LAM インタビュー「僕は天才ではない、だけど──」

Interview

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  • 2020.11.21 19:00:00
LAM インタビュー「僕は天才ではない、だけど──」

LAM「赤」

LAMさんの描くイラストの特徴は、攻撃的という表現すら優しく感じるほどに強烈な「目」だ。その目が放つ神秘的な閃光が拭い去れない違和感として残り続け、気づけばその印象は脳裏に強く焼き付けられる。

イラストレーターのさいとうなおき氏が、2020年代の流行を作り上げているイラストレーターの一人としてLAMさんの名前を挙げているように、いまやシーンの潮流にすら影響を及ぼす重要人物の一人に数えられるようにもなったが、当の本人は自らを凡人であると言ってゆずらない。

多摩美術大学を卒業した後、ゲーム会社・アトラスに入社。会社員として働きながらイラストを描き続け、2018年に独立すると専門学校HALの2019年度CMのアートワークや、エナジードリンク「ZONe」のキービジュアル、九条林檎馬犬などのVTuberデザインを担当するなど精力的に活動を展開。

デザイナーのカトウさんと主催しているデザインチーム・雷雷公社での活動に加え、2020年10月にはガガガ文庫より刊行の『魔女と猟犬』で自身初となるライトノベルの表紙と挿絵を担当。さらにそのクリエイティブの領域を広げている。

3月には初の個展「目と雷」を開催。視覚的刺激に溢れた個展のなかで、入り口近くに小さく書かれていた彼の言葉が忘れられない。

私の作品が、この空間を通して あなたの雷のような存在になれることを願っています。

時間をかけて考えたというこの一節に、LAMのイラストレーターとしての信念は集約されている。だがそれだけで理解するには彼のクリエイティブが放つ光彩は、強烈にして複雑である。

本格的にイラストレーターを志すのは遅かったと明かす彼が、シーンの最前線に躍り出るまでの軌跡を辿ると共に、目にした人に衝撃を与えたいという願望に正面から挑む覚悟を訊く。

目次

  1. 本気でイラストを描きはじ始めたのは遅かった
  2. 美大生なのに部活動に全力だった学生時代
  3. 良い作品を残せたときは、描いた記憶がなくなるほど、トランスしている
  4. 人生が変わるほどの一か月──「バーチャル蠱毒」について
  5. 「イラストを見て、泣いたことがありますか?」
  6. 訪れるであろう「想像もできないような変化」に向けて
  7. 凡人が、数多いる天才に迫るには

本気でイラストを描きはじめたのは遅かった

──LAMさんの作品は、なんといっても目が印象的です。なぜ目に強くこだわるようになったのでしょう?

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『彼女が死んだ夜』(幻冬舎)より

LAM 『らんま1/2』のシャンプーに『うる星やつら』のラムちゃんのような釣り目の女の子や、綾波レイとか『魔法先生ネギま!』のエヴァンジェリン、『機動戦艦ナデシコ』のルリルリみたいな人間離れした神秘性を秘めたクールな眼差しを持つキャラクターを好んで模写していたのがまずきっかけだったと思っています。

なんで目に執着していたかは思い出せないんですが、作家性の違いは目に現れるなと感じていたので、目だけの模写もよくしていました。

自分が目から好きになるタイプだからこそ、自分のイラストもまず目から好きになってほしいという気持ちがあって、目にこだわりを持ってイラストを描いています。

──瞳の力強さもさることながら、マスカラやアイシャドウなどお化粧的な意匠が細かく入っているのも特徴的ですね。

LAM やはりそういうお化粧が単純に好きなのが一番大きな理由ですが、イラストの女の子はリアルには寄せない記号的な美徳があります。チークは入っていても、リアルの女性が当たり前にメイクで入れるシャドウとかリップが入っていないことが多いなと気づいたんです

それと高橋留美子先生の影響が強くて。シャンプーもラムちゃんもアイシャドウが入っているんですよね、それを可愛いなと思って僕もお化粧をさせるようになりました。

おかげで目の印象が強いと言っていただけるようになったんですが、強い目が好きすぎるあまり、たとえばちょっと抑えめでとか、たれ目の女の子のイラストをお願いしますと依頼が来た時に、自分としては抑えめのたれ目を描いたつもりなのに、これは釣り目ですと言われることもありました(笑)。

──現在のようにイラストレーターとして独立される前は、ゲーム会社のアトラスに在籍されていたそうですね。

LAM 新卒で入社しました。UIを数年間担当し、その後少しだけアート班に移りました。

職業としてのイラストレーターを意識した時に、いろんな有名イラストレーターさんの経歴に「ゲーム会社に就職、退職しその後フリーに」って書いてあることが多いなって気づいたので、じゃあ僕もゲーム会社に入ろうと思ったんです。いくつか受けた中でもアトラスは本命の一つだったので入れて嬉しかったですね。

会社員としてゲーム制作に関わりつつ、コツコツやっていた同人活動が認められてお仕事がいただけるようになったので、独立することになりました。

──その頃の経験は今のお仕事に活きていますか?

LAM 「女神転生」や「ペルソナ」シリーズなどの作品を見て、ゲームという領域でこんなにお洒落なものができるんだと衝撃を受けたんです。そこからアトラスに惹かれたので、やはり学ぶことは多かったです。

でも面接を短パンで受けにいって、しかも課題を忘れて一時間遅刻までしてしまってめちゃくちゃ怒られたので、今でもどうして受かったのか不思議ではあります(笑)。

イラストを描くことは小さい頃から好きだったんですが、クラスに一人はいる「絵の上手な子」というレベルでした。技術があったわけでもなく、美大に入ってからもこの中で自分が一番下手だって劣等感を常に感じていました。

今売れているイラストレーターさんの多くは、10代から頭角を表していた人が多いと思います。でも、僕は上手くなろうと意識して描きはじめたのも本当に就活をはじめてからで。最終面接に行けただけでラッキーだとも思いましたし、入社してからもずっと下手なままだったんです。

──ではアトラスでの実務の中で今に繋がるイラストの技術を磨かれたのですか?

