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2025.07.11
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MCバトルの新たな大会『INSOMNIA MC BATTLE Vol.1』(以下、INSOMNIA)が、2025年7月19日に渋谷で開催される。
突如として開催が告知され、呂布カルマ、ミメイ、Sitissy luvit、ハハノシキュウといったMCバトルの第一線で活躍するラッパーはもちろん、メンチニキや石川典行といったMCバトル初参戦のネットタレントの出演も発表され、注目の的に。初開催にも関わらず、優勝賞金は大型大会レベルの100万円だという。だが、主催者の情報は明かされず、後援はシーンとは接点のないオリパ会社。言ってしまえば、怪しいイベントである。
INSOMNIA MC BATTLE Vol.1 TOKYO 🎙️
📍 渋谷 SPACEODD
🗓️ 7月19日(土)16:00 OPEN
🪩 会場チケット(先行): ¥4,000 / PPV配信: ¥3,000
⚠️ 未成年の入場も可能です📣 本戦の対戦カードを一斉解禁🔥
📺 本戦の【第2試合まで】は、INSOMNIA公式YouTubeチャンネルにて 無料配信決定🔥
— INSOMNIA MC BATTLE (@InsomniaBattle) June 13, 2025
MCバトルにいきなり参入してきたように見える大会、そしてこのカオスなメンツは議論を呼び、MCバトルファンからは反感の声も寄せられた。そしてその象徴的な出来事として、当初出場予定だったSIMON JAPは、本戦に出場し司会もつとめるという石川典行のラッパーへのリスペクトを欠いていると捉えられかねない言動を受けて、遂には出場を辞退することに。
実際、この団体は何者なのか? その正体や意図の見えなさが、少なからず反感の遠因の一つであることは間違いない。
「INSOMNIA MC BATTLE」主宰の甲斐さん
そこでKAI-YOUは、そんな謎に包まれたイベントの主催者・甲斐に接触。「僕としてはフィクサーでいたい」と語っていた甲斐だが、それでも打診に応じてくれた。これまで長年、MCバトルについて批評してきたラッパーで、同大会への出演も控えているハハノシキュウを聞き手に迎えて取材を行った。
ヒップホップについては「ライトな層」だと語る甲斐。そんな彼が、MCバトルのシーンで何を企てているのか。そこには、彼ならではの「改革」への意思があった。
目次
- シーンの外側から見た、今のMCバトルのリアリティ
- 後発の団体が成功を収めるために 「INSOMNIA MC BATTLE」の明確な狙い
- 「FSLは事実上失敗だった」
- 「MCバトルのキャパは限界だけど、同接に天井はない」説
- 僕は怖い──ハハノシキュウの偽らざる思い
- 「もしそれが正しいMCバトルとして続くのであれば、そりゃ衰退もする」
- 「INSOMNIA MC BATTLE」は、結局大会を通して何を伝えたいのか?
「INSOMNIA MC BATTLE」にも出場し、今回の聞き手をつとめてくれたハハノシキュウさん
ハハノシキュウ まずは、甲斐さんの簡単な自己紹介からお願いします。
甲斐 1998年生まれ、長崎県出身です。DTMに触れる環境があったので、16歳の頃からニコニコ動画で「歌ってみた」の投稿を始めて、自分でMIXもしていました。
18歳で上京して、某YouTuberのMIXをやらせてもらった時に「YouTubeやった方がいいよ」ってアドバイスを受けて2017年からチャンネルを開設して、1年くらいで登録者が10万人ぐらいになりました。2020年のコロナ禍でYouTubeの需要が増えたおかげで、再生回数も伸びましたね。
──その頃には、芸人さんのYouTube参入もありましたよね。
甲斐 はい。まさに芸人さんやプロの方がYouTubeに参入してきてからは、素人が勝てる時代ではなくなってきたと感じて、そこを見極めて僕はプロデュースの方に回りました。
ハハノシキュウ 具体的には、どんなことをやってたんですか?
甲斐 チャンネルの撮影、編集、ディレクションなど一通りやらせていただいて、在学中に会社を立ち上げてからはSNS運用やマーケティングもやったりしてました。映像制作もやっています。
映像制作とSNSマーケティングの延長で、フリースタイルのプロリーグ化を掲げた「FREE STYLE LEAGUE」(FSL)を主催する一人である溝口(勇児)さんの「BreakingDown(ブレイキングダウン)」のお仕事をする機会もありましたね。
──「FSL」の名前がもはや懐かしいですが、もしかして甲斐さんあるいは「INSOMNIA MC BATTLE」は、FSLあるいはBreakingDownとの関連団体、あるいは何らかの出資を受けている団体ですか?
