Interview

  • 2026.09.30

秋元康らが語る、AI時代のIPの育て方──“公認二次創作”は新たな市場になるのか

秋元康事務所や『キャプテン翼』IP管理会社などが賛同する日本IP.AI共創協会。同団体が提唱するAI時代のIP(=知的財産)の在り方とは。

秋元康らが語る、AI時代のIPの育て方──“公認二次創作”は新たな市場になるのか

「日本IP.AI共創カンファレンス」に登壇した秋元康さん(写真はすべて提供:一般社団法人 日本IP.AI共創協会)

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生成AIはいま、日々膨大なコンテンツを生み出す制作の“インフラ”になりつつある。画像や映像、音声をつくるハードルは急速に下がり、専門的な技術を持たない人でも、アイデアを短時間で形にできるようになった。

Googleは2026年5月、画像生成モデル「Nano Banana」による画像の生成数が累計500億枚を超えたと発表(外部リンク)。動画制作ツール「Flow」でも、2025年10月時点で、提供開始から約5ヶ月間に2億7500万本を超える動画が生成されている(外部リンク)。

一方、生成AIを巡る権利問題は、いまやコンテンツ産業全体が対応を迫られる喫緊の課題である。

IP(=知的財産)の無断利用に、権利者側はどう対処すればいいのか。逆にAI開発企業やAIサービスの利用者は、どのように権利者側と合意形成を図るのか──こうした難題に、権利者とAI企業の間で共通のルールをつくることにより応えようとしているのが、一般社団法人日本IP.AI共創協会だ。

今回は、9月11日に東京・渋谷で開催された「一般社団法人日本IP.AI共創協会」設立に関するメディア向け説明会と「日本IP.AI共創カンファレンス」の模様をレポート。

「一般社団法人日本IP.AI共創協会」設立に関するメディア向け説明会と「日本IP.AI共創カンファレンス」出演者

「一般社団法人日本IP.AI共創協会」設立に関するメディア向け説明会と「日本IP.AI共創カンファレンス」の登壇者

IPを守りながら、ファンやクリエイターが生成AIを健全に利活用できる環境をどのようにつくり、広げていくべきか。説明会とカンファレンスでは、生成AI時代のIP利用の在り方と、その先に想定される新たなコンテンツ産業の姿が議論された。

目次

  1. 日本発IPの海外需要の高まり──協会代表「新たな収益モデルに移行することが急務」
  2. 日本IP.AI共創協会に秋元康事務所、『キャプテン翼』IP管理会社なども賛同
  3. AI時代に向けたIPのライセンス管理/収益配分システムを開発
  4. 新たな“公認二次創作”活動の在り方「FUNCLIP」とは?
  5. ルールをシステム側にあらかじめ組み込むことで、違反コンテンツが生成されにくい環境をつくれる
  6. 生成AIの倫理的/法的リスクを日本IP.AI共創協会はどう見ている?
  7. 秋元康、KADOKAWAプロデューサーらが議論するAIとの共創
  8. AI二次創作で原作小説の読者を増やしたい──KADOKAWAプロデューサーが寄せる期待
  9. 秋元康が語る、AI時代に新しいIPを育てる条件
  10. 海外のAI事業者は、IPの権利管理をどう考えているのか?
  11. 「“Fair Use”から“Fair Pay”へ」──その理念は実現するか

日本発IPの海外需要の高まり──協会代表「新たな収益モデルに移行することが急務」

日本IP.AI共創協会は、AIによるIPの適正利用の推進、権利の保護と活用の両立を目指し、持続的な環境整備を行う一般社団法人。

NEXYZ.Group代表取締役社長兼グループ代表の近藤太香巳さんが設立を主導。同社のグループ子会社で、AIによるIP活用の基盤を開発するKAGAMIAI Holdingsが発起/創設パートナーとして参画し、2026年8月に活動を開始した。

同団体が目指すのは、既存のIPを、権利者の許諾のもとでAIによる創作に利用し、その成果を公開・収益化できる条件を整える環境づくりだ。生成AIを単に規制するのではなく、使用のルールを明確にし、そこから生まれる利益を権利者へ還元する。無断利用への対処と、正規利用を広げる仕組みを同時に整備しようという考えだ。

メディア向け説明会では、協会代表理事をつとめる近藤太香巳さんらが登壇。海外で成長を続ける日本のIP市場と生成AIを結びつける、新たな利用の仕組みについて説明した。

NEXYZ.Group代表取締役社長兼グループ代表の近藤太香巳

NEXYZ.Group代表取締役社長兼グループ代表の近藤太香巳さん

生成AIによってIPの利用方法や価値還元の仕組みが変わりつつあることを踏まえ、近藤さんは「新しい世界基準を日本からつくりたいという思いで、この協会を立ち上げました」と設立の意図を語る。

