Interview

  • 2022.10.07

匿名投稿ボカロイベント「無色透名祭」対談 ボカロの未来を占う希望か絶望か?

匿名投稿ボカロイベント「無色透名祭」対談 ボカロの未来を占う希望か絶望か?

昨今のボーカロイドシーンの隆盛に密接に関わっているのが、2020年の冬から毎年開催されている株式会社ドワンゴによるボーカロイドの祭典「The VOCALOID Collection」(通称ボカコレ)。人気ボカロPから新進気鋭の若手までさまざまなクリエイターがボカロ楽曲を投稿し、ランキング順位を競い合うことで、一層ボカロシーンを促進し続けている大型イベントだ。

そんなボカコレの存在が年々拡大しつつあるなかで、2022年2月25日、とあるイベントが突然Twitter上に姿を現した。それはボカロP・ちいたなが主催を務める「無色透名祭」。このイベントでは、7月1日から7月19日までの期間にボカロオリジナル曲を募集。7月28日には、無色透名祭の運営によって約3,000件もの応募作品が公開された。

無色透名祭の特色は、“白背景”にタイトル、歌詞を載せるだけのシンプルな動画を募集し、「運営による代理投稿」の形にすることで、匿名性を確保したこと。いまやボカロシーンで注目される楽曲は、MVとの相互関係のもとで成り立っていることを考えると、その定着した当たり前を一切排除した形をとった無色透名祭のメソッドは、誰もが生まれ変わった気持ちで楽曲制作に参加できる気軽さを与えたといえる。

そしてリスナー側に対しては、それまでの人気や背景といった文脈を取っ払い、ボーダレスにボカロ曲をディグるきっかけをもたらした。

また、ランキングや賞金がないのもポイント。イベント最終日の7月31日に、希望者のみ動画名とボカロP名が発表され、記念すべき1回目の無色透名祭は終了した。

今回は、主催者のちいたなさん、ボカロ曲レビュー企画の「ぼかれびゅ」で間接的に関わっていたというバーチャルボカロリスナーの御丹宮くるみ(おにくくるみ)さんに、無色透名祭の全容をうかがった。日々生まれる才能に気付かせてくれる点では、ボカコレと共通するものを感じる無色透名祭。しかし、実際には集合した楽曲も、シーンに与えた影響も、全く異なるものだった。

目次

  1. ボカコレへのアンチテーゼとして始まった、匿名投稿の祭り
  2. 御丹宮「全員がアンハッピーになる怖さもあった」
  3. 普段は伸びない曲をあえて投稿する 無色透名明祭特有の作品傾向
  4. ボカロらしい曲をつくらなくてもいい

ボカコレへのアンチテーゼとして始まった、匿名投稿の祭り

──無色透名祭はどのようにして始まったんでしょうか?

ちいたな そもそものきっかけはドワンゴさんですね。無色透名祭の企画を考えたときに自分だけで運営するのは難しいと思ったので、昨年12月ドワンゴさんに「ちょっと力を貸してくれませんか?」とメールを送りました。ドワンゴさんには普段から、ボカロPとしての自分の楽曲の権利を預けさせてもらっているほか、アルバムをリリースさせてもらったりと、結構長くお付き合いさせていただいていて、何か困ったときは力を貸してくれる存在なんです。

準備中は、毎週定例の会議をやっていたんですよね。基本、僕がやりたいことを伝えて、ドワンゴさんにそれをできるかどうか回答してもらう形だったんです。できないことに関しては、別の案を考える感じで、ちょっとずつ実現可能な方向に進めていきました。まずは「匿名投稿」に関して、そういう仕組みを1からつくるのか、既存の仕組みでやるのかというところが、最初の課題だったかな。

──匿名投稿であることは、この企画でかなり重要な軸になっているかと思います。

ちいたな 一番理想的だったのは、既存のニコニコのアカウントが無色透名祭の期間だけ匿名になり、終わったら元に戻って、その人の動画としてそのまま残るような仕組みだったんです。でも、たとえばNintendo Switchとか、3DSのニコニコアプリとかで見たときに普通に名前がバレちゃう問題があるのがわかって。そういう情報ってやっぱり1個漏れるとどんどん広がるものだし、企画そのものがグダグダになってしまう可能性もあったので、その案は無しとなったんです。

次に出した案は、サブアカウントをみんなにつくってもらうというもの。そこで問題となったのは、投稿者側の負担が大きいんじゃないかということでした。メールアドレスを1からつくってもらって、サブアカウントを発行してもらうとなると、面倒なところもあるじゃないですか。いろいろ話し合っていった中で、運営が代理投稿するという今回の形になりましたね。

──そのような無色透名祭を企画した背景には、シーンに対するどんな問題意識があったんでしょうか?

ちいたな このイベントはそもそもボカコレへのアンチテーゼなんですよね。

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