Interview

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  • 2020.01.28

“みんなに届けなければいけない”という呪い

あまねくすべての人に届けなければいけない、というのは強迫観念ではないか──。

押しも押されもせぬトップクリエイターが口にする、意外な提言。

“みんなに届けなければいけない”という呪い

(左)大石昌良さん、(右)田淵智也さん

大石昌良さんから、作家業のセーブ宣言も飛び出した前回。

J-POP・アイドル業界にお株を奪われたアニソンにあって、トップを走る2人の作家によるどこまでも客観的な現状分析。

ロックバンド・UNISON SQUARE GARDENのベーシストであり、作曲家である田淵智也さんとの対談で語られる、作品や作家、業界が負ってしまいがちな“呪い”を解くためのクリエイターの真摯な提言に耳を傾けたい。

ホスト:大石昌良 ゲスト:田淵智也 取材・執筆:オグマフミヤ 撮影:I.ITO 編集:新見直

目次

  1. “みんな”という呪い
  2. サブスクはアニソンを救うか?
  3. やりたいことができる環境が大事
  4. 続きを読む

“みんな”という呪い

──田淵さんのおっしゃる「アニソンにわくわくしていたあの感じを、市場ど真ん中ではなく別の方法でつくるのも面白いんじゃないかと感じ始めています」とは、どういうことでしょうか?

田淵 紅白に出て、地方でもホールをパンパンに埋めて、アリーナツアーができる人たちだけが成功だと思っていてはいけないんです。

小さいライブハウスを埋めるだけでもなんとかなるし、ユーザーの規模に合わせて成功を得る方法だってある。

ただ、その方法や環境を整備できる人がいません。だからメジャー進出やフェスのでかいステージに立つことを、ミュージシャン側も唯一の成功だと思ってしまう。

アニソンの場合でも、あのヒットアニメの主題歌を書かないといけないとか、アニソン大賞をとらないとと思ってしまいがちですが、自分が認められるやり方は他にもいくらでもある。

億万長者になりたいなら別ですが、音楽で人を幸せにするのが目的なら、自分が幸せにしたい人だけすればいい。どこまでも対象を広げる必要なんてないんです。“みんな”に届けなくてはいけないという考えは、もはや呪いのようなもの

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大石 僕もそう思うな。

僕は音楽では食えない時期があって、自分の音楽を必要としてくれる人を幸せにしようというところから再出発して、ようやくここまでこれたから、実感を持ってそう言える

──この対談シリーズで、いろんなゲストの方がいろんな言い方をされていますが、みなさん、問題意識や解決策は共通する部分もあります。つまり「個人の時代」というところに繋がっていくんですね。

田淵 飲食店だってそうですよね。必ずしもみんな全国チェーン店になる必要はなく、ひとつの街に根ざした食堂だって良い。他の業界を見れば、ユーザー数に合わせたビジネスの形はいくらでもある。

アニソン業界の場合、具体的には作曲家ごとにサブスクみたいなシステムがあってもいいんじゃないかと思います。

大石さんがセルフカバーのアルバムを出すように、提供した曲を作曲家本人が歌ったものを登録者だけが聴けるだとか、デモ音源とか修正前の歌詞とか、本来は発表しないものでも、ファンになら価値のあるものってきっとたくさんある。

大石 パトロン的な支援を得て、登録者だけに制作工程や特別なコンテンツを提供するのは、イラストレーターさんの間では当たり前になりつつありますよね。

※例えばイラスト・漫画家に人気の「pixivFANBOX」は、ファンコミュニティサービスとして利用者数を増加させている

僕も「UNION」の歌詞第一稿をツイートしたらものすごい反響があった。普通なら秘密にしておくしかないリテイク工程も、そうやってエンタメにすることができる。

田淵 実際に「UNION」ができるまでを語るイベントを開いたとしたら、お客さんは呼べると思います。

必ずしも全方位のお客さんに届けるのではなく、クリエイターとユーザーの意図がマッチしたやり方を探せば、いくらでもビジネスにできるし、アニソンはクリエイターにとってやりがいのある環境になっていけるはず。

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