MCバトルという料理は、ヒップホップという器を超えた──「BATTLE SUMMIT」レポート後編
2022.09.17
ラッパー・ハハノシキュウが目撃した11月13日に行われた「U-22 MCBATTLE FINAL 2022」と、MCバトルに起こっている変化の正体について。
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「お前の力はお前自身で確かめろ お前のための時代ならお前が変えろ」THA BLUE HERB『時代は変わる Pt.1』
「もしも、たった一つしかアドバイスできないんだったら僕は『プライドを持て』と言います。負けた時に『相手が呂布カルマだから仕方ないよね』みたいな逃げ道をつくっちゃダメなんです。
逆に『ここで負けたらなんの言い訳もできない、全部自分の責任だ』ってくらいの心持ちじゃないと、脳味噌が本気を出してくれません。自分のプライドの高さをちゃんと自覚して、それを下回らないように頭を使うんです」
仮に僕が『フリースタイルティーチャー』の先生役で呼ばれたとしたら、最初にそう言うと思う。
MCバトルにおいてスキルや戦略は必要不可欠だが、それよりもまずはプライドが必要だ。
ハハノシキュウのような腐れ根性の人間に言われても納得できないと思うが、裏を返せば僕のようなラッパーになってほしくないからだ。
実のところ僕は世間が想像する100倍くらい負けず嫌いで、負けた時のダメージはお客さんの僕に対するイメージに反してかなり大きい。人によっては勝敗を度外視してバトルをやってるなんて思うかもしれないが、僕は毎試合毎試合きちんと悔しい思いをしている。むしろ、その悔しさにメンタルが耐えられなくなるのが嫌で、言い訳しやすいスタイルを選んでるとでも言えばいいだろうか。
僕は性格が悪いため、逆にプライドを持って真っ向から挑んでくる人間の出鼻を挫くことに誠心誠意を注いでいる。だけど、その本質は、プライドを持って真っ直ぐ戦ってる人間に負けたところで「それは仕方がない」と自分に言い訳をつくっているだけだ。
ここまで読んだ人は僕のようなラッパーにはなりたくないと思ったはずだ。僕もなってほしくない。
負けた時に死ぬほど恥ずかしいって状況でも、真っ向から戦えるラッパーになってほしいと僕は思っている。
これはプライドの話だ。
目次
- 11月12日(土) これはプライドの話だ
- “負けても言い訳できるラッパー”が出てないU-22
- 1回戦 第1試合 班 vs 百足
- 1回戦 第2試合 STACK THE PINK vs Dumbperson
- 1回戦 第3試合 Bass vs RunLine
- 1回戦 第4試合 Itaq vs 9L!
- 1回戦 第5試合 蘇流邪 vs CHANCE
- 1回戦 第6試合 SURIBOY vs 11'Back
- 1回戦 第7試合 Yella goat vs TERESA
- 1回戦 第8試合 MOGURA vs 歌々詩(ex.よんろく)
- 1回戦 第9試合 siuta vs KT
- 1回戦 第10試合 REDWING vs ビシキマ
- 1回戦 第11試合 脱走 vs MCリトル
- 1回戦 第12試合 SHABAZ vs Fuma no KTR
- 2回戦 第1試合 STACK THE PINK vs Bass
- 2回戦 第1試合 9L! vs CHANCE
- 2回戦 第3試合 MOGURA vs siuta
- 2回戦 第3試合 REDWING vs MCリトル
- 準々決勝 第1試合 百足 vs STACK THE PINK
- 準々決勝 第2試合 CHANCE vs 11'Back
- 準々決勝 第3試合 MOGURA vs Yella goat
- 準々決勝 第4試合 MCリトル vs Fuma no KTR
- 準決勝 第1試合 百足 vs 11'Back
- 準決勝 第1試合 Yella goat vs Fuma no KTR
- 決勝戦 11'Back vs Fuma no KTR
- 11月13日(日)MCバトルに浸透し始めたものの正体
U-22の肝心要はなんと言っても“言い訳材料になるラッパー”が出ていないことだ。
具体的に言えば、呂布カルマとか輪入道とかMU-TONあたりのラッパーだ。
勝ったら大金星のスーパーヒーローだが、負けたら「仕方ない」で済まされてしまう。
しかし、U-22の出場者同士にはそんな“言い訳材料”などない。
同世代の戦いなのだから負けた時の悔しさも数倍になるだろう。
特に、他の大会や音源で結果を残してるプロップスの高いラッパーほど、その重圧が強くなる。
負けても「仕方ない」なんて誰も言ってくれない。むしろ「勝って当然」と思われることもある。
当たり前の話だが、負けたら“プライド”が傷つく。
そんな自分のプライドを守るためにはどうすればいいか?
答えはシンプルだ。勝つしかない。
さて、前振りが長くなってしまったが、U-22においては、このプライドが出場者のパフォーマンスに大きな影響を与えるということを念頭においてほしい。
【MC】
百足
Fuma no KTR
RunLine
REDWING
KT
TERESA
Dumbperson
siuta
斑
SURIBOY
11'Back
脱走
CHANCE
9L!
Itaq
MCリトル
SHABAZ
MOGURA
歌々詩(ex.よんろく)
STACK THE PINK
ビシキマ
Yella goat
Bass
蘇流邪【GUEST LIVE】
eyden【HOST&DJ】
U-22 MC BATTLE FINAL 2022
MAKA
DJ YANATAKE
DJ chaka
初戦のビートはDonatello&Noconocoの『HeadBanger』だった。
いきなり優勝候補の百足の登場ということで、観客はフルスロットルで声を上げる。
今年がちょうど22歳の年になる百足やFuma no KTRたちの“00世代ラストイヤー”というのが、今大会のテーマだったように思える。
そこに班ら01以降の世代が噛み付いていくという構図だった。
先攻の斑の1本目、つまり今年のU-22はこんな風に始まった。
「憧れも今じゃ射程圏内、アンタに憧れてマイクを握った。なのに今は余裕ぶってネタの披露会、00-01の世代交代!」
一方で後攻の百足は、斑の言うように余裕のある態度で観客を盛り上げていく。相手をディスるというよりは、セルフボーストに重きを置いていたように見える。
「ルイヴィ(Louis Vuitton)、GUCCI、FENDI、PRADAよりも価値がある百足のワンバース」と2本目を締める。
対する斑はブランド物から連想して「Miranda Kerr」というワードを出し「Miranda Kerrもアホンダラも消えちゃえば一緒のシャボン玉」と返す。
観客の反応は今ひとつだった。
そこに百足のダメ出しのアンサー「お前が消えてくシャボン玉 3,2,1 BANG!さようなら」が的確に決まる。
「俺が始めてきたものを今日終わらせにきたぜ」と最後の小節を百足が締める。
班を敵とすら見做してない態度だった。勝者は百足だった。
試合後、百足が一言こう言った。
「今日、優勝すっから」
これはプライドの話だ。
百足のプライドの高さは、U-22優勝の上に位置する。それが伝わってくる試合だった。
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