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  • 2019.08.16

CM制作会社から彫り師に転身、世界に飛び出した真意 証言「彫猿」

タトゥー専門誌が壊滅した現在、ほとんど世に出ることのない彫り師の声。

彼らに話を聞いた「ニートtokyo」インタビュアーもつとめるフリーランスの編集者・山田文大が投げかける問い。アートとマーケットの狭間で。

CM制作会社から彫り師に転身、世界に飛び出した真意 証言「彫猿」

刺青とアート…と原稿を書き始めた時点で、筆者は自分自身の書き出しに少しだけ戸惑うことになる。

刺青はアートではないのか

筆者は刺青をアートと考えている。だが、例えば日本のアート専門メディアがタトゥーの最前線を巻頭特集するとはなかなか考えにくいのが現実だ。

率直に「反社会勢力」と一括される住人と刺青の密接性(力強くその文化を下支えしているとも言い換えられるだろう)は事実だろうし、世間の反感の目が含まれてしまうのは仕方ないのかもしれない。刺青が入っていると、スーパー銭湯やホテルのプールには入れない。

とは言え、ボーダーのないものこそアートの本質だと筆者は愚直に思いたいし、こうした現実について、日本でアートに関わる仕事をしている(と思っている)人たちが嘆かわしさを覚えたり、胸を痛めたりしている姿をあまり想像できないのは、やはり少々寂しいものがある。この国においては、エクスキューズなく刺青がアートという前提で原稿を書き始めると、読んでいて違和感を覚える人が少なからずいるのは容易に想像できる。

もっとも日本で刺青を考える上で、刺青を排除したいという社会の感情以外に、入れている人間の精神性のほうも無視できない。『陰翳礼讃』的感覚とでも言えばいいか。あえて「見せない」奥ゆかしさが、刺青の魅力に一役買っているとも考えられる。

昔のヤクザ映画でも悪役のチンピラ風情はこれ見よがしに刺青を見せつけ、主人公は最後の斬り込みで印象的に背中の刺青が抜かれる(多勢に無勢で襲われ、斬られた服の合間から唐獅子が睨みをきかす)のはある種ステレオタイプな配置だし、遠山の金さんが最初から桜吹雪を剥き出していたら興ざめだろう。刺青(特に和彫り)が一番活躍する背中は、そもそも本人が鑑賞しえないというのも興味深い。

こうした見たくないという感情と見せ物ではないという精神性があいまって、世界に冠たる技術(世界観)を持ちながら、刺青=アートと一括し難い状況が日本にはある。

取材・執筆:山田文大 編集:新見直

目次

  1. 彫り師は、新時代を先取りしているのではないか?
  2. CM制作から一転「彫り師になりたいんで会社辞めます」
  3. なぜ海外に飛び出すのか? それぞれの目的意識
  4. 「彫り師は芸術家ではない」
  5. 単なる商品であることを超えて

彫り師は、新時代を先取りしているのではないか?

前回、筆者は海外からの観光客のタトゥーを撮影するのが趣味と描いた。

最近いつものように、家族連れの四肢すべてがタトゥーで彩られた父親に「写真を撮らせて欲しい」と声を掛けると、近くにいた奥さんや娘さんまで嬉しそうな顔をしてくれた(一体この違いはなんだろう?)。彼は得意満面の表情で「ギリシャで一番の彫り師だ!」と教えてくれた(ギリシャからの観光客!)。

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日本ではいささか肩身の狭い風潮の刺青だが、世界に拓けた仕事をしている彫り師は日本にも少なくない。

外国人観光客が日本で刺青を彫って帰国するのも最近ではよく聞く話だ。筆者にも日本に来るたびに新しいタトゥーを入れる友人がいるし、今回取材した彫猿(En a.k.a Horizaru)さんの話を聞いても、そうしたことはむしろ日常と感じられる。

彫り師の仕事は、新時代のアーティストが志向すべき様態を先取りしている。筆者はここ10年ほどずっとそういったことを考えてきた。それはどんな様態なのか。この原稿の主役、彫猿(En a.k.a Horizaru)さんの話を聞くと、自分の中でそう考えた理由がより具体性を帯びたように思う。

彫猿(En a.k.a Horizaru)

彫猿(En a.k.a Horizaru)さん

刺青を始めた頃の話から現在の状況に至るまで、そして昨年注目を集めた「刺青に医師免許がいるか否か」について、ざっくばらんに話を聞いた。

CM制作から一転「彫り師になりたいんで会社辞めます」

──最初にEnさんが彫り師になった経緯からうかがわせてください。

彫猿 大学(大阪芸大)を出て、サラリーマンとしてテレビCMの制作の仕事をやっていたんですよ。大学では映像を勉強していて、何かをつくる仕事はしたいなというのは根底にあった。でも絵で食べていくのは想像もしていなかったし現実的ではないと思っていたから、普通に就職して働いていたんですよね。その仕事は楽しかったんだけど、もっとおもしろいものを見つけちゃったというか。

お給料をもらうようになって、24、25の頃かな。海外に行ってタトゥーを入れる機会があって、その瞬間「あっ、この道があった」という感じでしたね。

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