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  • 2021.01.27

インディーゲーム、VTuber、TRPG…新世紀を切り開く「同人」という魔法

20年ほどの時間の経過は、「同人」の持つ意味合いを大きく変えた。同人的な想像力は現在、どのように偏在しているのか。新世紀に何をもたらすのか。

筆者から提案された最終回のタイトル案は「天の光はすべて星」。

インディーゲーム、VTuber、TRPG…新世紀を切り開く「同人」という魔法

クリエイター

この記事の制作者たち

同人音楽の動向を紹介してきたこの連載もついに最終回を迎えました。

これまでの連載では、同人音楽のサークルや作品に触れつつ、その文化的な位置づけを様々な側面から描いてきました。しかし、2013年から始まったこの連載期間中だけでも様々なカルチャーを巡る環境は大きく変わりました。

今回は同人音楽も無関係ではいられない、カルチャーの環境と未来の話をしてみたいと思います。

執筆:安倉儀たたた 編集:新見直

目次

  1. 様変わりした「同人」のニュアンス
  2. マルチクリエイターの活躍を支えたもの
  3. 在野のゲームチェンジャーたち
  4. TRPGが変えた新世紀の遊び方
  5. 天才たちが活躍するカルチャーの未来
  6. 変わらない思いと、変わっていく環境

様変わりした「同人」のニュアンス

インターネット、そして動画配信サービスの誕生によって新しい表現が次々に生まれたゼロ年代の後半に、「同人」は少し特別な意味合いを帯びて使われるようになっていきました

商業的な成功を目的として制作され、より多くのファンを獲得することを目的とした「メジャー」の権威失墜に対するカウンター、あるいはインディーズの代替(オルタナティブ)として、そして新しい可能性に満ちたクリエイターたちが「ネットの有名人」になった後に活躍しうる場所として注目されるようになったのです。

出版中心のメディアミックスでは「オリジナルのIP」を至上とし、それをスピンオフ作品で取り巻く形で展開されてきました。

その一方で、「東方Project」や「初音ミク」のように、それぞれのクリエイターが自分の好む表現でIPを描く文化が、pixivやニコニコ動画などのWebサービスを起爆剤に、同人即売会の外側にも大きな広がりを持つようになりました。そこから漫画、アニメ、ゲーム、それから音楽に携わる新しい時代のクリエイターたちが登場してきたことは、いまさら言うまでもないことでしょう。

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「同人」という枠組みが、こんな風に可能性に満ちたものとして社会から認められたのは、奇跡に近い出来事でした。

1988年から1989年にかけて起こった「東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件」の犯人であった宮崎勤が、多数の所蔵していたビデオの中にアニメが含まれていたことから「オタク」が、彼が一冊だけアニメの同人誌を発行していたことから「同人」が、この社会から抹殺されなければならない邪悪な文化であるとすらみなされていた時代がありました。

そこから「同人」を含むアンダーグラウンドなサブカルチャーが、ストリートカルチャーとも、メジャーとも異なる文化として認められるようになるまでには、長い時間とたくさんのファン達の力が必要でした。

元号が令和に変わった現在、「同人」のニュアンスがまた、それまでと違ったものになりつつあるように感じられます。

2010年代に始まったサブスクリプション配信の波は、2020年になって同人音楽にも本格的に訪れました。Apple MusicやSpotifyで上海アリス幻樂団の弾幕シューティング「東方Project」シリーズを原作とする二次創作が1万作以上公開されました。

これは「東方Project」という、同人イベントにおける「ジャンルコード」の一つでしかなかった二次創作群が、一つの音楽ジャンルとして配信サービスに認知されたことを意味します。

この出来事は音楽プラットフォームにとって、「同人」と「プロ」の溝が、あるいは「オリジナル」と特定の「二次創作」の溝が、配信においてはほとんど違いがなくなってしまう未来を示唆するニュースになったように思います。

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