日本のコンテンツ産業は、すでに国内市場だけでは捉えられない規模に成長している。例えば、日本動画協会が公表した2024年のアニメ産業市場の速報値(※編注:執筆時点で最新のデータ)は、国内外を合わせて3兆8407億円。このうち海外市場は2兆1702億円と過半数を占め、前年比26%増となった(外部リンク)。

政府の「知的財産推進計画2026」でも、日本発コンテンツの海外市場規模が2024年に6.1兆円に達したことが示され、2033年までに20兆円へ拡大する目標が掲げられている(外部リンク)。日本のIPに対する海外需要が拡大するなか、その価値を権利者の収益へと結びつける環境の整備が求められている。

近藤さんは「現状を放置せず、IPの権利を守り、新たな収益モデルへ移行することが急務です。ボトルネックは技術ではなくライセンスです」と指摘した。

権利を確認できない、生成物の出所を追えない、利益を正しく還元できないという3つの課題を挙げ、AI時代の流通ルールを定める必要性を訴えた。

日本IP.AI共創協会に秋元康事務所、『キャプテン翼』IP管理会社なども賛同

協会が掲げる「“Fair Use”から“Fair Pay”へ」という合言葉も、この問題意識に基づいている。

IPの利用条件を明確にし、利用を適正な対価へとつなげる。無断利用への対処だけでなく、合意に基づく創作を増やしていくための仕組みとして、協会の活動は位置づけられている。

その活動指針をまとめたのが「世界IP.AI共創宣言」だ。宣言では「①クリエイターと知的財産への敬意」「②適切なライセンスの推進」「③AIイノベーションの促進」「④共創と対話」「⑤公平で持続可能なエコシステム」「⑥グローバルな協力」という6原則を掲げる。

権利保護と技術発展を対立させるのではなく、その両立に向けて権利者とAI企業が共通認識を持つことを目指す。

権利者が利用範囲を定め、AI企業がその条件に沿ってサービスを提供する。クリエイターやファンは、許された範囲を確認したうえで制作/公開し、利用から生まれた収益の一部が権利者にも還元される。

近藤さんが示したのは、IPホルダー、AI企業、クリエイター、ファンのそれぞれが利益を得られる「四方よし」の共創を、ルールと事業の両面から支える構想だった。

メディア向け説明会のスライド[1]

メディア向け説明会のスライド

発表時点では、中国のMiniMax、シンガポールのPixVerse、アメリカのHeyGenやLovartなどAI関連のグローバル企業9社に加え、秋元康事務所や、高橋陽一さんによるサッカー漫画『キャプテン翼』のIP事業を手がけるTSUBASAなどが賛同署名した(なお、秋元康さんはKAGAMIAI Holdingsのエグゼクティブアドバイザーもつとめている)。

協会は今後、メディアやプラットフォームを含む幅広い企業に参加を呼びかけていく方針だ。

AI時代に向けたIPのライセンス管理/収益配分システムを開発

日本IP.AI共創協会が指針の共有や企業間の対話を担う一方、具体的な契約やシステム面を受け持つのが、発起/創設パートナーであるKAGAMIAI Holdingsだ。

同社代表取締役CEOの木村泰宗さんは、目指す環境を「AI企業が正しく、安心してIPを使える。クリエイターが安心して創作できる。そして、その収益がIPホルダーに正しく還元される」と説明した。

KAGAMIAI Holdings代表取締役CEO・木村泰宗

KAGAMIAI Holdings代表取締役CEOの木村泰宗さん

その基盤となるのが、同社が開発/運用するライセンス管理/収益配分システム「Kagami Gate」である。IP利用に関する許諾、監修、利用状況の把握、収益分配までを一続きに管理する仕組みを構築する。

日本の漫画・アニメをはじめとしたIPは権利関係が複雑で、出版社と契約すればすべてを利用できるとは限らない。原作者や制作会社、製作委員会の関係者など、複数の権利者への確認が必要になるケースもあり、契約後の監修にも時間を要する。

こうした交渉や監修のプロセスを整理し、実際にIPを利用できるまでの時間を短縮することが、「Kagami Gate」に参加するAI企業側の利点になる。

権利者にとっても、自ら世界中のAI企業と個別に交渉する負担を減らせる。双方にとって、正規利用の手続きを進めやすくすることが狙いだ。

新たな“公認二次創作”活動の在り方「FUNCLIP」とは?

