善悪を越え、ただそこに”在る”だけ『ミッドナイト・ゴスペル』
2020.06.23
※本記事では取材対象者自身の薬物使用経験について言及します。個人の体験やインターネット上の情報は、薬物の安全性を保証するものではありません。また、薬物の作用や依存リスクには大きな個人差があります。
「ダメ。ゼッタイ。」という標語に象徴される、ゼロ・トレランス(=不寛容)的な薬物乱用防止政策の陰で、日本の薬物情勢は確実に変容している。
若年層における市販薬の過剰摂取(=オーバードーズ、OD)、SNSを介した大麻の流通拡大、合成カンナビノイドを含む危険ドラッグの普及、コカインの増加──薬物問題は、もはや我々の日常や都市生活のすぐ隣へと忍び寄っている。
しかし、強い規範意識や厳罰主義/懲罰主義(※1)のもと、薬物がタブー視されてきた日本において、その実践やドラッグ・カルチャーを真正面から言語化する試みは決して多くない。
欧米諸国と比較し、日本は薬物乱用状況が非常に低い水準となっている一方、薬物が根絶し得ない現実がある。それならば、必要なのはリスクや知見を不可視化することではなく、それらの共有──すなわち、当事者自身が身を守るための「ハームリダクション(※2)」の視点ではないか。
もちろん、海外の政策議論をそのまま輸入するだけでは不十分だろう。かといって、厳罰や処罰で不可視化し、「ダメ。ゼッタイ。」と唱え続けるだけでは、水面下での過剰摂取事故や社会からの孤立を防ぎきれない現実もある。
いま必要なのは、当事者をただの犯罪者として切って捨てるのではなく、「すぐ隣にいる当事者がどう生きて(サバイブして)いるのか」というリアリティを直視し、害やリスクを最小限に抑える知恵を共有することではないだろうか。
本稿では、Xなどで独自の視点からドラッグカルチャーを発信し続け、自身の逮捕や海外での生死の淵をも経験してきた当事者・ぱるまこん氏を迎える。
ぱるまこん:コミュニティ・さいばーひっぴーの発起人。薬物と丁寧な暮らしの両立を試みたシェアハウス・瘋癲堂の元住人。大麻所持での勾留記など、自身の体験を書いている。
覚醒剤(=メタンフェタミン)、ヘロインなどの過酷な現実、サイケデリックス(=幻覚剤)と自己変性の軌跡、そして日本における「ドラッグ語り」の可能性とは──タブーの向こう側にあるリアルを解き明かす。
(※1)厳罰主義/懲罰主義:犯罪者の教育や更生よりも処罰を与えることに重きを置く考え方
(※2)ハームリダクション:薬物使用に伴う健康被害や社会的被害(ハーム)の軽減を目指すアプローチ。近年、国連やWHOなど国際機関では、薬物政策を刑事司法に偏ったアプローチから公衆衛生/人権を重視する方向へと再均衡させる動きが進んでいる。なお、「人権と薬物政策に関する国際ガイドライン」では、健康への権利の一環として、薬物使用に伴う害を防止/軽減する情報にアクセスする権利も示されている。
目次
- すべては毒にも薬にもなる──ドラッグ文化の当事者に直撃取材
- 逮捕されてもドラッグを辞めようとは思わなかった「悪いことはしてないつもり」
- ぱるまこん、アメリカで大麻と出会う「日本で誘われてたら断ってた」
- Xの薬物界隈とその変遷──JNKMN逮捕騒動、脱法ドラッグコミュニティの縮小
- ヒップホップクルー・舐達麻がドラッグコミュニティに与えた衝撃
- 「ageHa」に通い詰めた過去──クラブシーンのドラッグ文化
- ドラッグに関する情報源との向き合い方──害を最小化するために
- ソフト/ハードの線引きは?ドラッグ遍歴とその向き合い方について
- 「エゴ・デス」よりも恐ろしい「フィジカル・デス」の一歩手前
- 日本のドラッグ語りの未来「議論することまでタブーにする必要はない」
- 「ハームリダクション」の理想と、理想論だけでは語れない世界の現実
──ぱるまこんさんが、「サイバーヒッピー」を掲げてドラッグカルチャーに関する発信をはじめたのは、どういった経緯だったのでしょうか?
