インディーゲーム、VTuber、TRPG…新世紀を切り開く「同人」という魔法
2021.01.27
漫画『竜女戦記』の作者であり、文化人類学者、また京都精華大で教鞭を執る学者でもある都留泰作による、2万字におよぶエヴァ考。
日本アニメの金字塔であり、アニメを更新し続ける作品『エヴァンゲリオン』。放送開始から25年の歳月を経て終劇を迎えたいま、作り手(漫画家)としての視点、そして著書『(面白さ)の研究 世界観エンタメはなぜブームを生むのか』でも論じる「世界観エンタメ」の視点から再考する。
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『新世紀エヴァンゲリオン』シリーズといえば、1995年のテレビアニメ放映・旧劇場版の公開以来、社会現象ともなり、以降の多くのエンタメ作品に多大な影響を与え続けてきた化物コンテンツであることは今更言うまでもあるまい。主題歌に宇多田ヒカルを迎えたことに象徴されるように、サブカルチャー・シーンというのか、日本の若者文化の一部とも化し、日本社会における不動の存在感を確立した上で、2007年から始まった新劇場版が、2021年3月に『シン・エヴァンゲリオン劇場版𝄇』(以下、『シン・エヴァ』)でいよいよ完結を迎えた…とされている(著者は本当に終わるのかちょっと疑っているが)。
テレビ版『エヴァ』に影響を受けた、当時の大学生や高校生はとっくに大人となり、エヴァンゲリオンは今や、エッジな若者文化というより、『仮面ライダー』や『ガンダム』『アンパンマン』のような、日常に埋め込まれたアイコンにすらなった。21世紀に入って作られた新三部作は、そのアイコンを、最新のCG技術で再構築して再表現する、ある種のお祭りのような感がある。
さんざん論じ尽くされてきたこの作品ではあるが、日本のカルチャーにとって革命とも受け止められ、特権化されてきたこの作品を、他のエンタメ作品と並べて、振り返り気味に論じてみるべきタイミングなのかもしれない。
著者は、『スターウォーズ』や宮崎アニメのように、世界観、背景を作り込んで、そこに没入させるタイプのエンタテイメントのあり方、「世界観エンタメ」が台頭しつつあると考えている。また、漫画家として、「世界観エンタメ」の実践としての実作にも取り組んでいる。著者自身、『シン・エヴァ』視聴は済ませたが、未視聴の読者も多いことも考慮して、『シン・エヴァ』への言及は極力伏せて論じていくつもりである。それをもってそれぞれが完結を見届けていただきたい。
執筆:都留泰作 編集:和田拓也
目次
- はじめに:『エヴァ』を振り返る
- 言説を誘う神話とオカルト的重層性
- 「世界観エンタメ」としての『エヴァ』
- 『エヴァ』における「具象」と「抽象」
- 『エヴァ』における「具象」:「電線」「列車」「線路」、そして「連れ去り感」
- 「向こう側」へと誘う、テクノロジーの手触り
- 「奇想天外」な『エヴァ』世界の感覚
- 宮崎駿、高畑勲、押井守──アニメ人脈から見る庵野秀明の感性
- なぜ『エヴァ』はリメイクされ続けたのか
- 『ガンダム』から引き継がれる究極の欲望
- おわりに:「シン・エヴァンゲリオン」への期待感、オタク・ヒーローとしての庵野秀明
とにかく、『エヴァ』は社会現象になったからというのもあるが、「言説を誘う」仕掛けに満ちている。意味ありげで深遠なイメージ、言い回しによって、様々な「難しげな考え」を見るものたちの間に誘ってきた。とりわけ、主人公シンジの、「逃げちゃダメだ」に代表されるような、見るものの臓腑をえぐるセリフ、それらを補強し説明するかのようにちりばめられた精神分析的なフレーズ(「ヤマアラシのジレンマ」)、そしてそのような表現が現代の「普通の若者の心」を広範にとらえたこと。これらの現象は、現代の病理や若者の生き方・社会での居場所をめぐる、社会学者や批評家の言説をさそってきた。
しかしながら、本稿では、エヴァのそのような内面性より、「世界観」に関心を誘いたい。エヴァのヒットの本質は、言ってみれば誰もが思っているような若者の愚痴そのものになるのではなく、それをエンタメ作品として説得力をもってパッケージングできたことにある。それを考える上では、主人公のありがちな「心の悩み」よりも、主人公をとりまく設定や世界観の作り込みに目を向ける必要がある。
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