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2024.12.25
クリエイター
この記事の制作者たち
公正取引委員会の調査・発表によって明らかにされた、カバー株式会社による下請法違反。報酬支払の遅延、また発注書等で示された仕様等からは必要であることがわからないやり直しを無償でさせていたことなどが、摘発の対象となった。
報道やXではカバーを非難する声が目立った。もちろんカバーには改善責任があるが、取材を進める中で明らかになったのは、カバー社のみに限った問題ではなく本件はあくまで氷山の一角で、VTuber業界全体に突きつけられている構造的な問題であるということだ。
本稿は、特定の企業や組織を糾弾する意図はない。カバー叩きに勢いづく世論に留まらず、建設的な改善案を探ることを目的に、業界関係者に取材を行っている。
前編では寄せられた証言をヒントに、業界急成長が落とした影にスポットライトをあて、クリエイティブ発注の取引実態に迫った。
後編ではVTuberビジネスの根幹とも言えるLive2D制作における発注難易度の高さや、演者のハンドリングの難しさについて、話を聞いた。また本件の問題点や証言内容の適法性を精査するため、VTuber業界に詳しいモノリス法律事務所の代表である河瀬季弁護士にも取材を行った。
下請法の前提とクリエイティブ制作案件との間には、いくらかミスマッチがあるようだ。そのミスマッチがVTuber、事務所、クリエイターの三角関係の中でどのように作用しているのかについても、本稿では整理する。
まずはVTuberの活動体そのものとも言える、VTuberのキャラクターデザインに命を吹き込む2Dモデル──「Live2D」の制作現場について、証言を追っていきたい。
目次
- Live2D制作の発注難易度が高い理由
- VTuber企業は演者をハンドリングできているのか
- 「事務所からクリエイターへの発注がブラックボックスに」演者の悩み
- 専門家の見解 下請法とクリエイティブの相性の悪さ
- 「費用追加拒否」「数倍の価格差」は適法か?
- ファンアートに依存しながら同人活動を制限する矛盾
- クリエイターへの発注は、二極化していく可能性が高い
- VTuber業界は、変わらざるを得なくなっている
平面であるキャラクターデザインのイラストをアニメーションとして動かすことで、キャラクターが画面の中で生きているような視聴体験を提供するVTuber。その動くイラストを制作する作業がソフトウェア「Live2D」によるモデリングである。
VTuberのLive2D制作の特徴として、クリエイターや演者、スタッフの証言を整理すると、大きく下記の4点に分類できる。
・発注時点で完成形が想像しづらい
・制作物の構造が複雑である
・VTuber本人はLive2Dの素人である
・伝言ゲームによって、発注時にズレが生じている
1点目についてはクリエイティブ系の制作すべてに言えることではあるが、2点目、3点目、4点目と組み合わさることで、総合的にVTuberのLive2Dにおける発注難易度が跳ね上がる。
企業・個人VTuber関連のLive2Dを制作するT氏はその難しさを語る。
「モデリングは、実際に動かしてみないとわからないことが多すぎるんです。発注時点で細かく指定するとなると、動きのパラメーターを数値で指定しなければならず、それを発注側に求めるのはあまり現実的ではありません。動いている様子を見て、最初に注文したことと違う要望が生まれてしまうのは、ある程度は仕方のないことではないでしょうか」(T氏)
どんな動きをするのか、動いたときにどう見えるのか。顔を動かしたときの輪郭線の管理や、まばたきによる瞳の動き、髪の毛束の揺れ方など、Live2Dモデルは非常に緻密な設計の積み重ねによって成り立っている。イラストを人間の顔の造形とするなら、モデリングは表情筋をつくり上げるような話で、「どこをどう設定すると、動いたときにどんな印象の顔になるのか」は出来上がってみないとわからない。同じイラストを用いたとて、モデラーが変われば仕上がりも大きく変わってくる。
ぱっと見は「絵が動いている」という印象かもしれないが、前項の通り、Live2Dの内部では細かなパラメーター設定が数多く行われている。たとえば目を修正するとしよう。ある程度リッチなモデリングの場合、まぶた、上まつげ、下まつげ、虹彩、瞳孔、ハイライトなど、目を構成する各要素それぞれに修正が必要な可能性が出てくる。
大手事務所とも取引のあるクリエイター・O氏は、今回の下請法違反の件も、修正に対する認識のズレによって発生していた可能性を指摘する。
「発注側は1箇所だけ修正してもらうつもりが、『そこを変えると他の箇所と整合性が取れなくなるので、他も修正しなければならない』という事態になることはよくあります。その結果、クリエイター側では3~4箇所修正している。そうしたズレが発生して、修正回数がふくらむこともあるでしょう」(O氏)
大抵の場合、企業所属のVTuberは、Live2D制作に対して素人だ。フィードバックも抽象的なものになってしまい、言葉足らずな部分をクリエイター側でくみ取ったり、一旦反映して見せて、落としどころを探っていったりという工程が発生する。
「イラストで『瞳の色をもうちょっと明るくできますか』と言われても、その『もうちょっと』が不明瞭なんですよね。それで『これぐらい明るくすればいいだろう』と思って直すと、『まだ足りない』とか『逆に明るすぎる』ということになって、もう1回修正する……ということを無限に繰り返してしまうわけです」(O氏)
かと言って、クリエイターではない演者が、一千万通り以上あるカラーコード(色を指定する数値)で自分のイメージに合った色の指定ができるかと言えば、それも現実的ではない。
特に企業所属の場合、スタッフが演者の希望をヒヤリングして、クリエイターに発注するケースが多い。
しかし、発注段階で演者の希望をうまく聞き取りきれておらず、発注通りにつくられたとしても演者にとってはイメージと違う、といったことも起こる場合がある。
「企業所属のVTuberだと、発注者(スタッフ)と演者が違うので、いざ動かして見せたときに、発注時に関わっていない演者がイメージが違うと言ってくる状況になることがあるんです」(T氏)
後述するが、そもそも取引の内実がブラックボックスになっていて、演者が全容を把握できていないという場合も存在する。
先述の4点に対し、VTuberとクリエイターの間に立って、取引を円滑に進めるのが運営である事務所の役割だ。今回のカバー摘発を受け、一部では「運営が演者をハンドリングできていないのでは?」という指摘もあった。
事実、公正取引委員会が発表した違反事実の概要においても、「本発注により作成された動画用2Dモデルを利用するVTuberが修正を希望していることを理由として」制作完了後にも作業をやり直させたケースが紹介されている。
VTuber業界でモデリング制作を請け負っているN氏は、演者サイド、運営サイド、それぞれの立場から切実な声を聞いていたという。
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