コロナ以降に、同人音楽と同人即売会で起きたこと 「ハレ」を取り戻す日まで
2020.12.15
音楽も、漫画も時代と共にその形を変えていく。音楽漫画『ロッキンユー!!!』はその突然の終わり方も含めて、そのストーリーから一貫した「プロとアマのどちらが正しいのか」というテーマを顕在化していった。
石川香織さんによる青春バンド漫画『ロッキンユー!!!』は、一見荒削りながらも読むものの心を鷲掴みにする迫力ある表現と、現役のバンドマンたちを唸らせるほどの繊細な心理描写で、CDからサブスク、ライブハウスからYouTubeへと音楽の在り方が大きな変革を遂げる現代において、漫画という切り口からオルタナティブロックを鳴らす傑作である。
読み切り版が投稿されるとTwitterで大反響を呼び、集英社のWebコミック媒体「少年ジャンプ+」で連載が開始され、瞬く間に人気作品の一つとなった。
作中でも主人公たちがバンド「春の感傷」を結成し、実在する10代のバンド登竜門的イベント「未確認フェスティバル」を勝ち上がるという盛り上がりを見せるなか、2019年4月に突如として連載が終了してしまう。
不可解にして突然の終焉で波紋を起こしたが、本人は「今後は個人で続きを描く」と発言し、実際に先日行われた漫画展示即売会コミティアでは「ロッキンニュー!!!」と題した作品を発表するなど前向きな様子を見せていた。
人気の内に終了するというのは劇中でも大きくフィーチャーされている日本のオルタナティブロックバンド「NUMBER GIRL(ナンバーガール)」に通ずるものがあり、クールといえばクールだが作品を愛するファンとしては納得がいかないのも事実だ。
そんな中、誰より作品を愛する石川さん本人は今どのような思いを抱いているのだろうか。王道ではなくとも確実に人の心を奪う不思議な魅力を放った作品と作者のルーツを辿ると共に、彼女の愛した音楽、漫画についての思いをうかがった。
──「ロッキンユー!!!」はもともと「ロッキンオン!!!」というタイトルで、集英社の投稿サイト「ジャンプルーキー!」に投稿された作品でした。そもそもなぜ投稿しようと思われたのでしょうか?
石川 あの頃は、持ち込みから編集さんと雑誌掲載に向けてネームをつくっていたんですが、ぜんぜんうまくいっていなかったんです。なので一回好きなものを思いきって描いてみようと思い、バンドものを描いて『ジャンプ』本誌の月例賞に応募したんですが、箸にも棒にもかかりませんでした。
でもせっかく完成させたから勿体ないなと思ってジャンプルーキーに投稿したら、Twitterで大きな反響をいただけたんです。それで賞までもらえることになり、連載へ繋がったという流れでした。
──音楽は特に漫画で表現するには難しいテーマとも言われていますが、なぜバンドと音楽をテーマにされたのでしょうか?
石川 音楽を漫画で表現するのは難しいというのは確かで、実際私も連載になるとは思っていなかったんです。知人や周りにも「あまりオススメできるテーマじゃない」と言われたんですが、逆にオススメできないならやりたいなと思ってしまいました。
──石川さんも劇中の主人公たちのような反骨精神の塊なんですね……!現在の音楽シーンはネット発のクリエイターやアイドルグループの台頭などによって、バンドの存在感が薄れているように感じています。だからこそ、バンドを題材とすることに大きな意味があったと考えていますが、石川さんとしてはそのような音楽シーンの移ろいは意識していましたか?
石川 バンドの勢いが弱くなっているとは思っていません。私が今よく聞いているのはボカロも同時に手掛けるようなバンドやアーティストなんですが、彼らのつくる音楽は4〜5年前でいうボカロっぽいものとしてではなく、もはやオルタナティブロックとして受け入れられているようなものになっているんです。
そのようにジャンルの垣根が作る側にも聞く側にもなくなってきていて、あらゆる音楽がフラットに聞かれる状況になったとは思います。
──バレンタインにTwitterに公開されていた漫画ではアキラくんが「バンドマンがモテる時代はもう終わってんだよ!」と言っていたので、石川さんもそういう感覚なのかと思っていました。
春の感傷メンバー宛にバレンタインチョコ頂きました、ありがとうございます…!泣きながら食べたみたいです。 pic.twitter.com/MtZPnhYYY4
— 石川香織/コーンフレーcu (@confure) 2019年2月22日
石川 毎日のようにライブをガッツリやって、小さなライブハウスから成り上がるみたいなやり方をしてる人は少なくなったんじゃないかなと思いますね。でもそれは決して今バンドシーンが盛り上がっていないということではないです。
──実在のバンド名や曲名、歌詞が引用されるのが作品の大きな特徴ですが、どのような意図による表現なんでしょうか?
ロックやバンドを知らない真神たかしにNUMBER GIRLの良さを説明する不二美アキラ c石川香織/集英社
石川 全部架空のバンド名にするとどうしてもイメージできることに限界があるし、説得力が無いと思ったんです。私自身現実味のある表現が好きなので、この漫画で今の音楽やそれを取り巻く環境をどう表すか考えた結果、やはり実在のものの引用をするのが一番だと思いました。
──「少年ジャンプ+」のコメントなどを見ると、『ロッキンユー!!!』から色んなバンドを知ったというような声も多いですが、作品を通じてバンドを紹介しようというような思いもあったのでしょうか?
石川 そういう声も嬉しいですが、コメント欄には、作者の啓蒙しようみたいな意図が見えてキモいって意見もありました(笑)。でも私としてはそういう気持ちはあまりないです。
上の世代から趣味を押し付けられるのってウザいじゃないですか。自分でもそういうことはしたくないなと思っているので。
──(KAI-YOU米村)劇中に登場するバンドは32歳の僕にはどストライクでした。やはりそういう世代からの反響は大きいのでしょうか?
石川 私と同じか少し上の人達が直撃の世代なので、喜んでもらえてるのは嬉しいです。でも漫画の感想や直接いただくお手紙とかを見ると、メインの読者層は若い人だったと思います。今は漫画そのものを読む年齢層が上がっていると思うのですが、私自身も音楽が好きな中高生に読んでもらえたらと思って描いていました。
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