大奥という因習村を今描く必然性 『モノノ怪』中村健治監督インタビュー
2024.11.16
本稿は、Webメディア「KAI-YOU」にて2026年6月に公開された記事を再構成したものです。
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TVシリーズから17年の時を経て始動した「劇場版モノノ怪」三部作が、5月29日(金)公開の『劇場版モノノ怪 第三章 蛇神』(読み:へびがみ)をもって遂に完結する。
2024年公開の第一章『唐傘』、2025年公開の第二章『火鼠』というハイペースで公開されてきた劇場版シリーズ。そのスピード感ゆえに現代の世相を鋭く切り取り、大奥という怨念渦巻く世界で奔走する複雑な人間模様とドラマを、華やかなアニメーションの映像美で描いてきた。
150年前の大奥誕生の秘密を描く今作では、シリーズを誕生から支える中村健治総監督の元、越田知明監督が参加。難しい挑戦ながら「途中からの変貌が凄まじかった」と中村総監督が評するほどの急成長で、シリーズに新たな刺激をもたらした。
薬売りの声を担当する神谷浩史さんをはじめ、日本を代表する実力派声優陣の大熱演もシリーズの大きな見どころ。今作では数々の人気キャラクターの声優をつとめる沢城みゆきさんが初参戦。尋常ならざる熱意で、事件の大きな鍵を握る三代目御台所(みだいどころ)に魂を吹き込む。
「劇場版モノノ怪」は、三部作という大きなスケールで「合成の誤謬(ごびゅう)」というテーマに向き合い続けてきた。集団と個人の“正解”が食い違うという絶対の真理との戦いに、最終章でいかなる決着をつけたのか。
※この記事には『劇場版モノノ怪 第三章 蛇神』の結末部分に関するネタバレが含まれます。
取材・文:オグマフミヤ 編集:恩田雄多(KAI-YOU)
目次
- 「この続きを自分が?」ファンも尻込みする唯一無二の世界観
- 鬼気迫る沢城みゆきの芝居アプローチ、スタッフにも緊張が走る
- 大御所声優による壮絶な舌戦、種﨑敦美の芝居に脱帽
- 現代で売れる映画の考え方と「モノノ怪」の哲学
- 「モノノ怪」は現代に集団と個人のズレを問い続ける
──越田監督は「モノノ怪」好きが高じて抜擢されたそうですね。
越田 ツインエンジンのグループ会社であるスタジオカフカの人たちと飲んでる時に「『モノノ怪』好きなんです」みたいな話をしたら、「うちの会社に仕事来てますよ」って言われて、監督をつとめることに繋がりました(笑)。やっぱり好きなことを言葉にするのって大事なんだなって思いましたね。
中村健治総監督(左)と越田知明監督(右)
──シリーズファンとしてはここまでの劇場版の盛り上がりをどうご覧になっていましたか?
越田 第一章と第二章で作品のすごさを感じていたので「この続きを自分がつくるのか?」と尻込みしていました。なので、シリーズのファンとして最終章を純粋に楽しむことはできなかったです(笑)。
──三部作のクライマックスに監督として参加という難しい立場ながら、中村総監督は「途中からの変貌が凄まじかった」と評されていました。具体的にどのような変貌があったのかうかがえますか?
中村 「モノノ怪」という作品はTVシリーズと劇場版でも大きく違っているので、TVシリーズがそのまま参考になるわけでもなく、オリジナルなので原作も参照できない。越田さんからすると、参加するにあたって入れなきゃいけない知識や理解しないといけないことがあまりにも多かったんです。
『劇場版モノノ怪 第三章 蛇神』メインビジュアル
越田 これまでもアニメ制作に関わってきたので、アニメ制作そのものの流れやノリはわかっていますが、「モノノ怪」という作品はあまりにも唯一無二のものなので、今までのやり方がそのまま通用するという感じではなかったんです。
これまでのシリーズの雰囲気を真似しようとしてもできないですし、最初のうちはとにかくやれることをやるしかないと思って頑張っていました。そうやってやり取りを重ねるうちに「モノノ怪」のやり方を吸収していった感覚です。
薬売り(CV:神谷浩史さん)。モノノ怪を斬り祓う力を持つ「退魔の剣」を携える謎多き存在
中村 最初のうちはやっぱり余裕がない感じがありました。でも越田さんのすごいところはとにかく大らかなところで、普通なら「やってられるか」と投げ出しそうになるところでも「頑張ります」ってポジティブに捉えてくれるんです。
そうやってだんだんフィットしていき、ある地点を越えたところからはもう見違えるようで、最終的には越田さんが「モノノ怪とは」って語りはじめるようになってました(笑)。
越田 もちろん大変だとは思っていたんですが、中村さんのこの尖った思想に付き合うことで得られるものは大きいと思いました。それに、この経験は絶対に宝物になるという確信があったので、頑張り続けることができました。
──シリーズへの途中参加という意味では、三代目御台所役の沢城みゆきさんの芝居も印象的でした。
越田 ご本人もかなり気合いが入ってましたね。事前の準備もすごくされていましたし、現場でも収録を進めながらどんどん気持ちが盛り上がっていってるのがわかりました。最終的には「大奥ぶっ潰したくなってきました!」って言ってました(笑)。
物語の鍵を握る三代目御台所(CV:沢城みゆきさん)。劇中における過去の時代に登場するキャラクター
中村 「リテイク何回でも大丈夫です!」とも言ってくださってたんですが、とにかくどのセリフも素晴らしいので、僕らはどんどんOKを出したんです。
そしたら「帰れないくらいのつもりで来たのに、なんでポンポン進んじゃうんですか!」みたいに言われてしまって。なんでと言われても、とにかく素晴らしいからとしか言えなかったんですが(笑)。
越田 本当にとにかくよかったですからね。質問もたくさんしてくださってました。
中村 たとえば「三代目天子(※編注:幕府の象徴かつ世を統べる最高位)に対する愛情は内から出るものなのか、外から出るものなのか?」のような、僕らも返事を慎重に考えないといけないような質問をされるので、かなりハラハラした部分もありました。その緊張感も楽しめたと思います。
やり取りをして考え方が変わると、芝居もガラッと変わるんですが、その変わり様もすごかったです。まるで舞台の稽古のようというか、独特な方法で芝居を構築されていて感銘を受けました。
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