若いオタクはアニメからVTuberに流れたのか? 7つのポイントから考察
2022.07.31
観客から出されたお題を即興で演じる落語の三題噺。小説家・ラッパーのハハノシキュウへの今回のお題は、盟友・Amaterasにまつわるもの。
計算より15足りない日々を綴る日記、第6席。
クリエイター
この記事の制作者たち
6月13日、下北沢Lagunaで、Amaterasとハハノシキュウと共同で、有料無観客配信ライブをやってみた。
「Amaterasが来ない」
客演のM1NAZUK1もセルラさんも来ている。
まだ着替える前のハハノシキュウBもちゃんと来ている。
というか、ハハノシキュウBは僕よりも早く来ていた。
「なんでお前がいるんや?」
Bに対し、M1NAZUK1がそう言った。
実はBの中身とM1NAZUK1は昔からの知り合いなのだ。
「俺がハハノシキュウBなんだよね」
その発言にM1NAZUK1がたまげる。
「ええ?!シキュウさん、マジすか? ウチ今まで全然気付かんかったっすわ」
逆に僕は言わなくてもわかってるもんだと思って何も伝えていなかった。
っていうか、そんなことよりAmaterasが来ないんだけど。
新型コロナウイルスによる弊害の一つとして、スタジオ練習があまり出来ないってことが挙げられる。
だから、リハーサルの時間がとても貴重なのだがAmaterasが来る気配はない。
「電話も通じないんすか?」
M1NAZUK1が心配そうに言う。
「大丈夫! 大丈夫だから! 心配ない!」
僕はアメリカ人みたいに両手を広げてそう言った。
そして、続けてこう言った。
「来ない可能性は十分にある! だからどっちでも対応出来るようにしよう!」
「えっ、来ないってことあるんですか?」
気付いたら裸足になっていたセルラさんが社会人代表みたいな感じで疑問を投げた。
僕は自信満々に答えた。
「Amaterasなら有り得るんですよ!『レベルE』読んだことあります? ヤツは必ず想像の斜め上を行く男なんですよ!」
僕に怒りの感情はなかった。
LINEも既読にならず、電話も出ない。
それでも僕の心は『HEAT -灼熱-』の唐沢辰巳のように冷静だった。
「来るって信じましょうよ!」
みんながそう言う気持ちもわかる。
しかし、僕にとってAmaterasという男は、すでに「信じる」とか「信じない」とかそういうのを超越した存在になっていた。
本名は松澤伊知哉。年齢は23歳。
彼はモラトリアムの真っ只中にいる。
この『物語』は、
Amaterasが歩き出す物語だ。
2月24日にバンドセットでライブをする予定があった。
ハハノシキュウバンドセットだ。
「マザーテラスの曲、バンドセットでまたやらない?」
マザーテラスというのは僕とAmaterasのコラボユニットの名前だ。
「母」の子宮と天「照」で「マザーテラス」
去年、僕はバンドセットでワンマンライブを敢行した。その時もAmaterasを呼んでマザーテラスの曲をバンドバージョンで歌った。
バンドメンバーもAmaterasと打ち解け、共演に乗り気だった。Amaterasには人を寄せ付ける才能がある。(逆に僕には人を寄せ付けない才能がある)
「バンドセットでまたやりたいです!」
Amaterasも乗り気だった。
「じゃあ、16日の14時に前行ったスタジオに集合ね」
「わかりました!」
すでに時計は14時を回っていた。
「今日、Amateras来るんでしょ?」
ドラムのスズキさんが聞く。
「来るって言ってたんすけど」
僕は人に催促をしたりするのがあまり得意ではないため、とりあえずゴドーを待つように待っていた。
バンドメンバーとハハノシキュウソロ曲を中心に練習を繰り返した。(その風景をインスタライブしたりもした)
インスタライブ中にAmaterasが入ってきたらそのままラップさせようと思ったが、奴は来なかった。
痺れを切らして喫煙所で電話をかける。
繋がらない。
諦めかけたところでAmaterasからLINEが届く。
「すみません。今、起きちゃって。すぐ行くんで16時でもいいですか?」
「うん、大丈夫」
十分後。
「シキュウさん、ほんとすみません。16時30分でもいいですか?」
「大丈夫だよ、気をつけて」
スタジオは18時まで借りていたため、まだ余裕があった。
十分後。
「シキュウさん、ほんとごめんなさい。17時になってしまいそうです。スタジオ代お支払いするので。ほんとすみません」
「いやいや、スタジオ代は俺が払うから気にしなくていいよ。とにかく来てくれればいいから」
結果から言うと、この日、Amaterasとしたやりとりはこれが最後だった。
彼は来なかった。
この日は制作中のマザーテラスのアルバム曲のレコーディングだった。
共作なのに、すべての段取りを僕が行うのではAmaterasがハハノシキュウに付き合ってるだけになってしまうため、彼にレコーディングの予約を一任した。
マネージャー無しで、ユニットを組むのであれば労力も半々にするべきだ。そうじゃないと、先輩にぶら下がってる間になんとなく完成したってだけのアルバムになってしまう。
Amaterasは阿佐ヶ谷のレコーディングスタジオを14時に予約してくれていた。
たった一本の予約でも自分でやらないだけで、心持ちは楽になる。(そもそも、僕は段取りが苦手で、電話一本にも億劫さを感じてしまう)
気の知れたエンジニアと久々の再会を果たす。
「おお、久しぶりだねぇ! 元気?」
