王道ではない活動スタイルで10年 「小学生歌い手」が超学生になるまで
2023.01.19
2018年初頭からブームが続くバーチャルYouTuber(VTubar)シーン。2022年は3回に分けてレポートでその1年を振り返る。
第1回は「懐古」。2018年から続くVTuberシーンの繋がりについて確認した。第2回は「浸透」。VTuberがTikTokなどを介してメジャーデビューや流行した様子などを伝えた。
最終回は「新時代」と名付けた。
VTuberシーンはその勃興から現在に至るまでの半分以上の期間が新型コロナウイルス禍に包まれていた一方、2022年はイベントが再開へと向かった。
さらにロボットやAI、メタバースやNFTなどのテクノロジーがVTuberと合流し、新たなシーンをつくっていることから名付けた。
目次
- にじさんじにホロライブ……VTuberたちのリアルイベントの増加
- 花譜『不可解参(狂)』
- VTuber音楽カルチャー成長の兆し? フェスイベントの増加
- 配信イベントは無料、グッズなどで収益化のケースも
- ココツキ解散ライブ、つくり込まれた演出
- .LIVEの集大成 配信ライブ「.LIVE 1st fes. 星物語」
- チケットが売れずピンチ! 「あにまーれ学園祭」
- 毎日どこかで開催されてる? 多くのポップアップストアや展示会
- あおぎり高校の野郎ラーメンコラボ、ぶいすぽっ!の神田明神納涼祭りコラボ
- 2022年はメタバースが流行語に VTuberとメタバースとの浅からぬ関係
- VTuberの公式ワールドが作成 大手も参戦
- VTuberがメタバースに参加する動きが加速
- 企業が、VTuberをメタバースで説明するように
- メタバース関連の取り組み ホロライブが推進する『ホロアース』
- VRChatアーティストはアツい
- メタバースの流行がWeb3.0を呼び水に
- VTuber×NFTの“パイ”オニア ππ来来
- ライブで手に入る? 体験型のRIOT MUSICのNFT
- NFT会員証でファンにも演者にもリターンを
- KAMITSUBAKI STUDIOがDAOを開始
- よりディープなVTuber×NFTの世界
- AI VTuberから生まれたNFT・NEN
- AI VTuberの進化 バンナムも意欲
- AIは、ストリーマーの仕事を奪うのか?
- VTuber、ロボットに? V-Sido技術に期待
- VTuberはロボット開発の夢を見る
- AIイラストとファンアート 考えはそれぞれに
- 切り抜き動画のガイドライン巡って、分かれた傾向
- VTuber関連書の出版ラッシュ
- VTuberをモデルとした作品も多数出版
- VTuber専門誌が”アツい” 2022年もVTuberが雑誌に多数掲載
- 表紙にあのVTuberが! VTuberインタビューの連載も
- VTuberの権利を巡って
- 著作権法違反…違法グッズの横行
- Twitchの重要性 VShojoの日本進出
- Twitchの「VTuber」タグを巡ったトラブル
- Twitchでは、VTuberへのヘイトも
- 中国VTuber事情 活動環境がより難航?
- 中国でのバーチャル存在の人権
- インドネシアでは政府によるサービス封鎖で問題に
- 混ざり合うバーチャル×リアル
- おめシスは体をリアルに
- えっ後ろに人が……? 現実チャンネル
- 深層組はバーチャル/リアル全てがカオス
- VTuber vs IRL
- ライブ/イベントでのリアルにスポットライトを
- VTuberの中で流行したゲームは? e-Sports・ストリームシーンとの相互交流
- 終わりに。白い世界の先に 真っ白な未来が広がっている
- 注目トピックス! part3
2022年のVTuberイベントの傾向と言えば、なんといってもリアルイベントの増加だろう。
2021年から徐々にリアルイベントは増していたが、2021年中はまだ新型コロナウイルスの症状が重いケースが多々あり、開催に踏み切れないことも多かった。
徐々にイベントの規制も緩和され始め、毎週末、VTuberに関する何かしらのイベントがリアル開催されている状況になりつつある。
音楽ユニット・MonsterZ Mateによる4thライブ「愚者」の告知の中では、2022年で4周年となったが、その半分を占める2年もの間、リアルライブを行えていなかったと振り返っていた(外部リンク)。
VTuberシーンはその文化発生から現在までの、すでに半分以上の時をコロナ禍に覆われていることになる。2023年にはようやく待望のリアルイベント初出演を果たすような中小規模のVTuberも増えていくのではないだろうか。
