『ブラックパンサー』の善と悪 ヒップホップの王ケンドリック・ラマーが示した姿
2022.01.04
ポップカルチャーはエンターテインメントとしてわたしたちを楽しませてくれるだけではない。
戦争が影を落とした民族の歴史に焦点を当てたこの『ブラックパンサー』という映画もまた、王でありヒーローであろうとする物語を通して、今なお続く世界に横たわる断絶を突き付け、問いかける。「自分たちだけがよければそれでいいのか?」と。
映画『ブラックパンサー』。10年にわたってシリーズを展開してきたマーベル・シネマティック・ユニバース(以下MCU)の18作目にあたるスーパーヒーロー映画である。
物語の主人公はアフリカの小国・ワカンダの若き国王であるティ・チャラ。先王の死を受けて新たな国王となった彼は、ワカンダ王が代々受け継いできたクロヒョウの戦士「ブラックパンサー」の座も引き継ぐ。
『ブラックパンサー』は、準備ができていないまま国王となったティ・チャラが、ワカンダに降りかかった危機を乗り越えつつ新たな王として己を確立していくまでを描いた作品である。
しかし、『ブラックパンサー』は単にヒーローの誕生だけを描いた作品ではない。
そこにはアフリカと黒人たちが辿ってきた様々な歴史的経緯と現実世界に対する問題提起が何重にも織り込まれ、ブラックカルチャーをも劇中に取り入れた非常に豊かな映画として仕上がっているのだ。
※本稿は、2018年3月「KAI-YOU.net」で配信した記事を再構成したもの
執筆:しげる 編集:新見直
目次
- アフリカ系アメリカ人にとっての“空白”
- 黒人にとっての“理想の故郷”ワカンダ
- 「1992年のオークランド」である理由
- 故郷を失ったキルモンガーの重たい問いかけ
- 王でありヒーローの物語
16世紀以来、新大陸アメリカでは奴隷のニーズが拡大する一方だった。それを支えたのがスペインとポルトガル、後にはイギリスやフランスなどより多くの西欧諸国による奴隷貿易だった。
武器を西アフリカに売り、その対価として西アフリカから奴隷を新大陸に販売。さらに新大陸からは砂糖やタバコを購入するという三角貿易は、莫大な富を生んだ。
一方“人間を売る”という究極の商売を行った西アフリカ諸国は荒廃し、これが後に西欧列強によるアフリカの植民地化を引き起こす。
こうしてアメリカに連れてこられたアフリカ人の末裔であるアフリカ系アメリカ人にとって、自らのルーツは巨大な空白となっている。
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