Interview

  • 2021.12.01

押井守監督インタビュー「銃を撃っても誰も死なない世界にストレスが溜まった」

押井守が繰り返し描く“戦争”と“痛み”。そのテーマは、常に時代の心臓部をえぐり取ってきた。

※本校は、2015年に「KAI-YOU.net」で配信されたインタビューを再構成したもの

押井守監督インタビュー「銃を撃っても誰も死なない世界にストレスが溜まった」

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アニメ『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』や『機動警察パトレイバー』はじめ、数々のアニメ・実写作品を手がけ世界的に支持を集める押井守監督。

2015年には、押井監督による実写映画『東京無国籍少女』が上映された。

とある女子高を舞台に、これまで押井監督が避けてきた実写による直接的な暴力や性描写が描かれている。

「東京無国籍少女」新トレーラー

今や押しも押されもせぬ人気女優になっている清野菜名さんが、初主演作品にしてハードなアクションに挑戦していることでも話題を集めた。

2015年といえば、押井監督が陣頭指揮をとった『機動警察パトレイバー』実写版プロジェクトが終了したばかり。

歯に衣着せぬ発言で知られる押井監督が語った、本作で新しい手法に挑戦した真意や現代を取り巻く空気感をどう切り取ったか。そして、今なおカルト的な人気を誇る『機動警察パトレイバー2 the Movie』と本作との共通点とは?

本インタビューは、「東京無国籍少女」の公開を目前に控える押井守監督にインタビューした内容を記録したものとなる。

目次

  1. 『パトレイバー2』の時より事態は悪化している
  2. 銃を撃ちまくっても誰も死なない世界にストレスが溜まった
  3. アニメの専売特許をいかに実写で実践するか
  4. 主演・清野菜名の尋常ならざる殺気

『パトレイバー2』の時より事態は悪化している

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──『東京無国籍少女』は、2012年に押井監督が審査員長をつとめたコンペティションで審査員特別賞を受賞した山岸謙太郎さんの同名作品を原案に、新たに撮り直しされたものですよね。当時から自分の手でリメイクすると宣言されていましたが、それはなぜですか?

押井 コンセプトが面白いと思った。あとタイトルが気に入って。「無国籍」っていいタイトルだよね。現代性もあるし、僕が普段から考えていることに近かったんですよね。

──実写版『パトレイバー』の最初の製作発表記者会見で、「物語を持たない現代の人間を描くことで同時代性が宿る」と話されていました。今回もそれに通じる「無国籍」性というものに監督は共鳴されたのでしょうか?

押井 そうだね。みんな、自分の所在が今ひとつわからない時代なんですよね。

自分が本来いるべき場所はここじゃない。それがどこで、自分は何者なのか──それこそが、特に若者にとって、今一番時代的なテーマ。今って、みんな何となくそういう感覚はあると思う。

それは、時代を超えて通じる側面もある。子供というものは大概、そういう風に考える時期があるから。特に女の子は、自分の居場所はここではないから、いつか誰かが迎えにくるんじゃないかって、ある時期必ず思うものだよね。

──いわゆる「シンデレラコンプレックス」ですよね。

押井 そう。その違和感を忘れて、ここが自分の場所なんだと無理やり認めることで、人は大人になっていくものなんだけど。

ただ、今の時代は、そのテーマがある種の陰惨さを帯びるようになってきている。なぜ若い子がイスラム国にいくのか。なぜタトゥーを入れるのか。なぜファッションにこだわるのか──その理由と一緒だと思う。結局それも、今の自分に確信が持てないからですよね。

若ければ、その違和感が原因で突飛な行動に移ってしまう人間もいるでしょう。極端な場合、ある日突然通り魔になったり爆弾をつくってみたり性転換したりイスラムにいったり。

自分探しとかそんな情緒的なものじゃなくて、単純に不安なんだよ。恐怖と言ってもいい。それは昔、みんなが子供の頃に抱いていた妄想とも少し違っている。

白馬に乗った王子様を待っていたら、迎えに来たのは戦争だったっていうさ。自分はお姫様じゃなくて兵士だったっていうことに気付いていく。それが今の時代の空気感なんだよね。

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