KAGAMIAI Holdingsは、その仕組みを具体的なファン創作へ落とし込む構想も発表。一定のルールに基づいてファンがAIで制作したショート動画を「FUNCLIP(ファンクリップ)」と名付け、新たな“公認二次創作”活動として位置づけている。

FUNCLIPでは、契約したIPホルダーとともに、利用可能なキャラクターの画像や映像、暴力や政治に関わる表現の許容範囲、非商用利用だけでなく商業利用まで認めるかといった条件を、あらかじめ個別に整理する。

キャラクターの顔や造形を厳密に保ちたい場合には、登録された公式素材を参照した生成に限定するなど、権利者の意向に応じて運用方法を決めるという。

ただし、こうした条件をすべてのIPに一律で適用することはできない。木村さんは、利用ルールの策定について「システマチックに進めているものの、アナログな作業です。一概に暴力的な表現をNGとは言えません」と説明した。

例えば、戦闘を主題とする作品に暴力表現の全面禁止を適用することは難しい。政治を題材とする作品で政治的な表現をすべて禁じれば、作品そのものの特徴を損ねる可能性もある。そのため、利用を非商用のファン活動に限るのか、商用利用まで認めるのか、どのような場面や表現を許可するのかを、作品ごとに権利者と協議していく必要がある。

さらに、生成されたコンテンツの公開や収益化についても段階が設けられる。一般のファンには、合意されたルールのもとで制作/公開できる範囲を用意する。一方、SNSなどで収益化したい場合には、別途KAGAMIAI Holdingsへのクリエイター登録、事前審査、契約が必要になる。審査では過去の活動も確認し、例えば海賊版動画を大量に投稿してきた利用者に、そのまま収益化を認めることはしないとしている。

こうした条件を利用者側に遵守させるようにするシステムが、Kagami Gateの監視/監修機能だ。AIサービス側が用意するテンプレートや、利用者が入力するプロンプトをチェックし、許諾範囲から外れた表現が生成されにくいよう制御する。

生成後についても、ルールをすり抜けた内容や、人間による判断が必要な表現を確認する。基準に反するものについては、KAGAMIAI HoldingsとAI企業の双方で検出/削除できる体制を設けるという。

ルールをシステム側にあらかじめ組み込むことで、違反コンテンツが生成されにくい環境をつくれる

木村さんは、正しく利用できるのであれば、IPを広く積極的に使ってもらいたいと説明した。ファンによる創作や認定クリエイターの収益化を支えることが、その狙いにある。「私たちがつくりたいのは、監視/監修の仕組みだけではなく、新しい市場です」と強調した。

権利者への対価の還元は、生成時と公開後の二段階で想定されている。生成時には、消費されたトークンやクレジットなどに応じた利用料金を計測し、IPホルダーとの合意に基づいてその一部を分配する。さらに、認定クリエイターがSNS上で公開した動画から得る収益についても、クリエイターごとに分配ルールを設定する構想だ。料率は契約によって異なるものの、一例として、トークン売上の80%をAI側、15%をIP側、5%をゲート利用料とするケースも示された。

こうした一連の仕組みを実際に試す場となったのが、2026年6月12日から7月26日まで実施された、『キャプテン翼』と動画生成AI「PixVerse」の実証実験だ。

権利者公認のAI生成の窓口と利用条件を用意したとき、世界のファンがどの程度参加するのか。また、そこで生成されるコンテンツをどこまで管理できるのかを検証した。

メディア向け説明会のスライド[2]

メディア向け説明会のスライド

実験には45日間で12万6360人のクリエイターが参加し、公式IPを使った動画の生成件数は32万9314件に上った。地域別ではアジアが59.98%で最も多く、ヨーロッパが16.80%、南米が9.91%、北米が8.98%と続いた。生成の99%超を海外が占め、日本国内は1%未満だったという。

作品の世界観やブランドを守るという点では、基準違反として451件を検出/削除したと発表している。これは総生成数の約0.14%に当たる。

木村さんは、ルールをシステム側にあらかじめ組み込むことで、違反コンテンツが生成されにくい環境をつくれたと評価した。

もっとも、FUNCLIPのような枠組みを実際の市場として成立させるには、個々のAI企業とのシステム連携が必要になる。AI企業9社の賛同は、説明会時点では宣言の理念を共有し、今後のルールづくりについて話し合う段階であり、各社のサービスですでに公式IPを利用できるわけではない。

具体的な連携例としては、MiniMaxが開発する生成AIモデル「H3」とKagami Gateを組み合わせた「MiniMax H3 IP Edition」が発表され、10月中頃を一つの目安に準備が進められている。GoogleやOpenAIについては、協議の入口にある段階だという。

生成AIの倫理的/法的リスクを日本IP.AI共創協会はどう見ている?

こうした連携を広げるうえでは、生成時の利用条件に加え、基盤となるAIの学習データに由来する倫理的/法的リスクへ、どのように対応するかも重要になる。

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