四席 お題「中止」「芝浜」「優勝」

Interview

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  • 2020.05.09 19:00:00

中止・延期が相次ぎ、出口が見えない日々。

ラッパーであり“小説家”であるハハノシキュウが綴る、「あり得たかもしれない未来」について。

四席 お題「中止」「芝浜」「優勝」

2020年2月29日(A)

MCバトル《ADDVANCE 五輪祭》が新型コロナウイルスの影響で中止になった。

2020年2月29日(B)

MCバトル《ADDVANCE 五輪祭》で優勝した!

2020年3月28日(A)

Amaterasと一緒に作った新曲のMVを撮る予定だったが、新型コロナウイルスの影響で外出を自粛することとなり撮影は延期になった

2020年3月28日(B)

Amaterasと一緒に作った新曲のMVを撮るため、高輪ゲートウェイ駅を訪れた。

Amaterasと会うのは2月29日の《ADDVANCE 五輪祭》の決勝戦以来だ。

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YouTubeに動画上がりましたね

あれ、俺やっぱ負けてたよ

いやいや、あれはシキュウさん優勝で間違いないですよ



あの日の決勝はハハノシキュウ vs Amaterasという予想外のカードだった。

「シキュウさん全然口きいてくれないからずっと怒ってると思ってましたよ」

「全然怒ってないし、LINEだと普通だったでしょ?」

「それが逆に怖いんすよ!」



カメラマンと合流し、撮影のポイントを巡る。

「高輪ゲートウェイって名前より芝浜駅の方が絶対いいですよね」

Amaterasがそう漏らす。

ここにホログラム出すんだよね?

「そうです!そうです!」



花のち晴れ~花男 Next Season~』という『花より男子』の続編がある。

この『花のち晴れ~花男 Next Season~』の実写ドラマに道明寺(松本潤)がホログラム出演するシーンがある。

これに着想を得た僕らはMVに“ホログラムAmateras”を登場させることにした。

Amaterasの知り合いにホログラムの研究をしている大学院生がいるらしい。

このMVのために短期間でわざわざプログラムを組んでくれたなんて話だ。



「シキュウさん役の女の子ももうすぐ来ますよ」

リアル道明寺はLINEを確認してそう言った。

「水着でハハノシキュウキャップ被ってくれる女の子なんかいないよね?」とAmaterasに冗談半分で聞いたら「全然いますよ!むしろ、やりたい!って言ってくれると思います」

Amaterasと一緒にいると妄想と現実の境目がわからなくなる

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ホログラム映像のAmaterasが黄色いビキニを着たハハノシキュウと一緒にラップをしている。

全然意味わかんねぇ画だな

これはこういう概念なんです!

まだ肌寒い港区の風を受け、僕は周りの目を気にしながら女の子にベンチコートを渡した。

エロビデオの撮影だって思われてない?

それはそれでそういう概念ですよね!



撮影の合間合間で話題になったのが《ADDVANCE 五輪祭》のことだった。

「そ、そう言えば、優勝おめでとうございます!」

ハハノシキュウ役の女の子がレンタカーの中でそう言った。

無口な子だと思っていたが、緊張していただけらしい。

「YouTube観たの?」

Amaterasが口を挟む。

「け、決勝戦?は観ました」

「ダメだなー、お前は。まず、一回戦のFRANKENさんとシキュウさんの試合から観なきゃ

「あの試合か……」

Amaterasが年下と接する時はこんな感じなのかと思いながら、会話を繋ぐ。

「FRANKENさん、めっちゃ好きです! その試合観たいです!」

女の子はハニカミながらそう言った。

FRANKEN VS ハハノシキュウ@ズキ子主催ADDVANCE 五輪祭

2020年2月29日(A)

MCバトル《ADDVANCE 五輪祭》が新型コロナウイルスの影響で中止になった。

2020年2月29日(B)

この日はズキ子さん主催のMCバトル《ADDVANCE 五輪祭》だった。

MC BATTLE出場者は32名。

Amateras
阿修羅
aqua
十六夜
影賭
MCリトル
MC龍
C'stle
しうた
スナフキン
だーひー
ハハノシキュウ
hMz
Fuma no KTR
FRANKEN
BOZ
MAKA
ミステリオ
ミメイ
無欲
MOGURA
ゆうま
RAGA
Rabbit
Randy Wati Sati
悪影
ACE
TERA_Z
KK
T-TANGG

         等


さて、結論から言うと僕はこの日、家から一歩も出ていない

しかし、優勝はした


まるで二つの世界線が同時に存在するような状況

どうしてこうなったのか?

順を追って説明しようと思う。



数日前。



この日、俺の替え玉をやってくれない?

僕はとある男に電話をかけた。

「いや、シキュウさん自分で出るべきじゃないですか?」

「どうしても、この日は家から出たくない。出たら感染する気がする

感染ってなんですか?

