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  • 2020.03.27

「本格は求められない」アニソンクリエイターがこだわる“にわか“感

作詞・作曲・編曲…すべてを手がけるクリエイターであっても、その中で得意/不得意な領域というものは存在する。

業界で名高い“編曲の天才”堀江晶太が登場。

「本格は求められない」アニソンクリエイターがこだわる“にわか“感

(左)大石昌良さん(右)堀江晶太さん

アニソンシンガー「オーイシマサヨシ」やシンガーソングライター「大石昌良」、ルーツであるバンド「Sound Schedule」など、いくつもの名義で活動を展開してきた大石昌良さん。

しかし、あまりの多忙さに自らの音楽制作に影響が出てしまったため、この4月より作家としての「大石昌良」の活動をセーブすることを発表した。なぜ「大石昌良」という作家業をセーブするという選択をしたかは、本編でじっくり語られることになる。

一方、裏方のフィールドで伝説的な功績を残すクリエイターの一人として、堀江晶太さんがいる。アニソン作家としてはLiSAさんの「Rising Hope」の編曲を手がけるなど、アレンジャーとして様々な楽曲の編曲を担当していることに加え、数多くの声優やアーティストに楽曲を提供。

また「六兆年と一夜物語」などで知られる有名ボカロPの「kemu」としても知られ、ベーシストとして参加しているバンド・PENGUIN RESEARCHではメインソングライターもつとめる他、アイドルグループ・「ベイビーレイズJAPAN」への楽曲提供など、大石さんに負けじと様々な名義で活躍している。

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多岐にわたるジャンルの楽曲を制作しながらも個性が際立つ特徴的な曲調は“堀江節”と呼ばれ、田中秀和さんの”田中オーグメント”に並ぶ名フレーズとして語られているが、さらに語り草になっているのは、業界内では有名な制作スピードにある。

前回のTom-H@ckさんとの対談において、「作曲はギフトであり編曲は職人芸である」と語られたように、同じ楽曲制作の工程であっても作曲と編曲はまるで違う作業であるという。その分類で言えば自らを「作曲家タイプ」とする大石さんと、編曲家としての評価が高い堀江さんは、真逆のタイプであると言える。

アニソンというフィールドで活躍し、数々の名義を持つという活動スタイルでも共通点を持ちながらも、クリエイターとして好対照な二人は、どんな言葉を交わすのだろうか。

ホスト:大石昌良 ゲスト:堀江晶太 取材・執筆:オグマフミヤ 撮影:I.ITO 編集:新見直

目次

  1. ギフトタイプの天才と職人タイプの天才
  2. お互いが紐解くそれぞれの楽曲の魅力
  3. 堀江晶太の神がかり的編曲スピード

ギフトタイプの天才と職人タイプの天才

大石昌良(以下大石) 僕と堀江くんが最初に会ったのは、たしかカタカナの「オーイシマサヨシ」として活動し始めたころだったかな。

堀江晶太(以下堀江) 「ガンスリンガー ストラトス」というゲームに使われた楽曲で、僕が作曲したものを大石さんに歌ってもらったのが最初にお会いした時でした。バンドも組む前ですし5,6年以上前だったと思います。

ガンスリンガー ストラトス3『飛空要塞”月を侵すもの”』

大石 堀江くんは既に売れっ子だったから、制作の現場に来たり直接ボーカルのディレクションまでしないんじゃないかと思っていたんだけど、やたら背が高い人がいて「(堀江さんは)あの人かな?」って思ったのをよく覚えてる。

手前味噌だけど今思えば豪華だよね、堀江くんが作曲して僕が歌うなんて(笑)。

堀江 僕が大石さんを指名したわけではなくて、メーカーの指定でその布陣になったわけですが、確かに豪華でしたね。音源化もされていないんですが、せっかく大石さんと対談するので昨日久しぶりに聞いてみたんですがやっぱりいい曲でした。

大石さんが、ボーカルを録りおえた後に僕のところにいらっしゃって、「良い曲だったので持って帰って勉強したいんですが、ステムデータとかカラオケ音源とかもらえますか?」とおっしゃっていただけて、なんていい人なんだと感動したこともあって、思い出深いです

大石 当時は(『ドラゴンボール』の)セルのように、触れるもの皆吸収しようとしてたんだよ(笑)

音源化されるわけじゃないし、ゲームの筐体でしか流れない曲なのにこんなすごい曲つくってくるんだと感心して、その熱意をひも解いてみたくなったんだよね。

堀江 それでもシンガーさんがバックトラックや作曲の意図を気にかけてくれるのは珍しいことでした。「この人は、僕らと同じく職人性も持ってる人だな」って、親近感のようなものも抱いたんです。

──音源を持ち帰って研究された結果はどうでしたか?

大石 真似できないなー、と

当時からそうなんですが、僕はなんだかんだで年齢を気にしているんです。(油断すれば)いつでも古い世代になれて、40だから仕方ないって思われてしまう。そうならないように、吸収することを止めず、音楽的な挑戦を続けようとしています。

それは今も同じで。だからこの対談でもよく言っているように、自分が持っていないものを持っている人はみんな「先生」だと思っているし、後続もつくりたくない。周りには相当ケチなやつだと思われてるかもしれないけど…(笑)。

だから「最近モチベあがんないんすよね」みたいな話は一切聞いてあげない! 俺もそういう時あるよ、がんばろう、としか言えないもの。

堀江 それは僕も同じですね…そういう相談もよくきますが、何かスパッとアドバイスしてあげることもできません。

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大石 堀江くんも僕と同じタイプなんじゃないかな?

堀江 と言いたいんですけど、ついつい可愛がってしまいます。

大石 じゃあ田淵(智也)くんやTom(-H@ck)くんの側の人だね(笑)。

堀江 といっても、大石さんの気持ちも半分わかるんです。後輩の子が頼ってくれるのは嬉しいですし、応えたいとも思います。

でもそういう後輩たちも言ってしまえば一番身近なライバルであって、彼らが僕の曲を分析して僕よりいい曲をつくってしまったら、僕が作曲する必要性がなくなってしまうという恐怖があるんです。

だから身近な後輩は、一番意識しなくてはいけない競争相手だと思っています。

話を聞くことで僕自身勉強になることもありますし、普通のライバルじゃうかつに聞けないことをざっくばらんに話せる相手がいるのは貴重です。

大石 自分よりキャリアのない相手にだって学ぶことはあるっていう考え方は僕も一緒だな。後輩に持ち上げられて気持ちよくなっちゃうと、そういう姿勢も失われてしまうからね。

お互いが紐解くそれぞれの楽曲の魅力

──お互いの印象的な曲について、堀江さんは『A3!』の主題歌「MANKAI☆開花宣言」を挙げられています。

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