若いオタクはアニメからVTuberに流れたのか? 7つのポイントから考察
2022.07.31
魔界の領主としての高潔な姿勢をつき通し、独自の哲学を展開しながらVRと戯れる「吸血鬼と人間のハイブリッドティーンエイジャー」──九条林檎。
彼女の強かさは、一過性のバズでは獲得しえない熱狂的な信望を集めていく。
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2017年末に巻き起こったブームから2年、疾風怒濤の勢いで成長を続け一大カルチャーとして成立した「バーチャルYouTuber」。
2020年現在、大型リアルイベントの開催や地上波進出など華々しい発展を見せているVTuberカルチャーだが、「バーチャル」の冠が纏う未来のイメージを体現しきっているとはまだ言えない。
輝かしい成果をあげるその裏で、魂と呼ばれる中の人に関した不祥事やトラブルなどが起こっていることも無視はできず、未来の最先端カルチャーを期待していたが、裏切られたような気分になった人がいるのも確かだろう。全体で1万人を越したとも言われるが、その中で満足に活動が続けられているのは一握り。企業、個人を問わず競争の激化は勢いを増す。
「最強バーチャルタレントオーディション~極~」はVTuberブーム発生から1年が経過し、少しずつ問題などが明らかになる中で行われたオーディションである。一人の魂を選別するために、同じキャラクターを纏った10人以上の参加者を競わせるという形式から、中国の呪術になぞらえて「バーチャル蠱毒」とも呼ばれてもいた。
VTuberカルチャーの歪さにメスが入りはじめた頃ということもあり、シーンの外にまで響く大きな騒動となった「バーチャル蠱毒」だが、当時の盛り上がりに対して合格者たちの現在を知るものは少ない。今年1月に関連した記事を執筆した際も、そんなことあったなという反応が見られたくらいだ。
筆者にとっても「バーチャル蠱毒」はその過激さをいたずらに面白がられ一過性のバズを引き起こした事件の一つという認識でしかなかった。彼女のことを知るまでは。
九条林檎──「九条林檎」の中身を競う5番目の参加者として「バーチャル蠱毒」に参加した彼女は、見た目に違わぬエレガントな態度に、運営への不平不満を正直に語るドラスティックなプレイスタイルで一気に脚光を浴びる。
結果的に全体でもぶっちぎりの成績でオーディションを勝ち抜いた彼女は、「九条林檎」としてバーチャルの海へ漕ぎ出す。運営からの満足なサポートも得られない中、自前でVR機材を導入しながら表現のアップデートを続け、オーディション時から続けているSHOWROOMでの配信はほぼ毎日におよび、YouTubeでの配信や動画投稿にも取り組むという驚異的なバイタリティを見せつける。
吸血鬼と人間のハイブリッドティーンエイジャー、そして魔界の領主としての高潔な姿勢をつき通し、独自の哲学を展開しながらVRと戯れる。VTuberシーンに毅然と挑む彼女の強かさは、やがて一過性のバズでは獲得しえない熱狂的な信望を集めていく。
2020年からは事務所を離れて独立し、ひとりでバーチャル音楽フェスを開催するなど個人勢としての常識を覆し続ける九条林檎さん。呪いに喩えられたデビューオーディション、激しさを増す生存競争、煉獄の如き逆境の数々も彼女の歩みを止められはしなかった。
「自分を愛し、人生を楽しめ」一貫してそう説き続け、手本を示すようにその活動のすべてを楽しみつくす彼女が見据える覇道の先。クリエイターとして、バーチャルタレントとして、九条林檎として、気丈な振る舞いを貫く孤高の吸血鬼の美学に迫る。
目次
- 深淵より出ずる孤高の吸血鬼
- 「九条林檎5番」が勝ち残った理由
- SHOWROOMで勝つ為に必要なものは
- 配信者とプラットフォームの関係、パワーバランス
- バーチャルビッグバンがもたらしたもの
──本日はよろしくお願いいたします。かねてよりお慕いしております林檎様にインタビューできて光栄至極にございます。
九条林檎 あぁよろしく頼もう。せっかく流行りの「Zoom呑み」みたいな状態になっているし、そうかしこまらずに貴様も一杯どうだ?
──ありがとうございます。早速、林檎様の技術力がいかんなく発揮されていて感激です。
九条林檎 ははは、それはよかった。でもこれは全部我が個人で揃えた機材やソフトでやっているものであって、特別難しいことをしているわけじゃないんだぞ。立派なスタジオを構える企業勢と違って、我は自分の屋敷でVR機器と格闘している。
──元々は企業勢としてのデビューだったと思いますが、現在はどのような立場で活動されているのでしょう?
九条林檎 「バーチャル蠱毒」もとい「最強バーチャルタレントオーディション~極~」を勝ち抜いた我はAVATAR2.0というプロジェクトに加わり、TWINPLANETという事務所に所属する形でデビューしたのだが、今年に入ってからAVATAR2.0が「いろはにぽぺと」という企業に移籍することになった。そのタイミングでAVATAR2.0への所属は変わらないものの、窓口処理などの業務委託をお願いして独立を決めたんだ。
なのでバーチャルタレントとしては個人勢という認識で間違いではない。
──現在のVTuberシーンでは企業勢によるリアルイベントの開催や大型コラボレーションなどが目立っていますが、なぜ事務所を離れて独立されたのでしょうか?
九条林檎 もともと自分ではできないことや手が回りきらないことをやってもらう為に事務所に所属しようと思ってオーディションに挑んだのだが、実際に事務所に所属するようになってからも満足なサポートが受けられなかったんだ。機材も自分で揃えたし、衣装やステージなどの用意にモデルのVR用微調整も自らやったくらいだ。
配信に使っているのは主にこの「バーチャルキャスト」だが、個人で利用する分には無料なものの、企業勢として利用する場合は毎月ライセンス料を払わないといけない。他にも個人が制作している3DモデルやVRステージを使用したい時に、個人ならば問題ないが企業の場合は別途相談が必要など、意外にも企業に所属しているということが枷となるシーンも増えてきていた。
配信に関わる作業から動画編集まで、事務所に所属するならスタッフに任せたいと思っていた部分を自ら行い、仕事も自らとってきていた。ならばもう企業に所属している意味はないのではと思うようになったわけだ。
そもそも事務所にバーチャルタレントをマネジメントするノウハウがなかったんだろうとは理解できるが、我としては事務所に所属しているメリットが得られなくなってしまった為、プロジェクト全体が移籍するタイミングで独立することにした。
まとめると現在は本業は個人勢のバーチャルタレントとして活動しつつ、高価なVR機器を揃えるにはいささか心もとないので、「副業」にも勤しんでいるといった状態だな。
──副業とはなにをされているのでしょう?
九条林檎 VTuberの撮影というのは何分特殊なもので、一般的な映像制作に必要な人員に加えて、VR機材の扱いに詳しい者が必要だったりするんだ。
その点、我はValve IndexにVIVE Pro Eyeまで揃え、追加トラッカーも購入して10点トラッキングもできるVR機材のスペシャリストなので、VTuberが撮影する際に発生する様々な雑務をこなしたりすることを「副業」としている。
本来企業勢ならば、運営のサポートを受けてしかるべきところを我は自腹を切ってVR機器を揃えて、自力で勉強してきたので配信以外でもそういったところで優秀な頭脳を活かすことにつながっているわけだ。思わぬ怪我の功名だな、ははは!
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