ここは2017年に『月経症候群』をレコーディングしたスタジオだ。ついでに言うと『リップクリームを絶対になくさない方法』もこの人に録ってもらった。
「Amateras来てます?」
「いや、まだ来てないね」
「アイツ、来ないことあるんで心配なんですよね」
「昨日の夜、Amaterasから時間の確認のメールきてたよ」
「じゃあ、大丈夫ですね」
先に僕からレコーディングを始めてもよかったのだが、エンジニアとの数年ぶりの談笑に花が咲いたためしばらくAmaterasを待ちながら“最近の調子”を報告し合ったりした。
「あっ、Amaterasから電話きました」
着信ボタンを押すと明らかに憔悴したAmaterasの声が聞こえてくる。
「あ、あの、シキュウさん。なんかあの、今、警察と一緒にいて」
「警察?」
エンジニアが驚いてこちらを振り返る。
話を聞くに、一緒にいた彼女とつまらないことで口論になってヒートアップしていたら近隣住民に「喧嘩が始まった」と通報されたとのこと。
Amaterasは熱が入るとアメリカ人みたいに両手を広げて話すため、それが誤解を生んだのかもしれない。声だって大きくなる。
それはともかく、Amaterasは必ずこちらの想像の斜め上を行く。
結局、Amaterasは無罪放免、身柄を拘束されずに済んだのだが(僕の頭の中で舐達麻が流れていた)とてもレコーディングを始めるような心境にはなれなくて、この日の録音は延期にすることに決めた。
「先週のバンドリハも来なかったしさ、もう少しちゃんとした方がいいよ」
僕に迷惑をかけるのは別にかまわないが、エンジニアやバンドメンバー、僕以外の大人に迷惑がかかるのは流石に胃が痛かった。
「とりあえず、今からでもいいから、ウチの近くまで来てくれ。別に説教するわけじゃないけど、アルバムのことをちゃんと話そう」
「わかりました。謝りに行きます。スタジオ代とかキャンセル代とか後から教えてください。ほんとすみません」
僕は自分が正しいことを言い過ぎないように気を付けた。
圧倒的に正しい大人の言葉ほど、人を殺しかねないものは無いし、正しさに酔った大人ほど性質の悪いものは無い。
頭の中を駆け巡る正論を抑え込みながら、僕は家に帰った。
とりあえず、Amaterasがウチの最寄り駅に着くまで、それまでは何も考えないでおこう。
そして、この日、Amaterasから連絡が来ることはなかった。
開場17:30 開演19:00 前売2,500円 当日3,000円.
<出演> ハハノシキュウバンドセット、Ri Ri Riligion mini、arko lemming
ハハノシキュウバンドセットのライブ当日。
スリーマンのため、待ち時間も比較的長い。
「で、客演には来てくれるの?」
先日、ようやく連絡がついたAmaterasは深く反省している様子だった。
「絶対に行きます。歌詞もスタジオに行けなかったんで、自分でちゃんと練習します」
「16時に吉祥寺NEPOね。ここで遅刻したらさすがに俺でも機嫌悪くなると思う。NEPOは吉祥寺駅から20分くらい歩くからそれもちゃんと計算に入れて来てくれ」
「わかりました!!!」
そして、運命の16時。
Amaterasの姿は無い。
「今日、Amateras来るの?」
ベースの文誉さんの質問に僕はこう答えた。(バンドメンバーは全員Amaterasが大好きだ)
「こういうのスポ根みたいで好きじゃないんすけど、もうすでに遅刻なんで、今日は来てもラップさせないです」
そして、Amaterasは想像の斜め上を当たり前のように跨いでいく。
着信だ!
と思って画面を見ると何故かAmaterasの彼女からのものだった。
「もしもし」
「もしもし、シキュウさんですか? すみません。Amaterasのことなんですけど、遅刻しないように前乗りして漫画喫茶に入ったらしいんですけど、財布を私が預かってて漫画喫茶から外に出られなくなったらしいんですよ。私、すぐには迎えに行けなくて。しかも、携帯の充電も切れちゃって、代わりに私から連絡したんですけど」
その瞬間、僕の中で何かが切れたのがわかった。
「あなたは何も悪くないです。ただ、今日は『来なくていい』と彼に伝えてください」
彼女さんが少し涙声になっているのを察しながら僕は電話を切った。
そして、本番になってもAmaterasは現れず。
僕はマザーテラスの曲を一人で声色を変えて全部ラップした。(逆にそれがウケてライブはまあまあ盛り上がった)
「普通『来なくていい』って言われたら謝りに来ますよね?」とバンドメンバーに吐露した。
「しかも、ここが駅から遠いってこともサービスで伝えたのに!」
僕は怒っていた。
プンプンだった。
後から冷静になって考えてみると「来なくていい」って言われたら「来るのが当然」という解釈は実に昭和的で、それが平成に通じるはずがないということに気付く。
じゃあ「遅刻してもいいから謝りに来い」と言ったところでAmaterasが来たか?と考えると、先週来なかったことを思い出しまた怒りが増幅する。
とりあえず、この時点で僕は「マザーテラスのアルバムは発売中止でかまわない」という結論に落ち着いていた。
こんなに腹が立ったのは僕がフリースタイルダンジョンに出た後「ハハノシキュウは地元が同じで応援してるけど、俺より知識量が少ないのが残念」と書いてる人をネットで見かけた時以来だった。
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