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  • 2022.06.16

「NFTアートを買うことは、お守りを買うことに似ている」アーティスト側の実感

現代美術家のたかくらかずき。2021年からNFTアートに参入、かねてからの作品のモチーフでもある仏や妖怪を題材にしたNFTアートを制作している。

勃興する新たなカルチャーの渦中にいるアーティストが丁寧に言葉にした「NFT」とそれがもたらしているものについて。

「NFTアートを買うことは、お守りを買うことに似ている」アーティスト側の実感

クリエイター

この記事の制作者たち

2021年4月25日に初めてのNFTアートがFoundationで売れた。僕は別のプロジェクトで佐賀にある有田の窯元にいて、自分のデジタル作品のオークションにどんどんETHが加算されていくのをスマホから見ていた。

はじめて売れたNFT作品”DigitalTomb#2

はじめて売れたNFT作品”DigitalTomb#2 "gaming"HDver”

目次

  1. ブロックチェーンと出会った3年前まで遡る
  2. NFTという、未来からやってきた超原始的な市場
  3. NFTの仕組みについてアーティスト自身がわかりやすく解説するとこうなる
  4. 「独り占めできない画像データなんか買ってどうするの?」という問いへの応え
  5. NFTはアイデアの分霊、お守りである
  6. NFTアートはアートなのか?
  7. NFTは、ロールプレイによって「現実を変える」ことができる
  8. アーティストにとって夢のような黎明期と、起こり得る未来について
  9. NFTアートは、現代美術やオタクカルチャーへのカウンターである

ブロックチェーンと出会った3年前まで遡る

話はコロナ禍前、2019年に遡る。現在は京都に住んでいるが、その頃は東京に住んでいた。

Startbahnという会社が"ブロックチェーンを使ってアートの証明書を発行する"というシステムを宣伝するにあたり、そのイメージビジュアルを作成してほしいというオファーがあった。

当時彼らが思い描いていた"アートブロックチェーンネットワークでできること”の構想には、アートの真贋鑑定、VR、ゲーム、アプリ、オークションなど、たくさんの未来が描かれていた。

「ブロックチェーン一つでそんなにたくさんのコンテンツが繋がっていくの?よくわかんないな」と僕はまだピンとこないまま、そのイメージを作成した。その後、Startbahnの"アート作品のブロックチェーン証明"の仕組みを使って、自分のデジタルデータにブロックチェーンの証明をつけて販売してみることにした。今思えば、この構想は来るべき未来を予見していた

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スタートバーン株式会社のためのアートワーク”And Big Nature”

2021年4月、どうやらブロックチェーンを使ったNFTという仕組みが海外のデジタルアーティストの間で流行っているらしいこと、OpenseaやFoundationというプラットフォームがあるらしいこと、The Sandboxをはじめとするメタバースと呼ばれるバーチャル世界があってそこでは土地を販売しているらしいことなどを友人に教えてもらった。MetaMaskというウォレットをとりあえずつくればいいらしいことがわかったので早速つくり、友人たちとWebを漁ってNFTについての情報共有をした。そして、会員制マーケットであるFoundationの招待をもらって、NFT用のデジタル作品をつくり始めた。

NFTという、未来からやってきた超原始的な市場

ドット絵、アニメーション、現代美術、ゲーム内での展示会主宰……デジタルデータをおもに扱う作家としてこれまで10年近く活動してきたが、それまで経験してきたデジタル表現を取り巻く環境は、とくにマネタイズにおいてなかなか苦労するものが多かった。

「デジタル画像やそれを印刷しただけのものはアートピースとしては認められない」時代が長く続いていて、その中で僕は「どうやったら一点モノのような物理的感触をもったデジタル平面作品をつくれるだろう」みたいなことばかり考えていた。

かたや、映像作品にエディションを付けるという行為もなんだか理にかなっていないようでしっくりこない。だってどんなにエディションをつけたって、いくらでもコピーできてしまうのだ。オリジナルアニメーション作品をつくってもすぐにお金になったりしないから、我々のようなデジタルのアーティストや映像作家は、WebやTVの仕事をして暮らしていくのがいいのだろうと思っていた。

Web1.0、Web2.0がもたらした恩恵は、僕たちデジタルアーティストにとってもちろん大きなものだった。この20年でたくさんの豊かな文化が育まれた。インターネットレーベル、インターネットアートの台頭や、pixiv、ニコニコ動画、YouTube、Wikipedia、さまざまな画像や動画、テキストなどの情報がいくらでも無料で享受できる状態は、僕たちの知識や表現の領域を無限に広げてくれた。

無限にインプットできる、素晴らしい状況。しかし、表現者にとってのアウトプットはどうだったか。実はこれが難しい点で、"デジタルなインプットが無料で可能"なこの状態は"デジタルなアウトプットに価値がつかない"状態と表裏一体だったのだ。

インターネット上のデジタルな情報はなぜ無料なのだろうか? それらはほとんど運営会社のサーバーに置いてあるからだ。デジタルとはいえサーバーの料金はかかるものだが、そのサーバー費用はYouTubeやpixivが支払ってくれるおかげで、僕たちは無料で情報を得ることができる。

では、なぜ運営会社は無料で僕たちに動画や画像を見せてくれていたのだろう? それはTVと全く同じように"広告収入"によって利益を得ているからにすぎない。見る側は情報を見るために広告を見なければならず、つくる側は広告を見せるためのコンテンツとして映像や画像をつくっていた。

