最後の砦としての“MCバトル”に起こっている変化 ハハノシキュウ「U-22 MCBATTLE」レポート
2022.12.02
ラッパーであるハハノシキュウから届いた一本の小説。それは、実に“奇妙”としか形容できない類の内容だった。最初は困惑し、次に腹を立て……最後は総毛立った。それを味わうために必要な条件はたった一つ。“最後まで読み通す”ことだ。簡単に聞こえるだろうが、この小説『韻も踏まずに』を前に、それは決して容易くない。
韻を踏むように文字を書き綴ってきたハハノシキュウが描いた、“誰もが日常的に韻を踏む世界”における「MCバトル」の物語。そこではすべてが“反転”する。
これは異世界転生モノであり、MCバトル強者によるMCバトル小説であり、散文小説への挑戦であり、なぜ「MCバトルというものが必要とされるのか」という問いに対するひねくれたラッパーからのアンサーである。
クリエイター
この記事の制作者たち
何人のラッパーがちゃんと韻踏んでるのか数えて見よう多分かなり異様に少ないぞキングギドラ「大掃除」
No1,人間は本能的にリズムに乗ってしまう習性がある
No2,韻を踏んだり抑揚をつけて話す習性がある
No3,習性に逆らおうとする習性がある
No4,リズムに乗らず韻も踏まずに悪口を言う合う競技がある
No5,その競技はMCバトルと呼ばれている
No6,高校の部活動にも導入されるほど一般化している
No7,その部活は罵倒部と呼ばれている
No8,MCバトルは女性の方が強いと言われている
No9,男性でチャンピオンになったものは未だに一人もいない
No10,これは男だけの罵倒部を学校に作った僕らの無謀な物語だ
「感情に染めてよ」
僕の耳元に、右頬に、イヤホンのように、近く、小さく日本語表記で3、4時間は残響した。
この日、12月30日は、まるでドラマの第11話、MCバトルの千秋楽だと言及したくなる。
僕は予選で毎年、面目無いくらいに連続敗退している一介の罵倒部員。
この決勝大会に足を運ぶ言い訳みたく、一年という名の種火の始末が師走を知らす。
そんな人混みが彩りを築く会場で今、腫らした目で話しかけてきたのが彼女でした。
罵倒部とは無関係の同じ高等部で、寡黙、顔見知りの同級生、少し荒唐無稽。
彼女の名前は、確か「遊ぶ」と書いて海藤遊(カイトウユウ)。
過酷な特進クラスの女子で、通称サイボーグ。
無口で無感情で無表情なことで有名な、下向きな態度はまるでシューゲイザー。
「感情に染めてよ」
彼女はたった一言の言葉をこの場に残し、踵を返した勢いで人混みに一飲みされた。
ステージに目をやると、優勝者が流暢な日本語で、韻も踏まずに、優勝フリースタイルに挑んでて、優勝することによって重みが見違えた言の葉を散りばめた一場面だった。
今年の全国大会は一昨年のほとぼりを、冷ましてしまうくらいのポートフォリオだった。
去年、僕は高校一年生で相当惨めで、罵倒部を創部したはいいが、今日もいじけてる。
予選で一回戦負けを喫し、起死回生も出来ずに理想を口にし息巻いていた。
その年、僕と同じ一年生の女子が、異次元で史上最年少の雷鳴に題名をつけた。
東京予選を突破しそのまま羽ばたいて、瞬いた間に本戦でもチャンピオンに輝いたのだ。
その女の名前は、国木田来夢(クニキダライム)と言って、鼻にかかった声と鼻にかかった前髪で前が見えないのが特徴的で、誰も彼女の尊顔と慧眼を、壮観したことがないと紹介されている。
今年はそんな国木田来夢の二連覇が、かかった大会だったためきっと事件がなく、この界隈では大体のやつが、彼女の優勝を宇田川町の裏側のように疑わなかった。
さらに言えば、彼女がまさか此の期に及んで、男に負けるなんて思ってなかったのだ。
一回戦、大阪代表として台頭した“西の相田みつを” 。
話題になっていた大会初の男性ファイナリスト。
富和雷同(フワライドウ)の登場が会場を盛り上げ、産まないような男の産ぶ声がフェンスに乗り上げる。
対峙する相手は前回チャンプ。
連帯感を気にも止めない倦怠感に溢れた雰囲気が国木田。
富和雷同が、女子が言わないような内容を詰め込んだ言語の応酬で、猟銃を構える。
一回戦は、発狂せず日本語を言いたい八小節二本交代。
先攻の国木田は挨拶がてらに、待ちわびたガチガチな客たちを始まりで盛り上げる。
「男が優勝するなんて、大阪のレベルも下がったな」
「男ってのはいつも韻とビートで調子いいことしか言わない。ノリだけでなんとかなると思ってるんだろ?」
国木田の持ち味はノリというものを一切許さない、そんな思想に割り振ったアティチュードだ。
対して後攻の富和。
始まりはこのような札。
「お前な、男がノリだけとか勝手にこじつけんな、俺はそんな軽い男ちゃうぞ。大阪のレベル? 俺はお前みたいな根暗が優勝するこの日本のレベルを疑っとるわ」
国木田に対する真っ向からのアンサー。
一回戦の空気が一変したと観客の反応から判断。
「前髪で顔が見えん、ブスなん? 見てみよか、ってお前ブスやん!」
バースの締めはミステリアスな国木田の前髪を、富和が覗き込んで茶化すところで笑いが実る。
しかし、国木田は欠かさずにすかさず挙げ足を取る。
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