甲斐 全く関係ないです(笑)。むしろ、今あるMCバトル大会の主催団体さんたちとも無関係です。
──なるほど、言わば既存のMCバトルシーンからすれば部外者というわけですね。
甲斐 映像制作では、ラッパーのMVの制作をやっていたりもするので完全に部外者というわけではないですが、大筋はおっしゃる通りです。
ハハノシキュウ ご自分で映像関係の仕事をしている目線では、視聴者はどういうものを「面白い」と感じると思いますか?
甲斐 ネットコンテンツって、タレントとの距離感がどれだけ近いかが大事だと思うんです。例えば、アーティストとしてブランディングが確立していれば“会えない”っていう距離感が生まれるけど、それはそれでよし、となりますよね。
でもYouTuberや配信者の場合は、交流会のようなイベントもあったりして、友だちのような距離感を大事にしてる。僕は後者の文化に親しんでる人たちが見たいものをつくりたいと思っています。
ハハノシキュウ なるほど。そういう視点を持った上で、MCバトルというコンテンツで何をしたいと考えていますか?
甲斐 (少し間をおいて)将来的には、ラッパーの方々へのマネタイズの仕組みやコアファン化づくりを支援できればと思っています。現状、MCバトルというものに囚われてしまっていることで、演者がコンテンツとして消耗されているような形に見えるので、新しいアプローチができればと思っております。
というのも、大会に向けた密着インタビュー動画を撮影してた時に、ラップだけで生活するのって難しいんだなと感じたんですよ。それこそ、どれだけ動画の再生回数が多いラッパーであっても、ギャラ(出演料)が少なかったりとか、音源制作に力を入れてなかったりで。
今のままだと、若手や個人が育っても、バトルの動画があがるチャンネルのいちコンテンツという域を出ないという印象です。それだと、結局お客さんの数は減っていくと思うんです。
ハハノシキュウ “シーンの外側から見たMCバトル”という視点で、MCバトルが盛り下がってきてるしラッパーが食えないと感じたのが、自身で主催を務める理由になっていると。
甲斐 そうですね。MCバトルのYouTubeチャンネルって、バトルの様子だけを投稿しているイメージがあって。SNSマーケティングの視点では、大会が開催されていない期間は何も投稿されないというのが結構驚きです。
要するに、視聴者側も“バトル以外に見るものがない”という状況なんです。ひたすらショートを量産しているスタイルも、僕からしたら面白みがないというか。せっかくMCバトルの会場に来るような根強いファンがいるにも関わらず、ラッパーについてのルーツだったりとか、私生活の部分に触れるようなコンテンツは投稿されてないんですよね。
甲斐 なので、イベントがない期間はラッパーに密着した撮影などのサポートを行おうと思っています。みんなで伸ばし合っていければいいというか、僕たちのイベントに出演してもらうことで、新しいマネタイズの仕方を提案できると考えています。
ハハノシキュウ なるほど。MCバトルの業界に身を置いている自分の視点では、ラッパーの大半はマジョリティに興味のない人が占めてるって印象が強くて。むしろアングラ(アンダーグラウンド)とかサブカルチャーを大事にしてるんです。
例えば、ハロウィンのコスプレイベントに参加している人に対して、アングラ気質の人間は「お前、そのキャラクターのことホントに知ってるのかよ」とか言いたくなっちゃうんですよね。だけど、大半の人はそんなことどうでもいいじゃないですか。
ハハノシキュウ いわゆる「サブカルの壁」みたいなものがあるんですよ。人気があって売れてるラッパーを世間が知らないというのも当たり前にあるし。なので、YouTubeのようなプラットフォームとヒップホップの相性は、ちょっと悪いと思ってます。一人ひとりのラッパーは面白いし魅力もあるから、バトル以外の数字も取れるんじゃないかってみんな考えてるんですけどね。
その壁を壊そうとした大会もあるんだけど、めちゃめちゃ叩かれてる。でもそれをしないと商売にならないというのは、正論だとも思う。だから、数字を持ってるインフルエンサーを抱えるマジョリティ側から、INSOMNIAが正々堂々と立ち上がったことに驚きました。それって、マイノリティであるヒップホップからしたら悪に近いんですよ。ヒップホップコミュニティの内側の団体がそれをやっちゃうと、後ろめたさを感じる。
甲斐 わかります。
ハハノシキュウ そんな中で、INSOMNIAは後ろめたさを感じずに、(数字とビジネス面における)正義としてシーンに参加してきたから、すごいびっくりしました。ペリー来航みたいな。
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