今まで僕たちのつくった絵や動画などのデジタルコンテンツは"無料で提供されている"だけではなく"企業の広告収入を得るためのコンテンツとして使用されている"状態だった。NFTの登場で、この状態が一変した

僕がその気配を感じたのは、冒頭に書いた通り2021年4月、Foundationで最初の作品が売れた時だった。僕が販売した作品がいくつかのNFTコレクターの目に留まり、オークション形式でどんどん価値がせり上がっていく。多少の手数料をFoundationやOpenseaなどのプラットフォームに支払う形にはなるが、売上のほとんどは自分のウォレットに入る。作家とギャラリーとの6:4あるいは5:5のような収益配分の関係性ともまた違って、コレクターと作家が直接繋がる形なのだ。

これこそが、実はギャラリーやオークションハウスなどの仲介業者が最も恐れていた形であり、不動産会社や広告代理店が最も恐れていた形であり、TVやYouTubeやTwitterといった広告収入で成り立っている企業の最も恐れていた形でもあるだろう。

NFTは"インターネットのスケール感でワールドワイドにエクストリーム化した、人対人の超原始的な青空市場"なのだ、と理解した。

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はじめてOpenseaで販売したコレクティブルシリーズ”NFT BUDDHA 001_NYOIRIN KANNON”

NFTの仕組みについてアーティスト自身がわかりやすく解説するとこうなる

NFTアートとは一体なんだろう。僕はプログラムが書けるわけでもテクノロジーに精通しているわけでもないが、やっとその輪郭を自分なりに解釈することができた。ブロックチェーンそのものについては長くなるのでここでの解説は割愛するが、NFTについて感覚的にわかっていることを話す。

NFTにはおもにETH(イーサリアム)という仮想通貨が使われている(そうでない場合もあるが)。ETHの特徴は"仮想通貨内にプログラムを内包できる"ことで、ETH内のプログラムに画像データの保存場所などのメタデータを書き込んだものがNFTと呼ばれている。

僕はこの様子を見て、架空のコンピューターや架空のゲームカセットのことを考えた。ETHの中ではプログラムを記録することができるようになっていて、さまざまなプログラムを書き込むことにより、画像や動画と紐づけるだけでなく、いろいろなゲームルールも作成することができるというわけだ。

NFTには大きく分けて3種類が存在する。「共有コントラクト」「独自コントラクト」「フルオンチェーン」だ。

まず一番手軽に作成できるのが共有コントラクトというもので、OpenseaやFoundationなどへの通常のアップロードでは、このコントラクトを使用したNFTとなる。この共有コントラクトはOpenseaなどのプラットフォームが用意したもので、誰でも簡単に使用できる。

その代わりに、画像の保存場所などはOpenseaのサーバー内にあるため、プラットフォーム依存が高い形となる(それを回避するための、​プラットフォーム外のストレージに情報を保存する​フリーズという機能も一応ついている)。僕の作品シリーズだと『NFT BUDDHA』がこれにあたる。

2つ目は独自コントラクトというもので、これは作品制作者側で独自のトークンを作成し、それを使用してNFTを作成する方法。プログラムの開発やガス代の負担などのリスクがある代わりに、プラットフォームに依存せずにNFTを作成できるメリットがある。

たとえOpenseaがなくなったとしてもNFTと紐づけられたデータが外部の分散型サーバーに保存されていれば、おそらく消滅することはない(とされている)。また、前述のように独自のゲームルールをプログラムに書き込んで外部サイトやNFT同士のインタラクティブな機能を作成できるのも独自コントラクトの強みだ。僕の作品シリーズだと『YOKAIDO』がこれにあたる。

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はじめて独自コントラクトで制作したコレクティブルシリーズ”YOKAIDO_018 MAKURAGAESHI”

そして3つめがフルオンチェーンという形で、共有コントラクト、独自コントラクトが”画像や動画の保存場所”を記述しているに過ぎなかったのに対し、フルオンチェーンの場合、画像や動画データそのものをプログラムとしてNFTに書き込んでいる、というものだ。

こちらのメリットとしてはプラットフォーム依存どころかサーバーにも依存しないことで、かつインタラクティブ性のあるルールづくりも可能だ。一方、デメリットはNFTそのものの保存容量が小さいためあまり大きな動画や画像が保存できず画像データなどはシンプルなものになりがちなこと、ミントするためのガス代が高くなりがちなことである。

現在のNFTアートはこれら”コントラクトの方式”によっても価値付けられることがある。僕なりの解釈でいえば、これは物理美術作品においての使用素材や技法による価値の差に近いものがある。

例えば共有コントラクトはシルクスクリーンプリントなどの汎用的な印刷物、独自コントラクトはキャンバスペイント、フルオンチェーンはフレスコ画や壁画のような強度を持ったもの……というような違いなのではないかと思っている。美術作品同様、NFTアートもこうした形式による価値はあくまで基準となるもので、それを超越した価値を持つ作品ももちろん存在する。

「独り占めできない画像データなんか買ってどうするの?」という問いへの応え

NFTアートの所有感覚は非常に不思議なもので、僕もひとつ買ってみるまでは「独り占めできない画像データなんか買ってどうするんだろう? 楽しいのかな?」と思っていたのだが、いくつか買ってみるとどんどん面白さがわかってきた。

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NFTが浮き彫りにしたのは、人間の“所有”という感覚