ラッパーたちはなぜ、ドラッグを歌うのか?

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  • 2019.05.10 19:00:00
ラッパーたちはなぜ、ドラッグを歌うのか?

2017年に合成オピオイドのオーバードーズで死去したLil Peep(画像はInstagramより)

どうも、RAqです。

ラッパーのリリックを中心に、アメリカのヒップホップ業界や社会状況を読み解いていこうというこちらの連載。今回はヒップホップと深い関わりのある「ドラッグ」について、客観的な事実や関連する歌詞と共に書いてみたいと思います。

今やヒップホップ界のゴッドファーザーであるJay Zが、コカインのディーラー出身であることからも分かるように、ヒップホップ文化とドラッグは切っても切れない関係にあります

そんなJAY Zがドラッグの売人として現役であった1980年代、アメリカ社会に蔓延していたドラッグは、「クラック」と呼ばれる、煙草で吸引できる形態のコカインでした。

Somehow the rap game reminds me of the crack game
See that rap shit is really just like sellin' smoke

なぜだろう、ラップ・ゲームは、俺にクラック・ゲームを思い出させる
分かるだろ、ラップを売るのは、麻薬を売るのに似てるのさ

Jay Z - “Rap Game / Crack Game”

当時、供給過剰によって需給が崩れ、粉末コカインの価格が暴落。新たな需要を見つけ出す必要性に迫られた薬の密売人たちは、もっと所得が低い層にも買ってもらえるよう、ほんの少量から販売することができる「クラック」を生み出しました。

1回分の使用価格が2.5ドル程度というお手頃な価格に抑えられたことで、手が届くようになったクラック・コカインを乱用する若者が急増、アメリカの主要都市全てにおいて蔓延することとなったのです。

以下のグラフでは、人生においてコカインを使用したことのある若者の割合が1980年代には16%を超えるまでになっていたことが読み取れます。

現在まで続く、ギャングスタ・ラップの文化

クラックの流行によってコカインが身近な存在となったことに加えて、1983年に上映された、アル・パチーノ演じるキューバ系移民のトニー・モンタナがコカインの密売人として成り上がっていく映画『スカーフェイス』のヒットなどにより、ギャングやドラッグ・ディーラーというキャラクターへの需要や関心が高まっていきます。

また、クラックブームの中でドラッグの密売を経験してきた層が、違法なドラッグ売買から身を洗うためにラップに打ち込み始めたことで、世間のギャングスタやドラッグ・ディーラーというキャラクターへの需要と、それを実際に身をもって経験してきた供給サイドが揃ったのです。

こうした背景から、西海岸では「ブラッズ」や「クリップス」というカラーギャングに所属していた過去を持つラッパーたちも登場し、「ギャングスタラップ」が台頭します。東海岸からは、ドラッグの密売をしていた過去を持つラッパーたちがマフィアの世界観を取り入れた「マフィオソ・ラップ」を生み出します。

具体的には、西海岸ではIce-TやSnoop Dogg、東海岸ではNotorious B.I.G.やJay Zなどが挙げられます。

I know how it feel to wake up fucked up
Pockets broke as hell, another rock to sell
People look at you like you's the user
Sellin' drugs to all the losers, mad buddha abuser

めちゃくちゃな生活の中で目覚める気持ちを俺は知っている
ポケットは一文無し、販売用のコカイン
みんながお前をヤク中を見るかのような目で見つめる
すべての負け犬どもにドラッグを売りつける、大麻の乱用者 Notorious B.I.G. - “Everyday Struggle”

こうしたギャングやドラッグ・ディーラーの世界をパッケージング化したヒップホップの台頭によって、大麻を吸ったり、コカインを売ったりという描写がヒップホップの歌詞に積極的に取り入れられていったのです。

ヒップホップは、このギャングスタラップの影響を現在まで色濃く引き継いでいるため、ドラッグの描写が多いのです。

I'm one of the best niggas that done it
Six digits and running, y'all niggas don't want it
I got the Godfather flow, the Don Juan DeMarco

俺はドラッグディールで一番成功した黒人の1人さ
6桁で資金運転、お前たちは辞めとくのが無難だぜ
俺はゴッドファーザーのようなフロウ
まるで、Don Juan DeMarcoさ

Jay Z - “Can’t Knock the Hustle”

さて、そんなクラック・ブームから約30年。近年、アメリカでは再びドラッグが社会問題となっています

日本では芸能人による大麻での逮捕などが、たびたび報道されますが、現在アメリカ社会やヒップホップ界隈を悩ませている2種類のドラッグは「オピオイド」と「リーン」です。

これらのドラッグは、どちらも基本的には合法であるという点に特徴があります

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リーンとオピオイド、それを歌うラッパー

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