LAM アトラスでは主にイラストを描く仕事についていたわけではなかったので、デザインや社会人としての振る舞いを学ぶことはできましたが、イラストの技術自体は完全に趣味の創作で磨いていました。

同人イベントに出るようになったのも社会人になってからなんです。最初に出たのはコミティアで、今まで描いたイラストをまとめたペラペラの冊子を持ち込んだんですが、やはり全く売れなくて(笑)。在庫を抱えて帰りました。

でも、参加してはじめて同人の世界に触れて、イラスト創作の楽しさに気付いた。そこで改めてもっとちゃんとイラストに取り組もうと思うようになりました。

会社員をやりつつpixivやTwitterにイラストをあげたりしていたんですが、3年目くらいの時にイラストレーターさんと食事にいく機会がありました。そこでさん、POKImariさん、ニリツさん、望月けいさんといった何万人もフォロワーがいる方々とお話しした時に、僕もこの人たちと同じレイヤーで話せるようになりたいと思ったんです。そこから1年半くらい死ぬ気でイラストに取り組みました。

美大生なのに、部活動に全力だった学生時代

──凄まじい努力をした期間があったんですね。会社員との両立は大変ではありませんでしたか?

LAM アトラスは本当に良い会社で、基本的に定時で帰ることができたんです。なので会社員をしながらも絵のことをひたすら考えて学ぶ生活を送ることができていました。

はじめは本当に下手だったので、少しでも上達すると自分自身でそれがわかって、いただくリアクションも増えるようになっていったんです。それをモチベーションにひたすら絵を描いていたのですが、それでも本気でイラストを描きはじめたのが遅いという自覚があったので、とにかく頑張らないとと思っていました。

──明確にイラストレーターになろうと思って美大に進まれたわけではなかったんですね。

LAM イラストレーターを目指していたわけではなく、なにか絵を描く仕事に就ければと思って美大に入りました。デザインも好きだったのでグラフィックデザイン科を選んだ感じで、そんなに先のビジョンを見据えてやってたわけではなく、単純に「絵を描きたい」「デザインに関わりたい」という漠然とした気持ちだったんです。

だから入学したころは広告デザインの道に進むのかなと思っていました。グラフィックデザイン科は佐藤可士和さんとか佐野研二郎さんが出身の学科でしたし、僕もなんとなく広告デザインの道に進むのかなくらいで。今思うと本当にふわっふわしてましたね。

──学生時代は熱心に創作に取り組んでいたわけではなかったんですか?

LAM 大学時代はずっと部活をやってました。美大生なのにガチの体育会系の部活に入っていて、教授からの評判が悪くなるほどに部活動にのめりこんでいたんです。

あとは芸術祭の実行委員とかもやっていて。絵を描く技術というよりは企画運営とかコミュニケーションは学べたと思います。他人となにかをつくることのノウハウは、今の仕事にも繋がっていると思う。社会人としても活きた経験でしたし、結果的にデビューが遅くはなりましたが、全く後悔はしてません。

社会に出てからのデビューだと、「若くして」「驚異の10代」といった称号は得られないのですが、逆に言えばデメリットはそれくらいです。むしろ社会経験していないクリエイターが、クライアントや周りとのコミュニケーションがうまくできなくて悩んでるみたいなケースもすごい多いんです。

部活をやったり会社員になることで、クライアントとのコミュニケーションや、一緒に作業するスタッフの気持ちを汲み取る──そういう能力が培われた。なので僕はすぐにフリーランスになるのと会社員を経験するのどっちがいいかと聞かれると、就職をオススメしています。

──社会人を経験してからイラストレーターになることは、やはり珍しいことなのでしょうか?

LAM そんなことはないです。元々別の業種だったけど絵を描き始めた人ももちろんいますよ。

ただ、若くてめちゃくちゃ上手いって方がたくさんいるのも確かです。高校生なのにpixiv上位ランカーみたいな人も全然珍しくなくなりました。実は大学の同級生に藤ちょこさんがいらっしゃったんですが、彼女はそれこそ僕がまだ「見る側」だった時代からずっと一線で活躍されています。

同年代や年下にそれだけすごい人たちが当たり前のようにいることに対して、焦りや劣等感はすごくありました。

──他のクリエイターに対して嫉妬することは多い?

LAM もちろん悔しいと思うことはたくさんあります。でもやっぱり僕はポジティブな方なので、上手い絵を見たらすごい! うまい!って感激が最初にくる。そこから嫉妬というネガティブな感情にもっていくのではなく、受けた衝撃を自分のイラストにどう活かしていくかを考えるようにはしています。

それでも、もちろんのたうち回るほど悔しい気持ちになることもあります。僕がやりたかったような仕事で、すさまじい成果を目の当たりにした時なんてはちきれそうにもなりますが、それも楽しいと思ってしまうんです。

同世代どころか10代にして素晴らしい画力のイラストレーターさんもいるし、黒星紅白さん、三輪士郎さん、コザキユースケさんにヤスダスズヒトさんなど、上の年代の方々も最前線で活躍し続けている。いまのイラストレーターのシーンというのは、ヤバいくらいに層が厚くて、とんでもない戦国時代になっている。僕自身も負けてらんないってゾクゾクするんですよ。そういうのも含めてやはり楽しい気持ちの方が強いです。

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「時間をかければかけるほどいいイラストになる」という呪縛