

世界で存在感を放つ“絵描き”として、彫り師の生き様や価値観から学べることは多い。
海外からの観光客の刺青を撮り続けてはや100人を超えるフリーライター・編集者の山田文大が聞いた、現場の声。

写真提供:西池袋 文身彫とし
広義の「絵描き」を考える時、今最も世界で注目されている、あるいはグローバルな市場で“食っていけている”のは、美術家でもイラストレーターでも漫画家でもなく、“彫り師”なのではないか?
この取材は、筆者がここ最近感じていたその問いに端を発して進めていったものだ。
取材に応じてくれた彫り師は、筆者が日頃から作品を愛好してやまない2人。
ひとりは西池袋 文身彫としさん。手彫りで日々伝統的な和彫りに腕を振るっている(手彫り=和彫りではない)。もうひとりの彫猿(En a.k.a Horizaru)さんはタトゥーからジャパニーズスタイルまで、多彩な作品で知られる。
スタイルの違う2人だが、共通するのは海外からの顧客が多く、また海外に足を運ぶ機会が多いということ。
彼らのInstagramを見れば、筆者が個人的な趣味だけで2人を訪ねたのでないことはわかっていただけあると思う。共にフォロワー数もさることながら、海外からのコメントが多い。
日本では“不当”とも思える扱いの刺青・タトゥーだが、日本の枠にとどまらず、このように世界照準の拓けた仕事をしている彫り師・タトゥーアーティストは少なくない。
一方で若い画家と話すと、その多くはアルバイトで糊口をしのぎながら年に数度ギャラリーで個展を開催していたりする。半年かけて制作し、画廊に結構な(と筆者には思われる)パーセンテージを支払い、「絵(作品)で食べていくのは大変」と異口同音に話す。技術や個性について、然るべきお墨付きを得ているアーティストですら状況はそれほど変わらない印象がある。
刺青・タトゥーと現代美術はまた別物だろうが、彫り師の仕事やライフスタイルに日本のアーティストと呼ばれる人たちはもっと感化されていいと筆者は勝手に思っている。
たくさんの絵が飾られた彫り場(洋の東西を問わずタトゥースタジオはなかなか見応えのあるアートラボなのだ)で、日々更新されていく作品を目にしたり、出張で巡った諸国の刺青についてのよもやま話を聞いていると、そう甘いはずもないのだが、その生活スタイルをつい羨望の眼差しで見てしまう。
このお堅い国で彫り師はいかに客をとり、その存在を世界にどのようにアピールしているのか。普段はあまり表に出ることのない、一線にいる彫り師の仕事や今考えていることを紹介したい。
取材・執筆:山田文大 編集:新見直
目次
- 海外観光客のタトゥーを撮り続けて気付けば100人
- 彫としさんが海外に足を運ぶ理由
- 日本だけで彫り師として生きていくことは困難な時代になった
- 刺青の魅力
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彫り師が海外に飛び出す理由
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