Interview

  • 2024.11.08

なぜ椎名もた「少女A」は世界的ボカロ曲になったのか? 発端となった海外発の二次創作クリエイターを直撃

『平成のヒット曲』(新潮社)、『ヒットの崩壊』(講談社現代新書)、『初音ミクはなぜ世界を変えたのか』(太田出版)などの著書で知られる音楽ジャーナリスト・柴那典さんによる寄稿。

なぜ椎名もた「少女A」は世界的ボカロ曲になったのか? 発端となった海外発の二次創作クリエイターを直撃

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“ぽわぽわP”ことボカロP・椎名もたさんの楽曲「少女A」が、海外で異例のヒットを記録している。

「少女A」は、Billboard Japanが発表する「Global Japan Songs Excl. Japan」で最高8位にランクイン。2024年1月25日公開のチャートでも19位となっている。

「Global Japan Songs Excl. Japan」とは、米Billboardのグローバル・チャート「Global 200」のデータから、日本市場を除外し、日本の楽曲を抽出したもの。いわば「海外でヒットしている日本の楽曲ランキング」だ。

上位にはYOASOBIの「アイドル」やKing Gnuの「SPECIALZ」、imaseさんの「NIGHT DANCER」など、アニメ主題歌やTikTokでのバイラルヒットをきっかけに海外で支持を広げた楽曲が並ぶ。

そんな中「少女A」は、Billboard JAPANが同チャートを2023年10月にスタートしてから2024年1月まで、TOP20にランクインしている唯一のVOCALOID(ボーカロイド)楽曲だ。

同チャートでは現在のところ、メジャーレーベルに所属するアーティストの楽曲が多くを占めており、インディーズレーベルから発表された楽曲という意味でも「少女A」は数少ない例とも言える。

椎名もたさんが「少女A」をニコニコ動画およびYouTubeで発表したのは、今から約10年前となる2013年10月。2015年3月に発売された3rdアルバム『生きる』にも収録されている。

ボカロシーン黎明期の2009年にニコニコ動画に楽曲の投稿をはじめ、2010年代前半に「Q」や「ストロボラスト」や「パレットには君がいっぱい」など多くの人気曲を発表してきた椎名もたさん。当時10代半ばだったというその若さだけでなく、繊細な感性、キャッチーなメロディセンスは高く評価されていた。その内省的な作風は、下の世代のボカロPにも影響を与え続けている。

しかし、椎名もたさんは、2015年7月に20歳の若さで亡くなっている。なぜ、「少女A」が今になって海外で注目を集めているのか? 

※本稿は、2024年1月に「KAI-YOU.net」で掲載されたものを再構成したものとなる

「少女A」海外で自然発生的にバイラルヒット

「少女A」のMVは、YouTube上で1.2億回再生(2024年11月時点)を突破している。さらに、同楽曲を使った関連動画の総再生回数は13億回を超えている。Spotifyでの同曲の再生回数は1.3億再生を超え、ストリーミング配信でも大きくヒットしている。

椎名もた「少女A」

椎名もたさんの所属レーベル・GINGAの運営会社であり現在楽曲を管理しているU/M/A/A(ユーマ)に取材したところ、最初に動きがあったのは2021年12月ごろだという。

それまで、1日あたり数百回ほどだったYouTubeの再生回数が、数千から数万回へと急増。アクセス元のほとんどは海外からで、きっかけは非公式音源を用いたTikTokの動画が注目を集めたことによる自然発生的なバイラルだった。

2022年1月に「少女A」はマレーシアやフィリピン、シンガポールなど各国のSpotifyでのバイラルチャートにもチャートイン。Spotifyにおける一週間あたりの再生回数は約1万回から約90万回ほどへと跳ね上がっている。

これを受けて、レーベルは2022年4月にMVに歌詞の英語訳を追加。2022年後半には一時の勢いは収束したものの、『きかんしゃトーマス』をモチーフにしたミーム動画に使われるなど、TikTokでのバイラルは続いていた。

『きかんしゃトーマス』をモチーフにしたミーム動画

2023年3月9日、椎名もたさんの誕生日に、レーベルは公式サイトをリニューアルし、ササノマリイさんによるリミックス「少女A - one day After Another Remix -」を配信する。

そして、この曲への反響がさらに大きくなったのが2023年7月ごろのことだった。『ドラゴンボール』番外編に登場する通称・未来悟飯をモチーフにしたミームなど、TikTokで様々な動画に使われ、自然発生的なバイラルがさらにスケールアップした。

YouTubeの再生回数は1日あたり数十万回へと跳ね上がった。国別ではアメリカ、メキシコ、フィリピン、ブラジルなどで特に再生回数を集めたという。そして、様々なミーム動画にこの楽曲が使われるようになった。その話題性がSpotifyなど音楽配信ストリーミングサービスの再生回数にも波及した。

つまり、海外発で自然発生的に広がったバイラルヒットが「Global Japan Songs Excl. Japan」の上位ランクインに結実したというわけだ。

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