『ブラックパンサー』の善と悪 ヒップホップの王ケンドリック・ラマーが示した姿
2022.01.04
千葉・幕張メッセ、大阪・ZOZOマリンスタジアムで8月19日・20日で開催された音楽フェスティバル「SUMMER SONIC 2023(サマーソニック 2023)」。
その豪華出演者たちの中でも、筆者が最も注目すべきだと考えるアーティストが、ヘッドライナーの1人であるケンドリック・ラマー(Kendrick Lamar)さんです。
2011年にインディペンデント・アルバム『Section.80』でデビューしてから約10年。すでに音楽界の巨匠とも肩を並べられるほど伝説的な存在になったケンドリック・ラマーさん。
「サマーソニック2023」公式サイトの紹介文では、輝かしいチャート成績と、ピュリッツァー賞やグラミー賞などの受賞歴が紹介されています(外部リンク)。
しかしこうした実績だけでは、ケンドリック・ラマーさんが“神格化”される理由がわからないかもしれません。
そもそも、なぜ音楽ファンたちは彼に熱狂しているのか? いったい何が彼を伝説にしたのか? その要因について考えてみたいと思います。
(※)ちなみに、彼が「ヒップホップの王」と呼ばれる理由については、ラッパーのRAqさんが書いた映画『ブラックパンサー』との関係を読み解いた記事をぜひ参照してください!
目次
- 理由1──抜群のラップ・パフォーマンス
- 理由2──歌詞を通して痛烈に届くメッセージ
- 理由3──ストーリーブックとしてのアルバム
※本稿は、2023年8月18日にKAI-YOU.netで配信された記事のアーカイブ
ケンドリック・ラマーさんは、現在活躍するラッパーの中で最も優れたパフォーマーの1人でしょう。ラップが断然上手いのです。
ライムを細かく入れ込みつつリズムを自由に駆使するフロウに、高くスモーキーな独特のトーンを用いた演技力を重ねます。
「Backseat Freestyle」(2012)や「DNA.」(2017)はいつでもリスナーを熱く踊らせる最高のラップ・バンガー(バンガー=名曲)。誰でも一緒に口ずさみたくなるようなフックと、加減知らずのフロウ爆撃。その緩急が巧みに調整されています。
「u」(2015)では、グルーヴやトーンのコントロール力に演技力も追加。複数のペルソナを演じる劇的なパフォーマンスも素晴らしいです。
ハードコアとポップを兼備しているケンドリック・ラマーさんのラップスキルをさらに知りたければ、様々なジャンルでのフィーチャリングも注目です。
例えば「俺はニューヨーク(東部)の王であり西部の王だ」と宣言して、シーンに戦乱を巻き起こしたビッグ・ショーン(Big Sean)さんとの「Control」(2013)。
独特なニュー・ジャズ(ジャズと電子音楽の融合)を聴かせるフライング・ロータス(Flying Lotus)さんとの「Never Catch Me」(2014)。
ドープなトラップを新たに彩るトラヴィス・スコット(Travis Scott)さんとの「goosebumps」(2016)や、未来的なエレクトロニック・ビートを使ったヴィンス・ステイプルズ(Vince Staples)さんとの「Yeah Right」(2017)も注目に値します。
こうした多種多様なプロダクションにパーフェクトに答える実力の持ち主であるケンドリック・ラマーさん。しかし、彼を現在の地位に押し上げた決定的な要素は別のところにあります。
大衆音楽において歌詞はどれほど重要でしょうか? 歌詞が重要な位置を占めるようになったのは、フォーク・ミュージシャンのボブ・ディラン(Bob Dylan)さんの影響だとよく言われています。
詩のような隠喩と鋭い洞察眼で歌詞の価値を一段上げたとされ、2016年にはノーベル文学賞を受賞しました。
大衆音楽ジャンルの中でも、特にヒップホップは、ラップという言語の技芸が中心にあるため、歌詞の役割がより重視されてきました。
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