2024年のゲームタイトル、注目作は? わくわく大プレゼン会
2024.07.25
大人になるにつれ、無邪気な遊びをしなくなっていく私たちは、インターネットのおかげで、遊び場を、おもちゃを見つけ出した。
VTuberを用いたおもちゃ遊び。そして、VTuberが従事している「おもちゃ的労働」を分析する「不適切で、不愉快なVTuber鑑賞論」第2回。
クリエイター
この記事の制作者たち
「インターネットのおもちゃ」というスラングがある。インターネット上で、人々のからかいの対象になること。例えば、VTuberである赤見かるびは配信で次のような印象的な言葉を残している。
ほんとにさみんな炎上のネタ好きだよね。って考えるとさ、誰かが炎上した時ってさ、インターネットであーぎゃー言うじゃん。
そうやって言うの楽しいんでしょ〔視聴者の〕みんな、実は。いやすごいよ。〔VTuberやYouTuberは〕体張ってみんな。
かるびも思ったよ。みんながそれで笑顔になるならいいよって、思う。それで、おもしろいって。炎上ネタをいじって、おもしろいって思ってくれる人がいるならいいやって。私、配信〔業〕を始めるときに、相当な、覚悟を決めたからね。
私はインターネットのおもちゃになる。それを覚悟して配信を始めたから。
(赤見 2022、強調と〔〕の追加は筆者)
ネタのしつこい反復やゲームプレイ中に指示するコメント(「〇〇アイテム取れよ」「〇〇にしろってさっきから言ってたのにな〜」)や、失敗をあげつらう発言(「〇〇も読めないのwww」「バカすぎwww」)。VTuberの配信を視聴しているとき、否が応でも目に付くようなコメントを並べてみた。これらはみな、VTuberをからかい、おもちゃにしている例の一つだろう(ピクシー 2020)。
VTuberをインターネットのおもちゃにすること。それは倫理的に悪そうだ。なぜならVTuberの中の人はおもちゃではなく、人権を持つ人間だからだ。だから、VTuberをおもちゃにするのはやめるべきだ。
しかし、これはあまりにも優等生的な非難に思える。
赤見が言うように、「ほんとにさみんな炎上のネタ好き」なのであり、「そうやって言うの楽しい」のだ。「みんな、実は」。
VTuberをからかい、おもちゃにすること。それは、VTuberを疲労させる。それは、VTuberを愛でている人にとっては、不適切で、不愉快な鑑賞、すなわち、スポイル的鑑賞の代表例の一つだ(※)。
だが、VTuberをおもちゃにすることを頭ごなしに非難するのではなく、視聴者がなぜこのおもちゃ遊びに喜びを感じているのかを明らかにすることが必要だ。そうして初めて、このおもちゃ遊びがなぜ起きるのか、VTuberはどうやってこの遊びと付き合っているのか、どう向き合えばいいのかがわかる。
本稿が目指すのは、VTuberを用いたおもちゃ遊びの分析である。そして、VTuberが従事している「おもちゃ的労働」の分析だ。
近年、アイドルの労働、メイドカフェでの労働の社会学的分析が深まっている(上岡 2023a; 2023b, 田島編. 2022, 中村 2021; 2023)が、本稿もその流れの中で、美学的な観点からのVTuberと視聴者の関係と、VTuberが従事する労働の考察をおこなうものだ。
第一回ではファンとVTuberの関係を「ケア」から理解した。しかし、「いじり」や「からかい」はそうしたケアとは少し毛色の違うコミュニケーションのようだ。第二回となる今回は、そうしたケアとは一見真逆のコミュニケーションの分析をおこなおう。
だが、いじりやからかいもまた、ケアとは違う意味での「愛」の(歪んだ)営みなのである。そして、もう一つのスポイル的鑑賞なのだ。
それでは、私たちの歪んだ愛を見ていこう。
※スポイル的鑑賞:「スポイル(spoil)」とは「台無しにすること」の意味。VTuberがこれまで通りに配信できなくなったり、VTuberのファンも含めた周囲の人々に迷惑をかけたりするような行為を意味する。
目次
- VTuberをインターネットのおもちゃにすること
- VTuberたちが従事するおもちゃ的労働
- 人形としてのVTuberが生み出す「無邪気な親密さ」
- 見た目の「おもちゃっぽさ」が招くキュートアグレッション
- 親密さを売買するVTuberにとっての、からかいを拒否する困難さ
- からかいをスルーする視聴者は、配信者からどのように見えるか
- 承認を求めるのではない仕方で、VTuberを愛すること
VTuberは、雑談をおこなう配信やゲーム実況をおこなう配信で、しばしば視聴者から馬鹿にされ、いじられる。「そんなこともできないのか」「ほんとにバカだな」など。視聴者側からすれば、それは愛のあるいじり、ということになろう。仲の良い人の失敗をあげつらうことで互いに笑い合おうとしているような態度に由来するのだろう。
対して、VTuberは応答する。そのイメージにもよるが、反論したり、受け入れたり、困ってみたりする。それを見て視聴者は喜ぶ。「やっぱダメなやつだな」「おれたちは許すよ」などなど。
視聴者たちがVTuberをからかい、一線を超えてVTuberに対して暴言を投げかけたり、誹謗中傷に見えるようなコメントをするとき、視聴者は何をしているのだろうか? 直接コメントしない視聴者も、その様子を見て何を楽しんでいるのだろうか?
