
SHOWROOMとYouTube、それぞれの闘い方
2017年末に巻き起こったブームから2年、疾風怒濤の勢いで成長を続け一大カルチャーとして成立した「バーチャルYouTuber」。 …
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魔界の領主としての高潔な姿勢をつき通し、独自の哲学を展開しながらVRと戯れる「吸血鬼と人間のハイブリッドティーンエイジャー」──九条林檎。
彼女の強かさは、一過性のバズでは獲得しえない熱狂的な信望を集めていく。
VTuberがVR技術を活かした最先端のクリエイティブとしてではなく、あくまでキャラクターコンテンツとして消費されつつある現在において、その最前線で戦う一人である九条林檎さんはそんな状況を悲観してはいない。
オーディション時に「バーチャル蠱毒」と騒がれたものの、一過性のバズは多くのファンをもたらしたりはしなかった。意気揚々と飛び込んだ世界で彼女を待っていたのは、満足にサポートを受けられないという現実だった。だがバーチャルに救いを見出した孤高の吸血鬼は、逆境にこそ美しく舞う。
九条林檎さん。人気イラストレーターのLAMさんがデザインしている。
前編ではデビューから現在に至るまで、そして数々の激闘を繰り広げてきたホームグラウンドたる配信プラットフォームSHOWROOMの特異性について語っていただいた。後編では、激動のVTuberシーンを力強く生き残るために九条林檎が選び取った哲学を解き明かす。
──林檎様の活動における大きな特徴といえるのが、ファンコミュニティをつくることに対して、絶妙な距離感覚を持っていることだと考えています。VTuberの場合、例えばファンネームや推し絵文字を設定して、ファンの連携を高めるのが常識となっています。しかし、林檎様はそれをしない。なぜ真逆と言える方針をとるのでしょう?
※ファンネーム、推し絵文字 そのVTuberを応援するファンの総称としてつけられる名前、推し絵文字も同じくファンの証明としてTwitterの名前やプロフィール欄につける絵文字のこと。例えばピーナッツくんであれば「おともナッツ」「🥜」。
九条林檎 我は領主であるから、人の心の移ろいを嫌というほど見てきた。あの人があの人の悪口を言っていたとか、あるかないかもわからない些細な噂ですらコミュニティは瓦解し得ることを知っている。
プラスして、我自身がギークであるところから、コミュニティが原因で崩壊したコンテンツを三度も見てきた。そうするとどういったコミュニティトラブルがコンテンツまで入り込み、崩壊させるのかが段々わかってきたんだ。
それ以来、もし我がコンテンツホルダーになったら、そんなコミュニティは生み出すまい!といろいろとアイデアを練っていたので、それを実践しているというわけだ。
その大きな一つがファンネームを定めないということだな。よく間違われるのだが、我の周りでよく使われる「ディナー」というのはファンネームではない。吸血鬼たる我から見れば人間はみな等しくご馳走であるので、熱心なファンやそうでないもの、そもそも我を知らないものまで人間はまとめて「ディナー」と呼んでいる。
「配信をたまにしか見れてないですし、私はディナー失格です」と言ってくる人間がたまにいるんだがこれは典型的な誤用だ。なるならないではなく、貴様ら人間は生まれた瞬間からディナーだ。
こうした本来存在しない概念である視聴資格の自己剥奪や、ファン同士のマウントの取り合いを抑制することができるというのがファンネームを設定しないことによる大きなメリットの一つだ。
もう一つ大きなメリットがある。ひとつ質問なのだが「ラブライバー」と聞いてどのような印象を抱くだろうか?
──「ラブライバー」……ラブライブを応援するファンの総称ですが、残念ながらやや過激な人たちというイメージも否めません。
九条林檎 そのようにコンテンツはなにも悪くないのに、そのファンネームを聞くだけでうわっとなってしまったりすることがあるだろう。
これはコンテンツが大きすぎるがゆえに起こる問題でもあるんだが、一部の者が良くない行動をとった為に、そのファン全体が悪い存在として捉えられてしまうことがあるんだ。
我はまだそんなに大きなコンテンツではないので、これについては意識過剰だと思われるかもしれないが、やらないよりはましだろうと思っている。そんな理由からファンネームを定めることを厳しく禁じているわけだ。
──なるほど。
九条林檎 もちろんデメリットもある。なにかを熱狂的に好く人間は、その好きなものについて同好の士と語り合いたいという性質を持っているもので、ファンネームを設定している場合、それで検索すればすぐに同志を見つけることができるが、ないと難しい。
しかし、そもそも我はファン同士の交流を推奨していないのでなおのことだ。
他にも同じ名の元に集うことでファン同士の団結力を高めるなどの効能がファンネームにはある。ただ、そもそもファン同士の交流や団結はコンテンツに必要なものなのだろうか?
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