボックスの需要が高い傾向にあるそうだ。印刷する国による品質の違いはほかのTCGでも話題になることがあり、よりキレイなものの価値が上がるコレクター市場とは切っても切り離せないものなのだろう。
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