J.Coleを過小評価してないか? 最も賢く、偉大で、伝説的なラッパーの半生
2021.12.28
世界に名だたるエミネムは、なぜ当時のトランプ大統領を批判したのか?
※本稿は、2018年に「KAI-YOU.net」で配信された記事を再構成したもの
クリエイター
この記事の制作者たち
こんにちは、ラッパーのRAqです。
今回は、世界中で知名度のあるエミネムを取り上げ、彼がトランプ元大統領を批判していた理由を紐解きたいと思います。
※本稿は、2018年に「KAI-YOU.net」で配信された記事を再構成したもの。当時のトランプ政権は現役だったが、2020年末の大統領選挙で、現大統領のバイデンの前に敗れている
目次
- トランプ政権を批判する理由とは?
- スリム・シェイディの代償は家族との分断
- トランプ大統領が呼び起こす「スリム・シェイディ」が分断するもの
- エミネムとアメリカの“Revival(再生)”
全世界で累計1億枚以上のアルバムセールスをほこるエミネム。半自伝的映画『8 Mile』(2002年)は日本でも大ヒットし、そこで扱われたMCバトルの存在を大きく広めました。
そんなエミネムが2017年10月、「BET Hip-Hop Awards 2017」の授賞式で「The Storm(嵐)」と呼ばれるフリースタイルを披露して、当時大統領だったトランプを痛烈に非難します。
トランプ支持者であれば、たとえ自分のファンであったとしても突き放す──そんなパンチラインが賛否両論を呼びました。
しかし、それは結果として「エミネムの勇敢な行為」と受け取られます。なぜなら、エミネムとトランプ元大統領の支持層は重なっていたからです。
And any fan of mine who's a supporter of his
I'm drawing in the sand a line: you're either for or against
And if you can't decide who you like more and you're split
On who you should stand beside, I'll do it for you with this:
F**k you!意訳:
俺のファンの中で、奴(トランプ大統領)のサポーターでもあるお前たちへ、
俺は砂に1本の線を書いてやる。お前はこっち側かあっち側かのどちらかだ。
もしもお前が俺とトランプのどっち側に着くべきか決められないっていうのなら、俺がその仕事を代わりにやってやるよ。
お前なんて糞食らえだ! The Storm(BET Hip-Hop Awards 2017 Freestyle)
エミネムとトランプ元大統領の支持層が重なっていたのはなぜか。
エミネムは、お金持ちのエリート層やセレブリティにとどまらず、自分の妻や母親まで誰かれ構わず“口撃”する下品なペルソナ(=スリム・シェイディ)を生み出すことで、郊外の白人層などの共感を呼び、大成功をおさめたアーティストです。
このスリム・シェイディとは、1stアルバム『Infinite』が思うような結果に繋がらず、フラストレーションが溜まっていく中で、トイレの中でふと思いついたキャラクター。
エミネムの本名(マーシャル・マザーズ)の別人格であり、エミネムの中には「スリム・シェイディ」と「マーシャル・マザーズ」が同居しているという設定です。
スリム・シェイディが生まれた様子は「Without Me」という曲の中でも歌われています。
I've created a monster, 'cause nobody wants to
see Marshall no more they want Shady I'm chopped liver
well if you want Shady, this is what I'll give ya
a little bit of weed mixed with some hard liquor意訳:俺はモンスターを生み出した
誰もマーシャルなんて見たくなかったからさ
あいつらが見たいのはシェイディだった、俺は滅多斬りにされた肝臓さ
お前らがシェイディが見たいってなら、こいつをくれてやるよ
強いアルコールと混ぜた大麻だぜ 「Without Me」
エミネムは2ndアルバム『The Slim Shady LP』以降、「スリム・シェイディという間抜けなキャラクターが言っている」という“タテマエ”を得ます。
こうすることで、「硬派でリアルなものがカッコいい」という風潮のヒップホップシーンにおいて、ラップの内容を過激なフィクションに寄せることができるようになり、唯一絶対の地位を確立しました。
そして、その過激なフィクションの中にこそ郊外の白人層などが求めるユーモアの居場所があったのです。
実際に世間のスリム・シェイディへの共感は、「White America」や「The Real Slim Shady」といった彼の代表的な曲で、何度も表現されています。
See the problem is I speak to suburban kids
Who otherwise would've never knew these words exist
Whose moms probably would've never gave two squirts of piss,
'Til I created so much motherfuckin' turbulence,
Straight out the tube right into your living rooms I came,
And kids flipped when they knew I was produced by Dre,
That's all it took, and they were instantly hooked right in,
And they connected with me too because I looked like them意訳:
分かるかい? 問題は俺が郊外の子どもたちに話しかけてるってことなんだよ。
俺が乱流を巻き起こすまでは、こんな言葉があるとも知らなかったような子どもたちにね。唾を吐くようなことさえないような母親たちの子どもたちさ。
テレビを通じて、みんなのリビングに直接に登場したってわけさ。
子どもたちは、俺がDr.Dreにプロデュースされてると知って、舞い上がってた。
それだけで十分だったのさ、あいつらは途端に俺に夢中になった。
そして、俺が彼らに似ていたから、俺に共感したのさ。 「White America」
And every single person is a Slim Shady lurking
He could be working at Burger King, spitting on your onion rings
Or in the parking lot, circling
Screaming "I don't give a fuck!"
With his windows down and his system up
So, will the real Shady please stand up?
And put one of those fingers on each hand up?意訳:
全員の中にスリム・シェイディは潜んでるんだ。
彼はバーガー・キングで仕事中にお前のオニオン・リングにつばを吐きかけてるかもしれないし、駐車場をぐるぐる回りながら、窓を下ろして音量を上げて、「知ったこっちゃねえ!」なんて叫んでるかもしれない。
だから、もし本物のシェイディがいるなら立ち上がってくれるかい?
それで、両手の中指を立ててくれるかい? 「The Real Slim Shady」
エミネムは侮蔑的な表現を用いて社会を煽り、活動家の批判の対象にもなってきました。それらの表現はトランプの過激な発言とも方向性が近いため、支持者が重なる割合も大きいはずです。
そうしたファンを失うリスクを背負ってまで、トランプを批判したという風に評価されたわけです。
それでは、なぜエミネムはそこまでしてトランプを批判したのでしょうか。トランプ政権が発足した2017年にリリースされたエミネムのアルバム『Revival』を聴くと、彼がトランプを批判する理由が見えてきます。
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