寺田てらインタビュー 自らが生み出した「パブリックイメージ」を乗り越えるために

Interview

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  • 2020.08.25 19:00:00

SNSを中心としたインターネットサービスの発展によって、個人が気軽に創作を発表できるようになった現在。クリエイターが会社に属さなければ身を立てられなかった時代は終わり、様々な領域で個人作家たちが活動を展開している。

寺田てらインタビュー 自らが生み出した「パブリックイメージ」を乗り越えるために

寺田てら「Temptation」

イラストレーターは刻一刻とその在り方が変容している職種の一つだ。日々目にするものの中にも二次元イラスト的なプロダクトが増え、その活躍がオタク領域だけではなくなって久しく、SNSによってファンとの距離も密接となり、その振る舞いにタレント的な要素まで求められる場合も見られる。

本連載では領域が広がり続け、その定義も変わり続ける現在を確かに生き抜くイラストレーターにフォーカスし、新たな時代のイラスト表現の可能性やクリエイターの矜持を解き明かしていく。

今回取材させていただいた寺田てらさんは、LINEスタンプ「てきとう女子。」シリーズや、ナナヲアカリさんによる「チューリングラブ feat.Sou」や「ダダダダ天使」といった楽曲のMVイラストを手掛る大人気イラストレーター。

ダダダダ天使 / ナナヲアカリ

ドイツ生まれドイツ育ちという特異な経歴を持つ彼女。

ボカロ楽曲のMV制作や様々なVTuberグッズのイラストを担当するなどオタク層への人気が絶大でありながら、近年ではナナヲアカリさん楽曲の大ヒットなども相まってTikTokユーザーを中心とした一般層への認知も大きく広がっており、境界を越えて活躍を広げるまさしく新時代のクリエイターだ。

ポップで可愛らしい絵柄はまさしく寺田てら印として多くのフォロワーも生み出しており、その存在は唯一無二のものとなっている。

しかし、華々しい活躍を続ける稀代のイラストレーターからこぼれたのは「今の自分の絵柄は好きではない」という、まさかの言葉だった。

目次

  1. ドイツ生まれドイツ育ち? 寺田てらの正体
  2. 今の自分の絵柄は、好みじゃない
  3. 「納得していない仕事」が代表作になってしまうこともある
  4. 融解する境界 独自のファン層を形成する寺田てら
  5. 無意識に残っていた、こだわり
  6. 現代イラストレーターの必須技術としてのSNS
  7. 止められない、海外への憧憬
  8. 自分でつくり上げた「寺田てら」を越えるために

ドイツ生まれドイツ育ち? 寺田てらの正体

──本日はよろしくお願いします。寺田てらさんはあまりインタビューなどは受けられておらず、ミステリアスな印象がありました。性別含めパーソナルな部分は敢えて隠されていたのでしょうか?

寺田てら そもそもあまりインタビューなどを受ける機会がなかったというのもありますが、性別ありきでイラストを見てほしくなかったので、なるべく隠していたかったんです。

でも歌手のナナヲアカリさんとのお仕事をする中で、トークショーやサイン会のように顔出しをする機会をもらったり、先日は「ガリベンガーV」のインタビュー動画に出演させていただきました。活動を続ける中で、その意識も軟化してきている感じがします。

「ガリベンガーV×クリエイターズ」vol.2 寺田てら

──丁度いい時期にインタビューができてよかったです。はじめてお仕事でイラストを描かれたのはいつ頃でしたか?

寺田てら 仕事としてのイラストは、大学生の時に集英社から出ていた「アオハル」という雑誌に挿絵を描いたのが最初でした。

もともと漫画を描いてコミティアに出していたんですが、いろんな出版社さんから声をかけていただき連載にしていく具体的なところまで進んでいたんです。ですが、いざやってみると漫画を描くことがとにかく苦手なことに気づかされて。大学の卒業制作とも重なってどんどん時間がとれなくなっていき、漫画家の道は閉ざされてしまいました……。

でもそこから学んだものを活かしたくて、イラストには関わっていたい思いもあり、デザイナー職の入社試験を受けて就職したんです。

──元々はイラストレーターではなく漫画家を目指されていたんですか?

寺田てら ハッキリと目指していたというよりは、漫画を描いていたらたまたま評価されたので、軽い気持ちだったのは否めません。実際やってみたら全然ダメで、諦めましたね。

──プロフィールに関していうとやはり興味深いのが「ドイツ生まれドイツ育ち」という点です。失礼ですがこれは本当なのでしょうか?

寺田てら 本当です(笑)。人と話していてよく「日本語がおかしい」って言われることがあったので、「ドイツ生まれだから!」と言い訳に使っていた時期もあったんですが、もう日本にいる時間の方が長いので使えなくなってしまいました。

ドイツ語もすっかり忘れてしまったので、日本語も喋れないしドイツ語も喋れない、中途半端な存在になっちゃってます。

──ドイツでの子ども時代から絵は描かれていたんですか?

寺田てら 風船とか簡易的なモチーフをクレヨンを使って描いていた覚えがあります。

ドイツにいたけれど、日本のアニメも好きで。日本にいたおばあちゃんに「おジャ魔女どれみ」とか「セーラームーン」のDVDを送ってもらって、真似して描くとかもしてました。

海外への憧れはずっとありますし、原色バリバリみたいなデザインが好きなのはもしかしたらドイツで育った影響があるのかもしれません。ドイツは文房具とかプロダクトがどギツい色だったりするんですが、それを日常風景で見ていたから、自分も単色系の色使いを好んでいるんだと思います。

今の自分の絵柄は、好みじゃない

──お好きなものでいうと、プロフィールには「タコ」と「幾何学」が好きと書かれていることも多いですね。

寺田てら 高校生の頃に面白いと思う生き物の写真を撮りまくってた時期があったんです。横線が入った目が特徴的だったり、なかなかいない造形をしてるのが描いていて楽しいのかもしれません。

寺田てら_tako.jpg

寺田てら「母体につつまれ」

寺田てら これは大学生の時に描いたタコのイラストなんですが、こういう色の塗り方(厚塗り)にハマっていたので、それを描くのに気持ちいいモチーフがタコだったから好きになっていったんだと思います。

──「幾何学」についてはどうでしょう? 有機的な「タコ」とは対照的なモチーフに思われますが。

寺田てら 複雑で有機的なものも好きなんですが、シンプルなものも好きなんです。

大学に入ってからサブカル界隈の作品を漁るようになったんですが、当時は円や三角形だけで構成された無機質なアートが多くて、あっさりしているのもいいなぁと思ってモチーフとして「幾何学」が好きになっていきましたね。

タコの有機性とか情報量の多さに対して、シンプルな幾何学を組み合わせるとものすごくハマるんです。

──先ほどのタコのイラストもそうですが、昔の作品を見ると、生肉とか内臓といった有機的というか、現在のポップで可愛い画風とは異なるグロテスクなモチーフを扱っていることが多いようにも感じます。

寺田てら たしかに今の「寺田てら」の作風とは真逆ですよね。あまり良くない言い方をすると「妥協」といいますか──魂を売るまではいかないですが、仕事としてイラストを描いていく過程でそうなってしまって、実は今の絵柄は自分の本当の好みとは違うんです

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