2021年に開催された象徴的な音楽イベントとしては、「hololive 3rd fes」や「にじさんじフェス2022」、「不可解弐(狂)」、「VirtuaROCK FEST」などがある。
ホロライブは3月19日・20日にホロライブEXPOを開催。ホロライブEnglish、ホロライブIDといった海外組とホロスターズの面々を加え、初のホロライブプロダクション全体イベントとなった。
展示イベントとして催され、沢山並んだメンバーの衣装や等身大パネル、ホロスターズの新ユニット「UPROAR!!」の公開、ホロライブオルタナティブやホロライブERRORなどの人気コンテンツなどが展示されていた。
また、ライブイベント「hololive 3rd fes.」も同時開催。VTuberのイベントとしてはまだ事例の少ない国境を越えたパフォーマンスにオーディエンスは熱狂した。
第2回の新型コロナウイルス動向でも触れた、にじさんじフェス2022は展示と体験型コンテンツ、様々なステージや配信が催され、文化祭をテーマにしたイベントということもあり、グッズでは各メンバーがクラス分けされたカラーのTシャツが販売された。
また、振替開催となったライブ『FANTASIA』Day2では、卯月コウさんが「脱法ロック」カバーを披露。卯月コウさんのキャリアにとって重要であり、三枝明那さん、瀬戸美夜子さんがデビューするきっかけに由来するこの楽曲が披露されたことは、当時大きな話題を呼んだ。
にじさんじフェス2022は、前夜祭も開催。秋葉原のDJバー・MOGRAで公認のクラブイベント「にじさんじフェス2022 "前夜祭 DJ NIGHT"」が朝5時まで開催された(外部リンク)。
特徴的なのは、曲を流すDJがにじさんじに関連する人物であることと、流れる曲のほとんどがにじさんじに関連した楽曲であること。
オリジナル曲はもちろん、歌ってみたなどのカバー、さらにはグループのゲーム大会「にじさんじ甲子園2022」で使用されているゲーム『パワプロ2022』のテーマ曲・パン野実々美「群像夏」も流され、時にはにじさんじの枠をも越えながらも、満杯となった箱はファンの熱気に包まれていた。
「不可解弐(狂)」は、花譜さんの8回目のワンマンライブだ。「不可解参(狂)の最も注目すべき点は日本武道館で公演が行われたことだろう。
これまで武道館で単独公演を行ったVTuberは、2022年に「武道館声優系VTuber」と銘打ってVTuberデビューした歌手・声優の椎名へきるさんと、定義次第ではVTuberとも言えるすとぷりがあげられる。
ただ、初めから「VTuber」として活動を開始したという点では、花譜さんが実質的に初とも言えるだろう(余談だが、過去にはVTuberがライブイベントを武道館で行うことを目指してクラウド・ファンディングを行うも実現しなかった「V-1グランプリ」というものもある)。
ライブでは、無線制御のスペシャルペンライトを使ったライティング演出、バンドサウンドやリアルダンサー、リアルアーティストとの融合による歌唱など、これまで以上のステージング環境で、最後には花譜さん自身が作詞・作曲を自ら手掛けた「マイディア」を披露していた。
一方で、このライブは、ライブにおける付加価値を、問題提起することとなった。
実は「不可解参(狂)」では、配信ライブ限定で、花譜さんの楽曲4曲のライブを楽しむことができるということが、現地観覧チケットの発売後に発表された。
これに一部のファンが批判を展開。チケット発売後に発表されたことや、比較的高価なライブチケットを2種類買わなければそのすべてを楽しむことが出来ないことを巡って、現地ライブと配信ライブの価値の差が議論の争点となった。
ほかにも、BOOGEY VOXXの全国ワンマンツアー他多数の話題性のあるライブやイベントが現地開催された。
「VirtuaROCK FEST」は、ロックジャンルを中心に活動するVTuberミュージシャンが多数出演。
AZKiさんが呼びかけて始まった配信イベント「音楽を止めるな」などをきっかけに、このコロナ禍でVTuber音楽カルチャーが成長。
これまでは大手VTuberでかつ資本がなければ、フェスほどの規模感のあるイベントは難しかったが、カルチャーの成長とイベント緩和の波に乗ってか、開催が増えてきている印象がある。
VTuber音楽の変化を示すには良い例だろう。
またバンド・貝と蜃気楼は、2022年中に複数回対バンイベントを開催している。12月に行われた「七日目のパレード」ではラストライナーの貝と蜃気楼に加え、JOHNNY HENRY、the afterglow、BOOGEY VOXXが参戦。
VTuberとVRChatを中心に活動するアーティストも会場を大いに盛り上げた。生演奏でライブする機会はまだ少ないシーンの中で、VTuberファン(特にBOOGEY VOXXのファン層は他のファン層と毛色が若干異なる)とVRChater(VRchatのユーザー)が会場で交わることで、実験的かつ異色な空間になっていた。
