Web3はVTuberに何をもたらした? AI台頭にメタバース流行──2022年総括【新時代編】
2023.01.19
愛知県出身の総合格闘家・伊藤裕樹選手。
2017年までアマチュア総合格闘技団体「THE OUTSIDER」での連勝と活躍を経て、プロの世界へ。現在は日本最大の総合格闘技イベント「RIZIN」で頭角をあらわし、フライ級という日本でも選手層の厚い階級において、最も一目置かれる選手の一人となっている。
左:エンカジムーロ・ズールー選手 右:伊藤裕樹選手 テクニカルで激しい打撃戦を見事勝利した。
ファイトスタイルは激しいストライキングを好みつつも、試合全体のペースを握る冷静さも持ち合わせる。観客が熱狂する瞬間を自ら生み出す、攻防一体のスタイルが持ち味だ。
ただ、伊藤選手が注目されている理由は、リングの上だけではない。
示唆に富んだSNSでの発信やYouTube活動、ギャンブルから学んだ勝負勘と浪費癖、ピアノやアニメへの没頭──既存の“格闘家”のパブリックイメージを払拭するような意外性とユーモアのセンスが、ずば抜けているのだ。
挫折を経験し、格闘技から距離を置いた時期もあった。その心を救ったのはアニメ『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』だったと語る──
そんな意外すぎる格闘家・伊藤裕樹選手のマインドを深堀りする特別インタビューを実施!
取材協力:ABEMA
目次
- 賛否両論の「フライ級GP総選挙」で輝いた格闘家・伊藤裕樹の“新感覚”
- ギャンブルと格闘技はリンクする、むしろ完全に相乗効果がありまくる説
- 『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』に人生を救われた
- RIZINという最高の舞台へ──フライ級を牽引する存在に
- ピアノ教室にも通いはじめた──「挑戦する姿を見せたい」伊藤裕樹は“なんでもやる”
──まず最初にお聞きしたいのですが、伊藤選手のあのユーモアやキャラクター性って、どこから培われてきたんでしょうか? 今回のフライ級グランプリを通じて、伊藤選手の人となりに多く注目が集まった印象です。
伊藤裕樹 (笑)。なんて言うんですかね、特別に意識してきたことはないんですよ。普段から生活してる中で「こうしたら面白いだろうな」ってことを考えるのが好きで。それを試合とかSNSで出しているだけなんです。だから僕としてはずっと変わっていなくて、ただただ自然体なんですよ。
──今回のフライ級グランプリは総選挙という形でした。一回戦に勝っても必ず次に進めるわけじゃない、異例のルールだったと思います。最初に聞いたときはどう感じましたか?
伊藤裕樹 本当に前代未聞でしたよね。試合に勝ってもトーナメントから落ちるなんて、普通はありえないじゃないですか。ただ、実績や経験で言えば僕より上の選手がたくさんいましたし、格闘技ファンからの前評判でも「伊藤が勝ち上がるのは、実力差がある」とも言われてました。
だからこそ「何としてでも爪痕を残そう」と思った部分はあると思います。試合内容も当然大事だけど、特殊な仕組みのグランプリだからこそ、注目を集めることも同じくらい大事だとは当初から考えていたことです。
──実際、特に総選挙を行うことが決まってからは、SNSでの発信もかなり積極的に感じました。
伊藤裕樹 そうですね。僕、格闘技も好きですけど、SNS見るのも好きなんで(笑)。自分の得意な部分を出していこうと。ファンによる総選挙という形式だからこそ、アピールも含めてやっていこうと考えました。
──結果的に、伊藤選手の発信や行動が大会全体の盛り上がりを加速させていったように見えました。
伊藤裕樹 そう言っていただけるのはありがたいです。でもやっぱりグランプリの仕組み自体への賛否はありましたよね。「勝って落ちるなんて、何だそれ?」って声も多かった。というか僕もそう思うし(笑)。でも、賛否両論あってこそ注目されるコンテンツになるし、日本のフライ級の盛り上がりにも繋がる。
それを抜きにしても、僕自身は普段から「ただ勝つ」だけではなく「楽しませること」もプロの格闘家として大切なことだと思っています。総選挙自体もゲーム感覚で楽しめました。
格闘技って、どうしてもシリアスでストイックなイメージが強いじゃないですか。僕は普段から「こうしたら面白いだろうな」ってことを常に考えてて。それを実際に行動に移すのが好きなんです。勝敗はもちろん大事ですけど、それ以上に「会場や配信で見てくれた人に楽しんでもらう」ことの意識は忘れてはいけないことです。
──従来の格闘家像とは違う、新感覚のスタイルだと思います。今回のグランプリで、伊藤選手のユーモアや頭の回転の早さが多くの人に伝わりました。
──グランプリと総選挙が行われる以前からも、伊藤選手には「ギャンブル好き」というイメージが定着していますよね。そもそも、ギャンブルにハマったきっかけはいつ頃からなんですか?
伊藤裕樹 これは家族の影響が大きいですね。うちの父親がとにかくパチスロ好きで、小さい頃から横で見てました(※1)。
テレビでもふつうにパチンコ番組が流れてたりしたじゃないですか。だから物心つく前から「こうやって遊ぶんだな」って自然に覚えていった感じです。
──最初からパチスロだったんですね。
伊藤裕樹 そうですね。18歳になって「もう打ってもいいよ」って年齢になった瞬間、バイトの給料が入れば毎週末パチンコ屋に行ってました(笑)。他の遊びや趣味にハマることもなくて、完全にパチスロ一本でしたね。
──競馬とか、ほかのギャンブルもやられるんですか?
