Interview

Series

  • 2025.03.23

VTuberの二次創作は「ナマモノ」になる? AI生成は許される? 令和の同人文化を法的に解説

VTuberの二次創作は「ナマモノ」になる? AI生成は許される? 令和の同人文化を法的に解説

芸術活動を支援する「骨董通り法律事務所」に所属する寺内康介弁護士の協力のもと、連載中の「ポップカルチャー×法律 Q&A」シリーズ。

第7回は「二次創作と著作権」を取り上げる。近年、AIの普及もあり二次創作のハードルが下がり、ガイドラインを明確に制定する企業も増えている。任天堂集英社といった大手企業だけでなく、カラーが「『エヴァンゲリオン』シリーズのファン創作物の公開に関するガイドライン」を制定したのは2020年末のことだ。

しかし、ガイドライン違反で損害賠償を求めるケースは、一般的には耳にしない。そんな中、VTuberグループ・ぶいすぽっ!運営が2025年1月、性的表現のあるイラストを販売し著作権侵害を繰り返していた人物と「示談が成立した」と発表。示談内容には「損害賠償金として2000万円の支払義務」が含まれ、「かつその一部として250万円の支払いを遅滞なく完了すれば残部の支払義務を免除する」という条件も明かされた。

そこで今一度、昔から存在する二次創作による同人文化と著作権法の関係を整理し直そう。実は、「二次創作はすべてグレー」というわけではない

損害賠償額の考え方を踏まえると共に、「VTuber」や「生成AI」といった新しい課題など、クリエイターが知っておくべき法的知識について、寺内弁護士に解説してもらった。

目次

  1. Q1. 二次創作は著作権侵害なのに、なぜ同人文化が成立しているのか?
  2. Q2. 二次創作のイラストはどこからが著作権侵害になるのか?
  3. Q3. ガイドラインの法的意義と効力はどのようなものか?
  4. Q4. ぶいすぽっ!の損害賠償額はどう算定されたのか?
  5. Q5.二次創作を巡る裁判は、日本ではどれくらい起きているのか?
  6. Q6. 実在人物やVTuberの二次創作「ナマモノ」は法的には危険なのか?
  7. Q7. AIが普及する中で「二次創作の未来」はどうなるのか?

Q1. 二次創作は著作権侵害なのに、なぜ同人文化が成立しているのか?

Q1.まずは著作権法の基本的な考え方について、二次創作において、違法なものと適法なものが存在するのでしょうか? また、仮に著作権侵害の二次創作であっても著作物としても認められるのでしょうか?

ひとまず「二次創作」を定義すると、既存の作品(原作)のキャラクターや世界観をもとに新たな作品を創作することと言えますが、法的な観点から見ると、二次創作において「違法になりやすいもの」と「違法になりにくいもの」は存在します

わかりやすいポイントは、「キャラクターの絵柄・デザインが類似しているかどうか」です。キャラクターの絵柄が類似する場合、基本的には著作権者の許諾が必要であり、得ていない場合はイラストについて著作権侵害の恐れがあります。

これに対し、原作キャラクターの絵柄を使わず、キャラ設定だけを借りてオリジナルストーリーをつくるような場合は、侵害にはなりにくいと言えます。なぜなら、「概念的なキャラクター」つまりキャラクターの絵柄ではなくキャラクターの概念・設定は、あくまでアイディアに留まると考えられ、こうした概念的なキャラクターだけを借りる場合はアイディアの利用であって著作権侵害でないためです。

もちろん、作品のストーリーにも著作権はあるため、ストーリーの類似は著作権侵害にはなるのですが、舞台設定をかなり変えたオリジナルストーリーであればストーリーの類似にもなりにくいでしょう。いわゆる続編ものについても議論はあり、海外の裁判所では続編小説を差し止めた例などもあるのですが、日本の考え方ですと、アイディアの借用に留まる場合が少なくないと思われます。

なお、固有名詞自体は著作権法で保護されないため、たとえば「ルフィ」という名前のキャラクターを別の作品で登場させたり、実在の企業名やブランド名を作品内に登場させたりしても、著作権侵害にはなりません。商標権との関係でも、あくまで作品の中に企業名・ブランド名を登場させることでは、その企業・ブランドがその作品を出しているとは誤解されないため、商標権侵害も考えにくいです。

したがって、作中での固有名詞の利用は基本的に可能です。実際の商業作品においては固有名詞をもじるような表現に留めたり、一部分を変えたりしていることがありますが、これは法律との関係というより、制作者側の配慮によるところが大きいでしょう。

このように、ひとくちに二次創作といっても、著作権侵害になりやすい類型と、なりにくい類型があると言えます。また、著作権侵害になりうる場合でも、次の1または2のケースは適法となります。

1.私的な複製・翻案に留まるもの:二次創作を自分だけで楽しむ、ごく親しい友人にだけ見せるといった場合(著作権法では、私的な複製や翻案は例外的に著作権者の許諾なく可能。ただし、インターネットへアップロードする行為はこの例外に当たらず、原則通り許諾が必要)

2.権利者の許諾を得ているもの:二次創作ガイドラインに沿ったものを含む

なお、同人誌では、「無料で配布される場合」と「有料で販売される場合」があるかと思います。無料であればOKかと聞かれることもありますが、あくまで先ほどの1、2のパターンに当たるかが問題になります。

例えば、1の私的複製・翻案に当たるかについては、たとえ無料であっても「不特定の人」または「多数の人」に配布をすれば、私的な範囲を超える、つまり私的複製・翻案でないと判断されます。また、2のガイドラインに適合するかについては、ガイドラインが営利目的を禁止している場合は、有料販売はガイドラインの範囲を逸脱しているとなります。

そして、二次創作に二次創作者のオリジナル要素が認められれば、その部分について二次創作者の著作権が発生しますが、日本の著作権法では、たとえ原作者の許諾を得ていない違法な二次創作であっても、二次創作者のオリジナル部分については二次創作者の著作権が認められるのです。

この点について、界隈で話題となった知財高裁令和2年10月6日の判決があります。二次創作同人誌を他者が無断でWebに公開した事件です(参照)。

被告は「元々が著作権侵害である二次創作なのだから、損害は発生しない」と主張しましたが、裁判所は、仮に当該二次創作について著作権侵害の問題が生じる余地があるとしても、二次創作者によるオリジナル部分には二次創作者の著作権が発生しており、二次創作を無断で公開されたことに対して著作権侵害に基づく損害賠償ができると認めました。

Q2. 二次創作のイラストはどこからが著作権侵害になるのか?

Q2. キャラクター自体は「アイディア」として保護されず、イラストは「著作物」として保護されるため似ているか異なるかどうかが問われてくると。ではその実務上の判断基準を教えていただけますか?

二次創作のイラストが原作と「異なる」場合のセーフライン判断については、一般的に「類似性」の問題として捉えられます。これは二次創作特有というわけではなく、いわゆるイラストの類似性一般の問題です。

  • 800本以上のオリジナルコンテンツを読み放題

  • KAI-YOUすべてのサービスを広告なしで楽しめる

  • KAI-YOU Discordコミュニティへの参加

  • メンバー限定オンラインイベントや先行特典も

  • ポップなトピックを大解剖! 限定ラジオ番組の視聴

※初回登録の方に限り、無料お試し期間中に解約した場合、料金は一切かかりません。

法人向けプランはこちら
10日間無料でおためし