VTuberファンは、年若いためVTuberを通してはじめてライブカルチャーに触れるファンも少なくなく、さらにコロナ禍でその機会も失われていたためライブでの立ち回りがわからないと話すファンも存在する。
逆に演者も観客を煽ることに慣れていない場合もあって、ライブ慣れしている観客との温度差ができてしまうということも。
しかしこのライブでは、演者がしっかり観客を煽り、前方にいるファンがそれに応えられていたのが印象的だった。
配信イベントでは、誕生日ライブが2020年頃から定例化して開催されるようになったことで、各社配信のフォーマットが決まってきている。
ライブは無料配信、記念グッズの販売やスーパーチャット、クラウドファンディングでの収益確保という手法が、3Dモデルを持つ中堅以上では当たり前になってきている。
その分、3Dライブに求められるクオリティーが年々上がっていくという見通しも。
また、2022年もVARKやLiveCartoonといった技術を持った会社が頻繁にライブを手がけているほか、有料配信ライブの回数も実感として多くなってきているように思う。
配信ライブで印象的なものでは、第1回目で書いたキズナアイのラストライブあげられるが、ココツキの解散ライブも負けじと素晴らしい演出だった。
ココツキは鈴代ここねさん、響かさねさんによるバーチャルシンガーユニット。5月初旬に鈴代ここねさんが「新しい夢のため」に活動終了を発表したことに伴い、同ユニットは同月29日に解散ライブを実施(外部リンク)。
「ここねは転生しません。歌を歌う私はココツキにしかいません」と宣言していた鈴代ここねさん。ライブでは相棒やファンを思いやるシーンが多く見られ、ココツキにかけていた思いを垣間見ることができた。
演出ですべてファンのため、メンバーのために用意されたライブだと感じられるほどのつくり込み。エンディングでは映像を通して今までの活動を振り返る映像が披露されたが、ここまでの完成度は、関わっているスタッフも愛を持って頑張っていなければ決して実現しなかっただろうと思わせるほどだった。
エンディング後には、「ココツキの音楽」と過去にリリースした作品をまとめたものが投影されていたが、単に販促であれば最新作などを映し出せばいいものだが、そこにはしっかりとココツキの歩んだ軌跡を示すようなデザインが。
最後に映し出されたイベントのキービジュアルには、最後の最後まで視聴したファンだけが目にする形で別れのメッセージが仕込まれていた。その内容からもココツキのメンバー、スタッフの心意気を感じた。
配信ライブ「.LIVE 1st fes. 星物語」は、VTuberプロダクション・.LIVE(どっとライブ)」初の全体イベント。事務所のここまでの歩みとその集大成を見せようとする強いメッセージ性がうかがえた。
電脳少女シロさん、ばあちゃるさん、元アイドル部の1期生、2期生のメリーミルクさん、リクムさん、七星みりりさん、ルルン・ルルリカさんによる3期生と、総勢11人のメンバーのやる気は、“はんぱないパッション”に溢れていた。
イベントでは、卒業生の北上双葉さんの「ゆるふわどりーみん」、同じく金剛いろはさんの「いろはに↑ほっぷすてっぷ↑↑」が披露され、金剛いろはさんがサプライズ出演。.LIVEらしく温かいライブだった。
最後には、念願となる初の全体曲「星鏡」が披露。歩みをともにしてきた.LIVEのファンはその星々を見て、心を揺さぶられたことだろう。
MVでは、事務所メンバーが現実世界にいるかのような衣装を着て、背景は実写との合成。メンバーはイラストなのにも関わらずある種の“実在感”が際立った、奥ゆかしさのある作品になっている。
一方で、一時チケットが売れず話題になったイベントもある。有閑喫茶あにまーれによる4周年記念オンラインイベント「あにまーれ学園祭」では、チケットが全然売れていないことでリーダーの因幡はねるさんが緊急で生配信を行った。
生配信ではチケットが全然売れていない実情が生々しく明かされた。イベントには7人のメンバーが参加するに対して、イベント詳細が周知されていなかったために、10日間でチケットの販売数は243枚。
このままでは赤字どころか来年のイベント開催も厳しくなると判明。崖っぷちの中、有閑喫茶あにまーれのメンバーは生配信で公開会議を行い、リスナーの意見にも耳を傾けながら、チケットを販売するために今必要な行動などを議論した。
その様子を見たファンは、イベントを改めて認識し購買行動へ移り、心配されたイベントも無事成功を収める。12月には、有閑喫茶あにまーれが所属する774.incの全体イベント「ななしふぇす2022″JUMP!”」が開催された。