伊藤裕樹 競馬はたまにやりますけど、基本はパチスロですね。公営ギャンブルはちょっと手を出すくらいで、本命はやっぱりパチンコとスロットです。
──伊藤選手にとって、ギャンブルの魅力ってどんなところなんでしょう。
伊藤裕樹 「勝てば嬉しいし、負ければ悔しい」っていうシンプルな感情の動きですかね。試合もそうですけど、勝ったときの高揚感と負けたときの悔しさがある。
特にギャンブルの場合は、負けから逆転したときのアドレナリンがすごいんですよ。「あの状況からここまで戻ってきたぞ!」って瞬間の脳汁。あれがクセになってます。
──なるほど。試合と同じく、逆境からの逆転に面白さを感じると。
伊藤裕樹 そうですね。試合もギャンブルも文字通り「負けたら終わり」なんですけど、その中でワンチャンスを掴めるかどうか──数%の確率でも引き寄せられたときの快感は、何にも代えがたいです。
──よく「ギャンブルはやる前が一番ドキドキして楽しい」という人もいますよね。伊藤選手はどうですか?
伊藤裕樹 ああ、それもめっちゃ分かります(笑)。
パチスロの場合、朝に店へ行ってまず抽選を受けるんですけど、そこで良い番号を引けるかどうかが一番大事なんですよ。あの瞬間が、試合の準備と同じでワクワクするんです。
徳を積むためにトイレ掃除とかして「今日は勝つぞ!」って気合いを入れてから行くと、マリオでスターを取ったみたいな無敵モードに入ります。まだ一円も使ってないし負けてもないから、気持ち的には最高潮ですね。
──ギャンブルの感覚、たしかにすごく格闘技と重なりますね。
伊藤裕樹 そうなんです。試合前の控室で「今日はやってやるぞ!」ってテンションがブチ上がる気持ちになるのと一緒。もちろん試合は命懸けで、比較すると怒られるような気もするけど、気持ちの高ぶり方やメンタルのつくり方は似てますね。
他にも「リスクを取れる」っていう感覚も大きいっすね。ギャンブルも格闘技も、いくら神様に願っても、めちゃくちゃ練習しても、勝つ保証なんてどこにもないし、負けたら何も残らないどころかマイナスです──でも、そのリスクを背負った上で勝ちに行く。
ある種の“覚悟”する力が求められるんです。覚悟がなきゃ格闘技はできない。僕は日常からギャンブルを通じてそういう感覚を培っているし、慣れている。だから試合でプレッシャーを感じても「まあギャンブルみたいなもんやろ」ってポジティブに思えるんですよ。
もちろんチームの存在や賭けてきた時間もあるから、勝ち負けの重みは全然違うけど、「不確実性を楽しめる」っていう点は共通してます。
──「リスクを楽しめる性格」が武器になっている。実際にギャンブルをやっていて「格闘技に活きた」と感じる具体的なエピソードってありますか?
伊藤裕樹 たくさんありますよ。試合中にも「ここで仕掛けたら危ないけど、当たればデカい!」って場面があるんですよ。そういうときにビビらずに勝負に出られるのは、ギャンブルで鍛えられたメンタルが間違いなく良い方向で影響してるはず。
他にも、試合直前とか自分の調子がめちゃくちゃ悪くても「ワンチャン何か起こるかも!?」って期待を捨てないでいられるんです。普通なら萎える状況でも「やってみないとまだ分からん!」って精神的に粘れるのは、完全にギャンブル脳ですね(笑)。
──なるほど。伊藤選手が自然と出しているポジティブな雰囲気にも、ギャンブルが影響してそうですね。逆に、格闘技をやってるからこそギャンブルに活きる部分もあったり?
伊藤裕樹 ありますよ。格闘技だと短い試合時間での“一瞬の集中”を叩き込まれてるから、パチスロでも大事な局面では全集中できます。
それは流れを読む力とかが影響してるんですけど──勝負どころを見極める力は、格闘技をやってるからこそ養われた部分かもしれないですね。格闘技をやってないとちょっと想像しづらい感覚かもしれないんですけど。
──面白いですね。ギャンブルと格闘技、お互いがリンクしてる。
伊藤裕樹 結局は“勝負ごと”なんで。勝てば嬉しいし、負ければ悔しい。その繰り返しが僕の人生をつくってきたと思います。
※1 かつては保護者同伴による年少者のパチスロ店の入店は容認されていた。筆者も90年代に経験がある。
──格闘技ファンからすると少し意外な組み合わせといいますか、伊藤選手は『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』に度々言及されていますよね。京都アニメーションの名作と名高いアニメ作品ですが、あの作品との出会いは、どういう経緯だったんでしょう。
推し活してきた
愛してる💚#ヴァイオレットエヴァーガーデン pic.twitter.com/Zl73dS6pKt— 伊藤裕樹 yuki ito (@yuki_mma) July 6, 2022
伊藤裕樹 いや、本当に『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』(※2)はめちゃくちゃ好きです。
最初は知り合いに勧められて「面白いから見てみや」って軽く言われたのがきっかけで。とりあえずNetflixで一話を見たんですけど、そのときは正直、全然刺さらなくて。「いや、別に…」って感じで途中で観るのやめちゃったんですよ。
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