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  • 2020.07.16

台頭するアジア系女性監督たち 彼女たちはなぜハリウッドで“声”を獲得したか

西洋のステレオタイプを乗り越えたアジアのミクロな物語が、国境を超えてひととひとを繋ぎ、メインストリームで評価されている。

一方で、ストリーミング配信により映像作品は“飽食”の時代を迎えているように見えるが、アジアの作品たちを私たちが目にすることはまだ少ない。私たちが親しむ名作はごく限られた世界のものにすぎない。本連載では、有象無象の作品が世に出される飽食の時代にあっても輝きを放つ、アジアの珠玉の名作を新旧問わずレビューする。

台頭するアジア系女性監督たち 彼女たちはなぜハリウッドで“声”を獲得したか

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近年、アメリカのメジャー映画シーンではアジアをルーツに持つ女性フィルムメイカーたちの作品が、米映画史において類をみないほどに頭角を表している。

その代表例としては、中国系アメリカ人監督のキャシー・ヤンが挙げられる。今年公開されたDC映画『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』において、アジア系女性監督としては初のスーパーヒーロー映画を手がけ、大きな注目を集めた。

彼女の監督就任がなぜ“史上初”となり、世間を騒がせたのか。そしてなぜ、ハリウッドにおけるアジア系女性監督の活躍が話題となるのか。その理由を紐解くには、米映画史に受け継がれている人種偏重、そして男女比率の非対称性に目を向けなければならない。

本稿では、未だ白人優位性はびこるハリウッド/アメリカ社会に放たれるアジアルーツの女性監督たちによる作品群、移民2世の中国系アメリカ人 ルル・ワン監督の『フェアウェル』、台湾系アメリカ人 アリス・ウー監督の『ハーフ・オブ・イット:面白いのはこれから』、北京出身の中国人監督 クロエ・ジャオの『ザ・ライダー』を紹介するとともに、彼女たちのまなざしがスクリーンの中に拓く新たな世界をとらえたい。

執筆:菅原史稀 編集:和田拓也

連載バックナンバー

目次

  1. “アジア系女性監督”が話題となる映画業界の構造的理由
  2. ある“嘘”にゆらぐ、中国系アメリカ人のアイデンティティ
  3. 文学が紡ぐ、孤独で多様な愛のかたち
  4. 北京出身の女性監督クロエ・ジャオが描く“男らしさ”からの解放
  5. クリエイションにおける「質」と「多様性」の関係性

“アジア系女性監督”が話題となる映画業界の構造的理由

2015年開催の第88回アカデミー賞において、演技部門にノミネートされた20人すべてが白人俳優であったことに対し“ホワイト・オスカー(白すぎるオスカー)”という異名で批判の声が上がった。

この現象が象徴するように、米映画シーンにおける白人至上主義の悪習はこれまでも大きく問題視されてきたものだ。

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そんななかで、本年の第92回アカデミー賞におけるポン・ジュノ監督作品『パラサイト 半地下の家族』の脚本賞・監督賞、そして外国語映画として史上初の作品賞獲得がもたらした「歴史的瞬間」は、こうしたハリウッドの現状に風穴を開けるものだった

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