
ハハノシキュウ『韻も踏まずに』Rec.1 劣等感のボクシング
何人のラッパーがちゃんと韻踏んでるのか数えて見よう多分かなり異様に少ないぞキングギドラ「大掃除」 《Hook》 No1,人…
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ラッパーであるハハノシキュウから届いた一本の小説。それは、実に“奇妙”としか形容できない類の内容だった。最初は困惑し、次に腹を立て……最後は総毛立った。それを味わうために必要な条件はたった一つ。“最後まで読み通す”ことだ。簡単に聞こえるだろうが、この小説『韻も踏まずに』を前に、それは決して容易くない。
韻を踏むように文字を書き綴ってきたハハノシキュウが描いた、“誰もが日常的に韻を踏む世界”における「MCバトル」の物語。そこではすべてが“反転”する。
これは異世界転生モノであり、MCバトル強者によるMCバトル小説であり、散文小説への挑戦であり、なぜ「MCバトルというものが必要とされるのか」という問いに対するひねくれたラッパーからのアンサーである。
No1,人間は本能的にリズムに乗ってしまう習性がある
No2,韻を踏んだり抑揚をつけて話す習性がある
No3,習性に逆らおうとする習性がある
No4,リズムに乗らず韻も踏まずに悪口を言う合う競技がある
No5,その競技はMCバトルと呼ばれている
No6,高校の部活動にも導入されるほど一般化している
No7,その部活は罵倒部と呼ばれている
No8,MCバトルは女性の方が強いと言われている
No9,男性でチャンピオンになったものは未だに一人もいない
No10,これは男だけの罵倒部を学校に作った僕らの無謀な物語だ
西井月歩はとにかく付き合いのいい奴だ。
威圧感などは一切出さない。
三日三晩眠れないような状況にも不服を言わず受け入れる副部長。
奴は拒むことを知らない。
余計なことも言わない。
奴はいつも丁寧な脚韻でわかりやすく喋る。
自分の価値を値踏みせず馬鹿に安くなれる。
だから「MCバトルには向いてない」と多少、冗談にしていた。
奴の実力を過小評価していた。
でもじつは僕の方が木偶の坊で。
バトルとなると即答次第で卒倒しそうになる。
友人を過大評価してしまうのは不文律だが、それは業界における普通に過ぎない。
だから西井とのこの戦いは災いを、ばら撒いた抗いのからかい合いの筈だったのだ。
この東京予選にて初めての男性対決。
終わりから眺めると全てが反省会です。
まだ1回戦だと言うのにフロアには、僕たちを見世物かまたはプロレタリアのように見る冷やかしの価値観。
種明かしのマジシャン。
詭弁だけが頼りになる試合が、事変を起こすためのゴングを鳴らしていた。
「七瀬、お前はマネージャーとイチャつき過ぎだ!俺も一網田もそればっかり気になってる!」
「同じ高校、お前が後攻って韻を踏みそうになっちまう時もあるが、まだここで終わるわけにはいかねぇ!」
西井の言葉に会場は珍妙な静寂。
心臓が脆弱な人間には耐え難い空気だった。
そして、僕のターンが海藤の加入した半年間をオクトーバーごと跨いで目論んだように始まる。
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