Interview

  • 2020.06.01

音楽も仕事も「卒業」しなくていい 兼業アーティストの日常

音楽を“諦める”、または”卒業する”必要はある?

企業に勤めながら音楽活動を続ける、ヒップホップクルー・CIRRRCLEのA.G.O、メタポッププロジェクト・Frascoのタカノシンヤに「兼業アーティスト」の日常を聞いた。

音楽も仕事も「卒業」しなくていい 兼業アーティストの日常

「音楽一本で成功する」ことを目指し、アルバイトや仕事をしながら音楽を制作する。「売れる」ようになったら仕事を辞める。音楽に限らず、日本の創作活動に携わるものの多くが描く王道の青写真だ。

同時に、「30歳までに芽が出なかったらやめる」という台詞が自分や周囲を納得させるための決まり文句にもなっている。また誰もが、どこかのタイミングで自身の人生を振り返ったとき、「食っていけない」ために音楽を作ることを“諦め”、新たなスタートを切る。

「食っていけない」ことは、アーティストとして世間からは認められにくい。表現の価値や評価は実体がなく、「稼いでいる」という明確な基準は大きな力を持つ。

それゆえに、音楽を“諦める”、”卒業する”という、よくよく考えると不思議な折り合いの付け方が当たり前になってしまう。

しかし、「売れる」アーティストはごく一部であり、表現とその価値にはさまざまなレイヤーとグラデーションが存在する。

音楽を一生楽しむために、「音楽一本で食っていく」ことは選択肢の一つに過ぎない。「仕事か音楽か」を隔てて考えることなくフラットに接しながら活動を行う音楽家は増え、正解のない多様性を下敷きにした社会を自然と映し出しているようにも思える。

今回話を聞いたヒップホップクルー・CIRRRCLEのA.G.O、メタポッププロジェクト・Frascoのタカノシンヤも、そんな「兼業アーティスト」として活動を続ける音楽家だ。

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CIRRRCLE:ボーカル・Amiide、ラッパー・Jyodan、プロデューサー/トラックメーカー・A.G.Oの3人によるヒップホップクルー。2018年にSpotifyのグローバルプレイリスト「New Music Friday」にピックされ、2019年には88 RisingとRed Bullが主宰した「Red Bull Music Festival Tokyo and 88rising present: Japan Rising」に出演するなど、国内外でリスナーを増やし続けている。メンバー全員が音楽活動と並行して仕事をしている兼業アーティストでもある。

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Frasco:コンポーザー・タカノシンヤ、ボーカルの峰らるによるメタポッププロジェクト。彼らのほかサウンドエンジニア、ビデオグラファーなどを含めた8人のメンバーで構成。ダウンロードコードとGPSを付けた風船を空に放つことでの新曲リリース、2週間おきにSpotifyへ新曲を配信しプラットフォーム上にアルバムを完成させる「シンバム」など、独創的なアイデアが話題になった。またマイクロソフトが開発したAI・りんながこの4月に正式加入。タカノと峰も、音楽活動と仕事の兼業をしている。

アーティストとして活動しながら、一般企業の正社員としての顔も持つA.G.Oとタカノ。両者とも1週間の大半を会社員として過ごし、空き時間や休日を音楽活動に費やしている。

仕事で得る生活のためのベーシックな収入が、市場の波に飲まれない純粋なクリエイションのためのメリットであると捉える2人の音楽家に、「兼業アーティストの日常」を聞いた。

インタビュー・編集:和田拓也 構成・執筆:本田悠喜

目次

  1. 時間に追われるほかはメリットしかない
  2. 兼業アーティスト、広告代理店強い説
  3. 音楽家は音楽に集中するべき? DIYですべてやるのがかっこいい?
  4. 兼業アーティストを支えるDTMの恩恵
  5. 20代後半の音楽プロデューサー少ない問題
  6. 最初の一歩は「GarageBand」から

時間に追われるほかはメリットしかない

──A.G.Oさんとタカノさんは、会社ではどのような業務を行っているんでしょうか?

