Interview

  • 2024.05.18

仮想世界にしか救いがないのなら──田中敦子×大塚明夫×山寺宏一が語る『攻殻機動隊』

仮想世界にしか救いがないのなら──田中敦子×大塚明夫×山寺宏一が語る『攻殻機動隊』

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士郎正宗さんによるSF漫画『攻殻機動隊』を原作としたアニメシリーズの最新作『攻殻機動隊 SAC_2045 最後の人間』が2023年に公開された。

本作は『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』(以下、S.A.C.)の神山健治さんと、『APPLESEED』の荒牧伸志さんが共同監督を務めたNetflixオリジナルシリーズ『攻殻機動隊 SAC_2045』シーズン2を再構成した劇場版アニメーション。監督は、『新聞記者』『ヤクザと家族 The Family』で知られる気鋭・藤井道人さんが担当した。

『攻殻機動隊 SAC_2045 最後の人間』予告

描かれるのは、シーズン1の再構成となった前作『攻殻機動隊 SAC_2045 持続可能戦争』から続くポスト・ヒューマン事件。そのクライマックスに向けて、メインキャラクターである草薙素子バトートグサの3人を演じる声優の田中敦子さん、大塚明夫さん、山寺宏一さんにインタビューを実施した。

3人が揃うことで醸し出される雰囲気は、さながら劇中の3人かのよう。重厚ながらも穏やかで、何気ないやりとりの中にも、長く共に駆け抜けてきた戦友としての深い関係性が感じられる。

そんな3人は『攻殻機動隊 SAC_2045』の集大成たる作品へ挑む中で、常に未来を描いてきた「攻殻機動隊」シリーズの現代における意義を、どのように考えているのだろうか。

目次

  1. 藤井道人監督が再構成『攻殻機動隊 SAC_2045 最後の人間』
  2. 3人がセリフを言えば「攻殻」の世界が立ち上がる
  3. 一言「トグサ!」と呼んでもらえたらスイッチが入る
  4. 素子は恋愛体質? 振り回されるバトーは……

※本稿は、2023年11月にKAI-YOU.netに掲載された記事を再構成したもの

藤井道人監督が再構成『攻殻機動隊 SAC_2045 最後の人間』

──『攻殻機動隊 SAC_2045 最後の人間』は、Netflixシリーズのシーズン2を再構成した劇場版となっています。まずは本作の見どころを教えてください。

大塚明夫 元々12話のシーズン2が1本の映画に凝縮されたので、すごく見やすくなっていると思います。でも、凝縮する上でカットされてしまったシーンもあるので、気になった人はそれぞれの話数も見てもらいたいですね。

山寺宏一 ギュッと凝縮されてますけど、しっかり一つの作品として出来上がっています。「攻殻機動隊って難しそうだな」って思ってる方にとっては、入門編としてもいいかもしれません。

シーズン1・2に関わっていない藤井監督が、作品を客観視して再構成するということにも大きな意義があると思いますし、同じエピソードでも編集が変わっていたりするので、元々のファンの方にも楽しんでいただけると思います。

田中敦子 新規収録をして追加になったシーンもあります。なので、元々Netflixシリーズをご覧になっている方は、そこが変わったんだと思って見てもらえるでしょうし、逆に映画からご覧になった方は、シーズン2の各話を観ることで違いもお楽しみいただけるんじゃないでしょうか。

『攻殻機動隊 SAC_2045 最後の人間』田中敦子(草薙素子役)

田中敦子さん(草薙素子役)

──シマムラタカシ(CV.林原めぐみ)や江崎プリン(CV.潘めぐみ)との関わりの中で、素子、バトー、トグサの新たな一面を見ることができましたが、改めて今作からの新キャラクターの印象をうかがえますか?