インターネットのおもちゃとしてVTuberを慰み者にする視聴者の経験を分析するために、私たちとおもちゃとの関係を考えるとよさそうだ。
子どもたちはおもちゃで遊ぶ。そのとき、ケア的な関係を結んでいるわけではない。おもちゃがどのように動くかに関心を持ち、それが壊れてしまっても、「ああ、ひどいことをしてしまった」と悔やむことはないだろう。悲しむかもしれないが、それは遊べなくなったからに過ぎない。
たとえば昆虫遊びをしている子どもは、昆虫を分析し、味わうために様々な行動をする。虫の羽をむしり取る。足を外し、殻を剥く。これらは残虐性の現れではない。おもちゃとして扱うというのは、相手に対する無頓着さによるものなのだ。ケアとは真逆の態度である。
大人になるにつれ、私たちはこうした無邪気さに満ちた遊びをしなくなっていく。いや、できなくなっていく。なぜなら、大人になるとは、何がおもちゃではないかを学んでいく過程だからだ。おもちゃの哲学を展開するレヴィノヴィッツはこう語る。
大人が「そんなもので遊ぶな、おもちゃじゃない」と叫ぶことで、初めておもちゃとしての役割を終える(Levinovitz 2017, 277)
「それは貴重なものだから遊んではいけない、あなたのものではない、危険だ」と教えられることで、私たちは、それぞれのものにふさわしい向き合い方を学んでいく。《モナ・リザ》の上に乗ってサーフィンごっこをしてはいけないし、両親の結婚指輪を放り投げて遊んではいけない。私たちは、成長していくことで、次々とおもちゃを失っていくのである。代わりに、社会的なルールの中で生きるようになる。原始、世界はおもちゃだった。そして今、世界からおもちゃはどんどんと消えていく。
しかし、私たちが人間をおもちゃにしていいときがある。それは、典型的には親密な関係にあるときだ。そのときに限り、私たちは他人をおもちゃにしてもいい。なぜなら、親密であることで、双方同意して、互いに互いをおもちゃにして遊ぶことができるからだ。友人同士で互いをからかい合うとき、私たちはお互いをコケにしたり、バカにしたりしながら、対等な関係で、朗らかな雰囲気の中で互いをおもちゃにして、いじり、からかうことができる。大人になった私たちでも、遊び心を発揮していいときがあるのだ(cf. シカール 2019)。
しかし、親密な人が周りにいなかったり、うまくおもちゃ遊びをする機会を見つけられない人はどうすればいいだろうか? 彼らが生まれつきおもちゃ遊びをしたことがないとは思えない。人はみな「遊びをせんとや生まれけむ」。
インターネットのおかげで、人々は遊び場を、おもちゃを見つけ出した。
それが、VTuberを始めとする、インターネットで活動する配信者、YouTuber、ストリーマーである。彼女ら彼らは自分たちをおもちゃとして提供するようになった。
私が提案したいのは、視聴者がVTuberをおもちゃにして遊んでいるという解釈だ。VTuberのささいな失敗をあげつらったり、馬鹿にしたり、いじったり、からかったりするとき、視聴者はおもちゃ遊びの快楽を味わっているのだと。
そして、VTuberはその遊びに付き合うために、「おもちゃ的労働」をしている、と私は考える。
VTuberがおこなっているのは、視聴者が遊んでもいい対象として自分を差し出し、視聴者のコメントに対して視聴者の予想にある程度合致する仕方で、しかし、ある程度は意外性をもたせるような形で感情を表出したり反応したりする「おもちゃ」として自らを管理する労働だ。
これを、「おもちゃ的労働(toyetic labor)」と呼ぼう(cf. 難波 2023; 2024)。おもちゃ的労働とは、周囲の人々がインタラクトするための表情や身体の動きを生み出すために感情・態度・存在のあり方を管理することで賃金を得る労働の一つである。
しかし、おもちゃ的労働をしているのはVTuberだけではない。YouTuberや配信者、ストリーマーもまたおもちゃ的労働に従事している。しかし同時に、VTuberの方がより一層おもちゃにされやすい、という直観を私は持っている。だとしたら、VTuberならではの特徴はどこにあるのだろうか?
それを考えるために、VTuberのおもちゃ性をより詳しく考えてみよう。
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