再来する、ボーカロイドの新たな〝うねり〟
2019.04.05
『初音ミクはなぜ世界を変えたのか』(太田出版)の著者である音楽ジャーナリスト・柴那典。彼が分析する、2020年代のボーカロイド(VOCALOID)曲における音楽的な独自性とは──?
柴那典による「MUSIC AWARDS JAPAN 2025」最優秀ボーカロイドカルチャー楽曲賞の分析
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2020年代は、ボーカロイドカルチャーの新たな黄金期だ。改めてそう感じている。
5月21日に開催された国内最大規模の国際音楽賞「MUSIC AWARDS JAPAN 2025(以下MAJ)」の授賞式・Premiere Ceremonyで「最優秀ボーカロイドカルチャー楽曲賞」が発表された。MAJは、日本の音楽業界主要5団体が設立した一般社団法⼈カルチャーアンドエンタテインメント産業振興会(CEIPA)が主催する。2025年が初の開催だ(外部リンク)。
ノミネートされたのは、原口沙輔「イガク」、吉田夜世「オーバーライド」、黒うさP「千本桜」、柊マグネタイト「テトリス」、サツキ「メズマライザー」の5曲。「最優秀ボーカロイドカルチャー楽曲賞」にはその中から「千本桜」が輝いた。
受賞した「千本桜」はボーカロイド(以下、ボカロ)リスナー以外の一般層からの知名度もある一曲だ。ただ、ここで語るべきはすでに“ボカロクラシック”となった「千本桜」についてよりも、現在のボカロシーンを象徴するような他ノミネート4曲についてだろう。
目次
- 原口沙輔、吉田夜世、柊マグネタイト、サツキがノミネート──いまなお日本の音楽シーンの”特異点”にあるボカロ文化
- 「過剰の美学」──が現代のボカロシーンにおける音楽的な独自性
- 4曲の共通点=重音テトの起用と歌詞に表れる“ポップでカラフルな地獄”
「MUSIC AWARDS JAPAN 2025」最優秀ボーカロイドカルチャー楽曲賞ノミネート作品/画像は公式サイトより引用
「最優秀ボーカロイドカルチャー楽曲賞」のノミネート曲は、ドワンゴ主催のイベント「The VOCALOID Collection(以下、ボカコレ)」のランキング企画とBillboard JAPANの音楽チャート「ニコニコVOCALOID SONGS」から選出された計100曲をもとに、ボカロP、クリエイター、関連企業、プラットフォーム、配信事業者など総勢200名以上による一次投票によって選ばれた5曲だ。
MAJの最終投票はアーティストやクリエイター、レコード会社スタッフ、コンサートプロモーター、音楽出版社、海外音楽賞審査員など、各分野の音楽関係者で構成される5000名以上によって行われた。
ノミネートされた5曲のうち、黒うさP「千本桜」は2011年発表の楽曲だが、原口沙輔「イガク」、吉田夜世「オーバーライド」、柊マグネタイト「テトリス」、サツキ「メズマライザー」はいずれも2023年末から2024年に発表された楽曲だ。この4曲はどれもニコニコ動画で話題を集めたりYouTubeでかなりの再生回数を記録したりしている。他にも人気曲は多いし、個人的にはDECO*27「ラビットホール」がノミネートされてもよかったのではないかと思ったりもするが、少なくともこれらが現在のボカロシーンを代表する楽曲であるのは間違いない。
そしてこのラインナップが示すのは、とても良い意味で、いまなおボカロシーンが日本の音楽シーンにおける“特異点”であり続けている、ということだ。
原口沙輔(※)、吉田夜世、柊マグネタイト、サツキの4名は、みな2019年以降に活動を開始したボカロPだ。今のボカロシーンにおいて特筆すべきことのひとつは、新たなボカロPが次々と登場し、脚光を集めているということ。黎明期から活躍するベテランばかりではなく、むしろ若い世代のクリエイターが人気を獲得している。新たな才能が飛躍を果たしている背景には2020年にスタートした「ボカコレ」が定着しランキング企画がシーンの活性化に寄与したことも大きいだろう。
(※)原口沙輔はSASUKE名義で2018年から活動しているが、ボカロPとしては2023年デビュー
2020年代の今、ボカロシーンとJ-POPのメインストリームは深く結びついている。Adoのようなボーカロイド文化をルーツに持つ歌い手出身のアーティスト、YOASOBIのAyaseなどボカロPとしてのキャリアを持つアーティストが、日本のみならず世界中に人気を広げている。
ただ、「最優秀ボーカロイドカルチャー楽曲賞」にノミネートされた「千本桜」以外の4曲は、そういう“J-POPとボカロシーンの接続”を象徴するような曲ではない。
むしろその逆で、いわば“ボカロシーンの独自性”を象徴するような曲になっている。これらの楽曲からは新たな才能が次々と登場し特異な進化を続けているボカロカルチャーの現在形が見てとれる。
では、今のボカロシーンの音楽的な独自性はどこにあるのか。どういうところが特異なポイントなのか? 筆者はそれを「マキシマリズム(過剰主義)」という言葉で説明できるのではないかと思っている。
※記事初出時、一部記述に誤りがありましたのでお詫びして訂正いたします
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