A.G.O 僕は一般企業で企画・マーケティングの仕事をしています。たまに自社のブランド開発にも関わったりしていますね。今はイヤホンに関連した仕事をしているところです。

タカノ: 音楽に繋がっているんですね。

A.G.O 「お前音楽に詳しいんだろ?」って言われて(笑)。

タカノ: わかる!そういう振り方されますよね(笑)。会社は副業OKなんですか?

A.G.O はい、副業申請が通れば。

タカノ: 僕と同じだ。

A.G.O でも副業申請が通るのはレアなほうですよね。僕の場合、会社がこういう仕事を想定してなかったんですよ。人事は大学での講義とか執筆とかを想定していたそうなんですけど、「音楽プロデューサーって何ですか?」と言われて(笑)。まあ通ったので良かったんですけど。

タカノ: そうなんですね(笑)。僕は面白法人カヤックという会社で広告やイベントの企画と、あとはサウンドディレクターみたいなことをしてます。例えば、Web CMの音楽サイドの制作などです。

──A.G.Oさんはいわゆる大企業に所属しているわけですけど、難しい側面はあったりしますか?

A.G.O 僕は社内でもかなり珍しがられますね(笑)。音楽関連の仕事も人脈は使ってもいいんだけど、属人的だから僕には制作の発注はさせられないといわれます。いざ継続的に発注するようになっても、いつか僕が異動になったらどうするんだよ? という理由ですね。規模だけではなく、社風によっても変わるとは思いますけど。

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A.G.O:CIRRRCLE・プロデューサー。強いグルーヴ感や先進的なサウンドを得意とし、アレンジ、ミックスダウンまでこなす。自身の作品以外にもSIRUP、Chara+Yukiの楽曲制作など、国内アーティストとの共作も話題を呼んでいる。

──生活のなかでの音楽と仕事のバランスについて聞きたいんですが、土日に制作をするなど時間の使い方は結構意識するんでしょうか?

A.G.O 意識するにはするんですけど、平日と土日はあまりわけてないですね。会社に行く前の朝にやっちゃいます。

タカノ: え、早起きして? 勤務時間は固定なんですか?

A.G.O 固定です。9時からなので、その前にやる感じですね。

──すごい...。僕はそのあたりの時間に起き出します...。

A.G.O 土日は時間があるときにやるんですけどね。平日の夜にやるとハマっちゃって次の日起きれなくて、会社に行けなくなるから。ケツを作ってやらないと本業が破綻するので(笑)。 今は出社禁止でずっと家にいるから、個人的には超幸せですね。

タカノ: うちの会社もです。電車に乗りたい!(笑)

A.G.O ははは。景色は変えたいですよね。

──タカノさんはどういう時間の使い方を?

タカノ: 僕は通勤中に曲を作るんですよ。

A.G.O 通勤中!?(笑)

タカノ: そうです。電車の中でスマホでひたすら曲を作るんです。それはGarageBandのおかげですね。隙間時間を活用できる。

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タカノシンヤ:Frascoの楽曲の作詞・作曲・アレンジ、企画等を担当。ライブではプレゼンのようなスタイルでMCを行う。

A.G.O 確かに。逆に僕は電車ではできないからインプットしてますね、ひたすらプレイリストを聴いてディグってます。電車でインプットしたエッセンスを頭の中でグルグルさせながら、家に帰って作りますね。

タカノ: やっぱやりかたは様々ですね。僕は周りがざわざわして、みんなそれぞれ違うことをやっている、景色も変わっていくって状況が心地いいんです。家でやっていると視界が変わらないから。電車だといろんなものからインスピレーションが得られるから、作詞作曲は電車がすごく捗りますね。

──兼業の大変なところとしては、やっぱり時間が大きく関わりますよね。

A.G.O ある程度は睡眠時間は削らないと難しいし、そこは大変ではありますね。体が壊れるほどではないですけど。

タカノ: 睡眠時間は削られてますよね...。でも、楽しいからあまり苦しくはないですね。24時間遊んで働いている感覚。

A.G.O すげえ、理想的だ。

タカノ: すごくポジティブですね。体力は削られてると思いますけど(笑)。

A.G.O それはそう(笑)。でも個人的には、時間に追われるほかにはメリットしかないと思ってます。

タカノ: まったく同意です。

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