イベントはなにも、ライブだけに限られるわけではない。2022年は、多くのポップアップストアや展示会も行われた。
甲賀流忍者ぽんぽこさん、オシャレになりたい!ピーナッツくんの2人による「ぽこピー展」は、全国各地で展示を変更しながらもファンを楽しませる取り組みで、2人の着ぐるみやパペットはじめ、ファンにはわかる珠玉の展示物が会場に揃っていた。
特徴的なポップアップストアは他にもある。
にじさんじの樋口楓さん、叶さんがプロデュースしたブランドを置いた「UN-DIMENSION vol.1」では、百貨店の大丸東京店1階に展開。アニメ風ではない2人のビジュアルが高級店に紛れても全く違和感のない様子だった。
店頭ではブランドバックやTシャツなどのサンプル、写真スポットに樋口楓さんのミュージック・ビデオの流れるモニターが設置されていた。
このほかにも日本テレビ系列の株式会社ClaN EntertainmentがHMV&BOOKS SHIBUYAに出展し、所属するV-Clanに所属するVTuberにまつわる展示や販売を行った「出張!プロジェクトV」。
男性個人VTuberで構成されたグループ・AllGuysがボークス大阪ショールームで開催した「AllGuys POP UP SHOP」。
名取さなさんとサンリオがコラボした「名取さな×サンリオキャラクターズ」。舞鶴よかとさんのチャンネル4周年と誕生日を記念し展開された博多マルイの「舞鶴よかとPOP UP SHOP」。
音楽ユニット・KMNZとタワーレコードがコラボした「KMNZ POP UP SHOP in TOWER RECORDS」。SANYOがサンヨーの日を記念した浅草花やしきでの展示イベントにナギナミが休止前に参加するなど、多数のイベントが開催されており、常に誰かがストアを開いている状況にあるといっても過言ではなかった。
なお、厳密にはポップアップストアではないが、VTuberグッズ専門店のV-MANIが2月19日に閉店。店内ではアクリル板や推し香水、Tシャツ、缶バッチなどが販売。非常に多数のVTuberのグッズが販売されていた。
また、コラボカフェとしては、ALAがリアル体験型謎解きイベント「Vウォーク」やオフ会も織り交ぜた「V-MEET」などの企画を開催。ALAは中小規模感のイベントを1年を通して数多く開催していた。
ほかにもホロライブ所属の戌神ころねさんとソニック・ザ・ヘッジホッグがコラボした「ソニころ2022 ピキピキ音速コラボカフェ」、VOMSによる「VOMS ROOM CAFE」、ハコネクト主催の「ハコネクトカフェ」、結目ユイさんと喫茶店・秋葉原和堂がコラボした「結目ユイのメルティーパーティーカフェ」などがある。
秋葉原にあるラーメン屋・野郎ラーメン秋葉原総本店では、あおぎり高校とコラボレーション。店内ではあおぎり高校の限定ラーメンが提供されていた。注文すると大量のグッズが置かれている2階の部屋に通され、店内ではメンバーの歌ってみたやオリジナル曲、魂子さんの描かれたトッピングの海苔だけで印刷費込み138円するというエピソードが放送されていた。
ぶいすぽっ!は、神田明神納涼祭りとコラボした初のオフラインイベントを開催。神田明神納涼祭りは神田明神の夏祭りなのだが、秋葉原という土地柄もあって、次第とキャラクターコンテンツとのコラボを行うように。これまで、アニソン盆踊りやライブイベントを開催していた。
今回はぶいすぽっ!が大規模なコラボを実施。射的などの遊戯や飲食物が用意された屋台にメンバーが描かれ、オリジナルグッズも販売された。会場では液晶モニターが設置され、モニター越しにメンバーが接客。また、当日はグループ会社を同じくするPalette Projectによるライブも開催された。
お台場にある科学館・日本科学未来館では「動画クリエイター展」が開催中。著名なYouTuberが多数参加する中、おめがシスターズがクリエイターとして参加し、トラッカーやマスコットキャラクターを展示。なお、おめがシスターズはVTuber体験コーナーも監修している。展示では、動画クリエイターに関する年表の中に、キズナアイさんが歴史の一部として掲示されていた。
なお、海外でもイベント増加の傾向にあるように思う。ホロライブプロダクションがプロジェクト「hololive Meet」を開始し、Anime CentralやAnime Bostonなど日本のサブカルチャーに関するイベントを中心にイベントに出展をしていた。アジア圏では「Anime Festival Asia Singapore 2022」をはじめ、東南アジア圏でVTuberが参加するライブイベントが増加している。
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