Interview

  • 2021.05.31

なぜ若者はボカロに共感する? 東大の講義で学ぶ新しいボーカロイド論

「なぜ、ボーカロイドはすごいのか?」

人間にあって、ボーカロイドにないものの正体。

なぜ若者はボカロに共感する? 東大の講義で学ぶ新しいボーカロイド論

ボーカロイドをはじめとしたネットカルチャー出身のアーティストたちが、活躍の幅を広げている。そんな音楽シーンについて、東京大学で講義を行っている人物がいる。

鮎川ぱて。彼はボカロPであり、音楽評論家であり、東京大学教養学部で「ボーカロイド音楽論」を受け持つ講師でもある。

REpate202105_1.jpg(※メイン画像)

鮎川ぱてさん。ただし、鮎川ぱてはルックス担当とルックス以外担当に分かれており、写真はルックス担当のもの

先日、話題となった現代ビジネスの記事『「うっせぇわ」を聞いた30代以上が犯している、致命的な「勘違い」』では、歌詞を巧みに紐解きつつ、若者世代から爆発的支持を受ける理由を分析(外部リンク)。さらに反発ではなくスルーという処世術を覚えた若者世代と、上世代との価値観の分断の背景までを言語化した。

ボカロという言葉を知らない人はもはやいないだろうが、それを音楽論として議論するとは、どういうことなのだろうか。鮎川ぱてさんに取材を行い、講義の内容やシーンの分析、さらに謎多き自身のキャリアまで、広くお話をうかがった。

目次

  1. 過去の受講生には松丸亮吾やQuizKnockこうちゃんも
  2. 歌の持つ身体性と「アンチ・セクシュアル」
  3. マイノリティに寄り添う、「アンチ・ラブソング」の系譜
  4. 身体性の透明化と、「v flower」の相性
  5. 「わかってない人が書いてる」という危機感
  6. ボカロシーンの“後衛”として、語り継ぐこと

過去の受講生には松丸亮吾やQuizKnockこうちゃんも

──ニコニコ生放送で講義をされたり、学生さんとのコミュニケーションにDiscordを使われたりと、授業の進め方が非常にインターネット的だなと思っていました。以前からずっとこのスタイルなのでしょうか?

鮎川 オンラインになったのは、完全にコロナの影響です。コロナが落ち着いたらまた対面で授業したいと思っているし、学生氏たちもそれを望んでくれています。

僕の授業は「ぱてゼミ」と呼ばれていますが、ただ講義をするだけでなく、Discordによるコミュニティ機能も持っています。一緒にぱてゼミを受けている隣の席の人は、自分と同じようにボカロが好きか、興味を持っている人でもある。だから、ボカロ友達ができる講義として認識してくれている学生氏もいます。そんな彼らのコミュニケーション機会がコロナのせいで減らないように、Discordを取り入れました。

──オンライン講義をするにあたり、ZoomやYouTubeLiveではなくニコ生というのがまたボカロらしいと言いますか、カルチャーへの準拠を徹底されている感じがしました。

鮎川 ニコ生を選んだのは、実はすごくシンプルで合理的な理由からです。ニコ生では、ニコニコに投稿してある動画を引用した際に、権利上何も問題がないどころか、再生数が本家の動画に加算されます。たとえば僕が、200人が見ている講義で「裏表ラバーズ」を流したら、200再生が本家にプラスされるんですよ。微力ですが、講義をやりつつクリエイターのみなさんに貢献できるなら、本望です。

教育シーンが急にオンラインに切り替わって、こういった既存作品の引用について、著作権の問題で苦労された先生はとくに昨年多かったようです。そんななかで、僕はニコニコがあってよかったなと思いますね。

YouTube内で引用すると、放送がシャットアウトされてしまうこともあるらしくて。版権もの検出システムが賢いのは基本的にはいいことなんですが、もともとニコニコ動画で活動していたボカロPがYouTubeにも投稿したところ、先に無断転載していた方が本家とみなされて、ボカロP本人の動画が削除されてしまった、なんていう事例も聞きます。

──ボーカロイドを扱う授業だから、教材の多くもニコニコ動画にありますよね。実際、どのような授業をされているか気になります。

鮎川 僕がボカロについて考えてきたことを、1学期分(15回)の講義形式でお話しするのがメインのスタイルです。ボカロPなので音楽のたとえで表現させてもらうならば、これは僕が初めて書いたシンフォニー(交響曲)です。各回がバラバラに独立しているのではなく、15回が緊密に結びついて一つの主題が一貫しているという、講義全体で一つの作品です。敬意を持ってさらに例えるなら、じんさんの「カゲロウプロジェクト」に近いかもしれません。ぱてゼミは2016年に開講しましたが、その後5年のあいだに新しいエピソードが増えて成長していっているという意味でも。

5年も続けているので、累計受講生は1,000人を超えます。過去の受講生には松丸亮吾くんやQuizKnockこうちゃん河村(拓哉)くんもいました。今若年層における彼らの影響力はすごいですけど、彼らにかぎらず、僕は受講生との出会いから多くを学んでいます。いろいろYouTuberさんの動画を見るようになったし、謎解きや音ゲーをやるようになりました。

制度的には、東京大学1~2年生の教養学部生が対象なので、人文科学で確立された批評のアプローチを広く入門的に紹介しています。たとえばジェンダー論、精神分析、記号論の知見を批評に活用するやり方を実演しています。これらは汎用性の高いアプローチなんですね。ボカロに限らず、ほかのサブカルチャーや、もっと日常的なほかの対象について考えるときにも役に立つはずだと考え、それらについて講義しています。

歌の持つ身体性と「アンチ・セクシュアル」

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──題材はボカロだけど、アプローチ手法としては学問的普遍性のあるものを提供しているということですね。具体的にボカロ曲に対するアプローチ例として、この場でお話しいただけるものはありますか?

鮎川 僕の講義では、1つ大きな軸として「アンチ・セクシュアル」というキーワードを立てています。みなさんは、人が歌を聴くとき、歌の何を聴いていると思いますか?

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人間が歌う限り、避けられないものとは?