ぱるまこん もともと、知り合いと「サイバーヒッピー」というコミュニティをつくろうって話をしていて。「サイケデリックスをやってもいいシェアハウス」というプロジェクト・瘋癲堂を立ち上げたのがきっかけ。
自認としては、半グレのように薬物をビジネスにする“悪さ”をしているわけじゃないし、麻薬密売人(=プッシャー)でもない。ただの一般人が、幻覚剤や大麻をやるライフスタイルを世の中に提唱したら面白いんじゃないかっていうのが発端だね。
「そういうカルチャーを『サイバーヒッピー』って名付けよう」「自分たちだけでドラッグを享受しても広がりがなくて面白くないから、『サイバーヒッピー』という概念を広げるゲームをしよう」って。その流れで、瘋癲堂のメンバーが各々、Xのアカウントをつくったんだよね。
──ぱるまこんさんは、当初「きねめこ」というアカウント名で、XやTumblrで発信活動されていましたね。
ぱるまこん キメねこさんっていう有名なドラッグのレポート漫画を描いている人がいて。ドラッグによるトリップ(=精神活性物質による変性意識体験)をコミカルに視覚表現に落とし込んでいて、すごいバズってたんだよね。
『キメねこの薬図鑑』/画像はAmazonより
ぱるまこん 僕にはキメねこさんと違って、絵を描く技術とか才能はない。ただ、文章で表現するのはできそうだなと思って、XとかTumblrとかで発信することにした。
もともと、映画業界を志してたこともあって、脚本とかストーリーテリングとかの勉強はしてたんだよ。
──最初アカウントを見たとき、キメねこさんのサブアカウントなのかと思いました。
ぱるまこん いきなり「サイバーヒッピー」の看板を掲げすぎると、カルト宗教臭くなっちゃうじゃん。だから、いやらしい話なんだけど、HIKAKINさんに対するデカキンさんみたいに、キメねこさんにあやかって名前をお借りして、「サイバーヒッピー」も隠して活動することにした。
本家のキメねこさんはトリップのざっくりとした流れを漫画にしていたんだけど、自分の場合は、ドラッグひとつひとつで起きる瞬間瞬間の経験を具体的に書いていった。いわゆるトリップレポートだね。
──2026年10月現在、ぱるまこんさんのフォロワー数は約2.3万人います。フォロワー数が増えたきっかけを教えてください。
ぱるまこん 最初、トリップレポートを書いていたときは全然フォロワー数が伸びなくて。その後、高をくくってたら大麻所持で逮捕されちゃってさ。まあ、インターネットで発信活動していたのが逮捕されたきっかけではなかったんだけど。
で、捕まった時の話が一番面白いんじゃないかと思って、釈放された後、そのレポートブログをSNSに投稿したんだ。そしたら、それをきっかけにフォロワー数が増えて。
大麻を所持していたら警察に見つかったときのレポ(1/3) https://t.co/Q9iDNAzwpe
— ぱるまこん (@kine_meko) March 2, 2022
ぱるまこん 何回かに分けて投稿してたんだけど、回を増すごとに読者が増えていったね。
──本家のキメねこさんには、怒られなかったのでしょうか?
ぱるまこん 最初名前を決めたときは「バズったら迷惑かかるかも」という視点が完全に抜け落ちていたから、フォロワー1万人を超えた辺りで、さすがに僕もマズいなと思った。
──名前を借りておきながら、逮捕されたことで話題を集めたわけですからね。
ぱるまこん 結構な迷惑行為だよね。そしたら、本家のキメねこさんがリポストしてくれて。そのタイミングで「申し訳ございません。勝手に名前使っちゃってます。パクっちゃってます」って連絡したの。
そしたら、もう「全然面白いですよ」って返してくれた。最初は、「サイバーヒッピー」という概念を広めるためにはじめたんだけど、いまは自分の文章がそうやっていろんな人に読まれて反応されること自体に、モチベーションは感じはじめていて。
ちなみに、逮捕されたときの話は、すでに最後まで書き終わってて、いつかお披露目できればと思ってる。
──では「きねめこ」から「ぱるまこん」に名義を変えたのは、どういった理由なのでしょうか?