田中敦子 プリンちゃんは、過去のシリーズでいうタチコマのような、サブ主役的なキャラクターだと感じています。タチコマのセリフや自己犠牲の精神に泣かされたことがあったように、今回もプリンちゃんのセリフに泣かされてしまいました。

そしてシマムラタカシは、素子から見るとやはり印象深いキャラクターです。特に最後の対峙するシーンは、今回新規収録してシーズン2とは異なったやり取りになっています。シマムラタカシと素子がどんな会話を繰り広げているのか、そしてどんな結末を迎えるのか、ご覧いただく方々にいろいろと考えてもらえたら嬉しいですね。

大塚明夫 今までの「攻殻機動隊」シリーズでは、食い止めなきゃいけないようなハッキリとした敵がいたのに対して、今回の敵であるシマムラタカシは、そもそも食い止めるべき存在なのかという疑問が生じるような感じがありました。

バトーとしては戦う上で迷いを持っちゃいけないと思うものの、演じるこっち側には迷いが生じてきて、その迷いがどんどん首を絞めてくるような感覚もあったんです。新しい在り方を感じるキャラクターでしたね。

『攻殻機動隊 SAC_2045 最後の人間』江崎プリン(CV.潘めぐみ)

江崎プリン(CV.潘めぐみさん):再編された公安9課の鑑識担当の赤服ではあるが、自主的に情報収集から事件捜査までを行う新メンバー。飛び級でMITに入学した才女。バトーに特別な感情を抱いている。

大塚明夫 プリンについてはやはりバトーが一番関係深いんですが、バトー自身の暗い過去との関係が判明してからどんどん苦しくなってきて、直接対峙する時はこんなのどうやって戦えっていうんだって気持ちにもなりました。

最後の判断は素子に委ねてしまいましたが、バトーの意志が揺らぐ瞬間を感じられたのは、演じる側として非常に面白かったです。

山寺宏一 プリンはトグサから見ると、自分がいない間の公安9課でいろいろやっていたっていうイメージですね。公安9課は基本的におじさんが多いチームですから、その中に若い人が加わるのは爽やかでいいと皆さん思ったでしょうし、僕もそう思っていたんです。

でも、まさかここまで物語のカギを握る重要なキャラクターになっていくとは、思いもよりませんでした。最終的には彼女の行動に泣かされましたし、トグサとしてというよりは、一視聴者としての見方で非常に印象深いキャラクターでしたね。

『攻殻機動隊 SAC_2045 最後の人間』シマムラタカシ(CV:林原めぐみ)

シマムラタカシ(CV.林原めぐみさん):14歳の中学生。日本においてポスト・ヒューマンに覚醒したとされる1人。“シンクポル”と呼ばれるシステムの作者と目される。自身の過去を追うトグサの前にその姿を現す。

山寺宏一 一方、シマムラタカシは、トグサとしては少佐(素子)とは違う形で関わりが強いキャラクターです。離婚していたのをいいことに、タカシのお母さんとイイ感じになりそうになったりもしましたけど。それはさておき、彼とトグサの関わりから今回の物語の主題であるポスト・ヒューマン事件に繋がっていきましたからね。

トグサ的にもそうですが、作品全体にとっても大きな存在でした。そして何より、それを演じる林原めぐみがすごい!

大塚明夫 そんなにセリフがあるわけじゃないのに、全編通してこれだけの存在感を放っている。あのピンポイントで急所を突くようなテクニックはいったい何なんだろうね?

田中敦子 今回のシリーズの収録の前に、私とめぐちゃんでスタッフさんから作品について説明を受けたんですけど、その時のめぐちゃんの受け答えがもうまるでシマムラタカシで……。これだけ長く難解なシリーズを、全部ちゃんとわかっているんだなって感じがしました。

山寺宏一 最初はこの作品の先輩として「大丈夫? 攻殻機動隊って難しい作品なんだよ?! アドバイスでもしてやろうか!」と思っていたんですけど、むしろシマムラタカシを降ろしているんじゃないかってくらいの凄さに圧倒されてしまいました。まさに声優界のポスト・ヒューマンでしたね!

3人がセリフを言えば「攻殻」の世界が立ち上がる

──前作『攻殻機動隊 SAC_2045 持続可能戦争』に続き、日本映画界で最も注目を集める1人・藤井道人さんが監督を務めました。実写畑の方が監督をされるとあって、普段と何か違いを感じる部分はありましたか?

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