配信同接数で見る、国内ネット文化の1週間 ジャニーズ会見は5位
2023.09.14
「なぜ人は、世界が終わる物語が好きなのか」。この問いを補助線に、現代の物語群を読み解く連載が岩永亮祐氏による「現代物語概論」だ。
前編では、私たちがある作品を好む傾向性(ブルデューの言う「ハビトゥス」)を前提に、古今東西の終末論とそれにまつわるフィクションを辿りながら、日本で生まれた2000年代前後の作品群を紐解いていった。
世界の終わりと実存の問題を直結させた『新世紀エヴァンゲリオン』などに代表される「セカイ系」および、それに先立つ村上春樹の作品。
終末思想の反動としての「日常系」。そして、その総決算としての『魔法少女まどか☆マギカ』を振り返った。
後編では、「世界の終わり」への向き合い方ごとに、令和以降の物語を5つに区分しながら論じていく。
具体的には、新海誠、宮崎駿、日常系の鬼子としてのはまじあき『ぼっち・ざ・ろっく』、異世界転生ものと『ニセモノの錬金術師』、反出生主義と無敵の人を描く作品群、そして中韓のソーシャルゲーム『ブルーアーカイブ』『アークナイツ』などが題材となる。
目次
- 1-1 セカイ系の現在(セカイ系の否定)──新海誠の作家性
- 1-2 『すずめの戸締まり』ダイジンの処遇と、現実の天皇制
- 2-1 子供は世界を無視してもいい──宮崎駿の描く社会と戦争
- 2-2 実存を社会と接続できず苦しむ『ぼっち・ざ・ろっく』
- 3 世界が終わる前に──異世界転生と『ニセモノの錬金術師』
- 4-1 「反出生主義」の描かれ方に、現在の多数派が顕在している
- 4-2 無敵の人が突き付ける2つの問い、『おにまい!』という解
- 5-1 ソーシャルゲームは、現代人の心を映す鏡として機能する
- 5-2 オタク的想像力が結実した『ブルーアーカイブ』の欲望
- 5-3 非感染者と感染者の対立に介入する『アークナイツ』の世界
- 5-4 個人の終わりと世界の終わりが強制的に促した、実存の獲得
- 5-5 今、現実の私たちが主人公に求める像──現代物語概論
前編の終わりで具体的な作品群と傾向性を予告したが、全てを深堀りすると記事が終わらなくなってしまうので、言及してきたポイントに絞って見ていきたいと思う。
まずは1の、今や世界に誇る映画監督である新海誠の作品について……つまりセカイ系の今についてだ。
言わずもがな、新海誠はセカイ系のど真ん中に位置していた作家だ。初の劇場公開作品『ほしのこえ』から連なるアニメ作品群はもちろん、それ以前からセカイ系の巣窟であるエロゲ―界隈のオープニングを手がけていたり、ゼロ年代の礎を築いた作家とも言える。
そんな新海誠が2023年の今どのような作品を手がけているのか。それはある種、これまでのセカイ系の否定である。
少年ないし少女が世界を救うという構図は、見方を変えると少年ないし少女の人生を犠牲にして世界を継続させるということであり、それが最も色濃く出ているのが『すずめの戸締まり』と前作『天気の子』だ。
この2作品に共通しているのは、本来抗うことのできない自然現象(天気・地震)をコントローラブルなものとして描いていることだ。
『天気の子』ではヒロイン(天野陽菜)が晴れ女として活躍し、『すずめの戸締まり』では災害を封じ込める要石(ダイジン)の行方がメインストーリーとなっている。
新海誠はこの「特定の誰かの犠牲の上に成り立つ世界」を否定した。
具体的には『天気の子』では「特定の誰か(天野陽菜)がいないくらいなら水没した東京で皆で苦しんだほうがマシ」という決断を行った。
世界全体を見るならビターエンドだが、主人公(森嶋帆高)は「この世界は狂ってるかもしれないが、自分はこの世界を選んだし、この世界で彼女と生きていくことを決めたんだ」というこれ以上ない完璧な実存を獲得する。
誰かを踏み台にして生きていくことの否定と「ではそんな世界であなたはどうするのか」という問題提起。“知らないふりをするな”──これが新海誠の最新の作家性である。
そういう目線で考えたとき、『すずめの戸締まり』はある意味最悪だったと言わざるをえない。
災害を制御可能なものとして扱ったことへの批判などもあるが、自分はそこは気にならなかったし、ストーリーも素晴らしかった。問題はただひとつ、要石であるダイジンの処遇である。
続きを読むにはメンバーシップ登録が必要です
今すぐ10日間無料お試しを始めて記事の続きを読もう
800本以上のオリジナルコンテンツを読み放題
KAI-YOUすべてのサービスを広告なしで楽しめる
KAI-YOU Discordコミュニティへの参加
メンバー限定オンラインイベントや先行特典も
ポップなトピックを大解剖! 限定ラジオ番組の視聴
※初回登録の方に限り、無料お試し期間中に解約した場合、料金は一切かかりません。