ぱるまこん 最近、フォロワーが増えてきて、ドラッグに対してリテラシーが高くない人たちにまでポストが届くようになってきちゃって。
自分は一応、注釈とかも気を遣って入れているんだけど、そういうところを読んでないだろう反応も増えてきて。それで、ドラッグとか、そのユーザーとかに対する偏見や差別が広まっているなって。
「ぱるまこん」っていう名前は、古代ギリシア語で「薬」と「毒」という正反対の意味を同時に併せ持つ、両義的な言葉/概念なんだけど。それはドラッグ自体もそうだし、自分の発言内容もそうだぞっていう──ある種の責任逃れみたいな意思表示として、いまの名前に変えた。
──先ほど仰られていましたが、大麻所持で実際に逮捕された経験もあるんですよね。法律に違反していることや、あるいは逮捕されるリスクがあることについては、ご自身の中で罪悪感や不安などはないんでしょうか?
ぱるまこん 完全に自分ひとりで完結してた時とか、仲間内だけで楽しんでた時とかは、それらを全部引き受けてるつもりでいた。仮に捕まっても、その覚悟はしてるというか。
そもそも、自分自身としてはドラッグで意識を変性させてるだけで、別に悪いことはしていないつもりだからさ。「ドラッグを禁止している法律が悪い」「それを取り締まって拘留したり、前科をつけたりするなんて、人権侵害だろ」と、いまでも思っている。
でも、実際に捕まったときに、法律が悪いと主張したところで、周りに迷惑は掛かるわけで。だから、そのリスクまで引き受ける覚悟は持っておいた方がいいなとは思う。
──逮捕されて「もうドラッグはやめよう」とは思わなかったのでしょうか?
ぱるまこん やめようとは思わなかったね。そもそも、ドラッグによる意識の変性自体にすごいハマってたのはある。
自分の中では、まだまだ序の口だと思っていて。捕まった当初はまだ、キノコ(=マジックマッシュルーム)とか、さらに強い幻覚作用を持つジメチルトリプタミン(DMT)とかも使ったことがなかったから。
自分は好奇心旺盛な方だから、体験しないとやめられないし、やり切るのが人生の目標でもある。サイケデリックスを1回でも体験したことある人ならわかってくれると思うんだけど、海外旅行に近いんじゃないかな。
どこでもいいんだけど海外に1回行ってみたら「他の国にも行ってみたい」ってなるでしょ。僕もはじめて海外に行ったとき、「日本とはこんなに違うんだ」と刺激を受けて、もっと違う文化に触れてみたくなった。それで実際、いろんな国を旅するようになったし。
だから、大麻をやったら「LSDやキノコはどうなんだろう?」と思うのは、僕の中で自然な発想だったんだよ。
──これまでのドラッグ遍歴を教えてください。
ぱるまこん 最初は大麻。そこから、LSD、MDMA、マジックマッシュルーム、幻覚成分のメスカリンを含むサボテン、ケタミン(=解離性麻酔薬)、コカイン、DMT、メタンフェタミン(=覚醒剤)。あとはカチノン(=覚醒剤に似た興奮作用を持つ薬物の一種)とか2C-B(=幻覚剤の一種)とか、チャンガ(=DMTなどを含む喫煙用のハーブ混合物)とかもやったかな。
最近、インドに行ってヘロインとアヘンも経験したよ。
他には、コデイン(=オピオイド系の鎮咳/鎮痛薬)とか、あと市販薬系だとせき止め薬のブロン、メジコンのオーバードーズもやったし。処方薬だと、睡眠導入剤のマイスリーとか神経障害性疼痛などに用いられるプレガバリンもやったことあるな。
── そもそも、ドラッグとはどのように出会ったのですか?
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