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2023.10.26
歌い手・Adoさんが、2023年10月23日に「うっせぇわ」でのメジャーデビューから3周年を迎えた。
インターネット上で顔出しせずに活動するクリエイターだったAdoさんは当時高校生。
メジャーデビュー曲が流行語大賞トップ10入りし、一躍社会現象を巻き起こすと、その後も“超”が付随するヒットを連発している。
そして、デビュー3周年を迎えた翌日には、ワールドツアーの開催も発表。
彼女の3年間の足跡を、ターニングポイントとなった楽曲/アルバムを通して振り返りながら、J-POPにおけるAdoさんの音楽的な特異性と価値を掘り下げていく。
目次
- ネットの音楽シーンが、大衆音楽になるまで
- “ちっちゃな頃から優等生”「うっせぇわ」が示した精神性
- 『狂言』と『ウタの歌』対照的な2枚のアルバム
- “この世とメタモルフォーゼしようぜ”「新時代」で踏み出す一歩
- 2024年の世界ツアーへ、さらに広がるスペクトラム
本稿は、KAI-YOU.netで2023年10月に公開された記事を再掲載したもの
2000年代以降の日本のインターネット音楽シーンは、ニコニコ動画やYouTubeなどで活動するボカロPや歌い手が、大きな存在感を放ってきた。
当初は大資本が動くメジャーシーンから離れたムーブメントでしたが、需要が巨大化することで、国内ポップミュージックの筆頭となった。
代表的な事例としては、Reolさん、DAOKOさんのような歌い手/ネットラップ出身のシンガーや、ボカロP・ハチの活動を経て国民的歌手となった米津玄師さんなどが挙げられるだろう。
2010年代後半になると、状況はさらに興味深く変化する。
「夜好性」という音楽特性で括られることの多いずっと真夜中でいいのに。、ヨルシカ、YOASOBIのように、どこかボカロ的なテクスチャーを感じさせるアーティストが、YouTubeやTikTokなどのアルゴリズムと絡み合いながら、音楽チャートを賑わせるようになった。
米津玄師さんらのケースが、ネットシーンのクリエイターがポップカルチャーに編入した事例とすると、ずっと真夜中でいいのに。などはネットシーンの音楽的趣向や傾向がすでにユース世代に定着。
その感覚そのものが、すでにポップミュージックの内部に浸透した後に自生したケースと考えられるだろう。
気づけば、日本の大衆音楽の主導権はネットシーンへと大きく移行していった。
そのような文化的変遷の最中、2020年にデビューしたAdoさんの存在は、象徴的に思える。
「うっせぇわ」が一体どんな経緯で空前のヒットを記録したのか──その原因を的確に炙り出すのは難しいだろう。
とにかく多くの大衆が熱狂した楽曲であるとは事実であり、一聴すると直球の怒りが表出しているように見えるが、歌詞を読み解くと実は結構な意気地なしなキャラクターをAdoさんは演じている。
「ちっちゃな頃から優等生」だと自称する語り手は、「一切合切凡庸なあなたじゃ分からないかもね」「頭の出来が違うので問題はナシ」と、相手と比較して優位に立つ(“マウント”ですね)ように振る舞いながら、自らの攻撃性を正当化しようと試みる。
しかし、その攻撃性は語り手の周辺環境を変えようとする行動には繋がっていない。
どこまでも自己弁護にとどまっており、いわゆる「学習性無力感」の状態(「何をやっても無駄だ」「頑張っても意味がない」という認知が形成された、学習に基づく無力感)になっている。
言ってみれば、Neruさんの「ロストワンの号哭」(2013)で、教育制度の中で苦しむ少年が、制度を克服できず社会に出て、無限競争体制内に埋没されてしまった様子との近似を読み取れる。
一方、「うっせぇわ」を聞くと、ハードロックなリフと分厚いドラムトラックが、Adoさんの嘆くような声と衝突して音量が不安定になるなど、音質が明らかにローファイな点も特筆したいところだ。
おそらく、Adoさんが根を置いていたネット音楽シーンの録音方式を、メジャーデビュー音源でも踏襲したのではないだろうか。
とはいえ、こうした制作背景がそこまで特別なわけではない。
ボカロや歌い手といったネットシーンの音楽は、すでに商業音楽と明確に線引きできるものではなく、インディーロックやラップのミックステープ文化などと同様に、ネットを媒介にしてヒットを生み出した事例は数え切れない。
それでも「うっせぇわ」にあえて意味を付与するならば、前述したように「ネットシーンのテクスチャーそのものがポップミュージックの内部に浸透し、自生し出した」ことを示す、分岐点的な一曲として捉えられるだろう。
「うっせぇわ」は、ネット音楽シーンのセオリーがそのままJ-POPになったことの象徴だった。
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