自分でもよくわかんないんだけど、とにかく感染する気がして動けないんだわ

「まさか、今度は一人きりでハハノシキュウBをすることになるとは……」



彼には以前、ハハノシキュウBとしてMCバトルに出てもらったことがある。

この連載の第一回を読んでもらえればありがたい。

前回はチーム戦だったが、今回はシングル戦でしかも本物が不在

というか最後まで本物のフリを貫かないといけない。

「当日までに荷物を送るから受け取って欲しい」

「はい。一回戦で負けたらすみません」

大丈夫、俺には作戦がある



こうして僕は安楽椅子ラッパーになった。

2020年4月18日(A)

この度、4月18日(土)に開催を予定しておりましたKAI-YOU Premium主催イベント「遊ぶ人集会」第3回目となる、ハハノシキュウ×佐藤友哉「小説の言葉、ヒップホップの言葉」公開対談は、開催中止することを決定いたしました。

新型コロナウィルス感染症拡大を受けて、出演者様や会場側と検討を重ねておりましたが、現状を勘案し、出演者様やスタッフ、お客様の安全を最優先し、中止せざるを得ないとの判断に至りました。

2020年4月18日(B)

ハハノシキュウ×佐藤友哉「小説の言葉、ヒップホップの言葉」公開対談。



ハハノシキュウ×佐藤友哉という字面が公式で実現するなんて、実に信じがたい状況だ。

ちょっとでも世界線が違えば開催されないイベントだと思う

この世界線で生きられることの幸運を噛み締める。



「そう言えば、シキュウさんは2月に《ADDVANCE 五輪祭》というMCバトルで優勝しましたね」



話の流れで司会のKAI-YOU新見さんが“あの日”のことに触れる。



「やっぱ若いオーガナイザーの主催イベントだと、戦極とかに比べてベテランが優勝する難易度は何倍も高いですし、今も現在進行形で難しくなってますね」

「そんな状況下でもシキュウさんは優勝した! すごい!」

佐藤さんが褒めてくれる。

小説の話をしようと思ってきたのに、やはりバトルの話が大半を占めてしまう。(ヒップホップの話だってお座なりだ)申し訳ない。



実は“あの日”ですね、僕、家から一歩も出てないんですよ

会場が変な空気になる。

叙述トリックのある推理小説を大人数で一緒に読んだらこんな空気になりそうだと思った。

「ああ、やっぱり」と「嘘?!マジで?!」が入り混じった空気。

「『エナメルを塗った魂の比重』みたいに、僕が二人いたんです」

「そこで僕の作品名、出さなくていいですから!」

佐藤さんが苦笑いする。


僕は形のない使命感を持って“あの日”のことを語った

そうすれば、このイベントが開催されていない世界線にも届くような気がしたからだ

2020年2月29日(A)

MCバトル《ADDVANCE 五輪祭》が新型コロナウイルスの影響で中止になった。

2020年2月29日(B)

一回戦 《ハハノシキュウ VS FRANKEN》

当日、僕はハハノシキュウBにひたすらLINEを送り続け、彼の行動を制限した。

「まず、ハハノシキュウのコスチュームに着替えたら、誰とも話すな」

「話しかけられたら、どうすればいいですか?」

徹底的に無視してくれ。顔も出さない。ずっと前髪を垂らして完全に無視」



MCバトルイベントの楽屋ではついつい他のMCと喋ってしまい、緊張感が薄れてしまう。

逆に誰とも話さないことで“ストイックさ”を演出できる。

本当はハハノシキュウが偽物であるがゆえに周りを無視しないといけないのだが。

「今日のハハノシキュウは本気だ」

そう思わせる方に作用すると僕は計算した。



「一回戦の相手は決まった?」

「FRANKENさんです」

「待ち時間、FRANKENさんは高確率でフレンドリーに話しかけてくる。そこを無視するのはかなり心を痛めると思うが、無視を決め込んで欲しい」

「わかりました」

「あとね、渋谷のハーレムはとにかくラップが聴き取りづらい箱だ。バトルビートが音数の多いトラックだったら、とにかくオンビートでラップして欲しい。逆に音数の少ないビートだったら言葉選びに重きを置いて欲しい」

「頑張ります」

「それでだな、FRANKENさんとの試合に勝つ作戦は……」



FRANKENさんとの試合においてハハノシキュウBは、僕の思惑以上に成果を上げた。



「FRANKENさんは正直な人だから『今日は楽屋で挨拶してくれなかった状況、ちょっと冷たいんじゃないの? ハハノシキュウって状況!』みたいなことを言ってくると思う。FRANKENさんが先攻だったらスタートからその話題でディスってくるはずだ。

もし、こっちが先攻になったら、やんわりと「今日は全員敵、だから徹底無視」みたいなことを言えばいい。多分、拾って返してくれる。

そこまで持っていけば、もう勝てる。

まずね、先日送ったキャップを見て欲しい」

「これ、計算式、違いますよね?」

「いや、逆だ」

「あっ、計算式、合ってますね」

そのキャップは“8×8=64”と刺繍された門外不出の代物だ。


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実際に、YouTubeに上がった試合はこんな感じだった。

「先攻、FRANKEN! 後攻、ハハノシキュウ !」

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二回戦 VS MOGURA