Interview

Series

  • 2024.07.12

クイズこそが「ファスト教養」の呪縛から解放してくれる? QuizKnock対談

クイズこそが「ファスト教養」の呪縛から解放してくれる? QuizKnock対談

クイズには、構造的な課題がある?

知識集団・QuizKnock。東大のクイズ研究会を中心に、Webメディアから始まりYouTubeチャンネルを設立した。いまやテレビでの活躍を見ない日はないほどの売れっ子で、YouTubeチャンネルの登録者数は225万人を誇る。

約3年間クイズ番組「東大王」大将もつとめたエンジニアで数理科学博士号を持つ鶴崎修功さん、「競技クイズ界最強の男」の異名を持つクイズプレイヤーにして、QuizKnockを運営する株式会社batonで広報を担当する徳久倫康さんの2人にお越しいただいた。

鶴崎を一番よく知るのは? シン・鶴崎王

「楽しいから始まる学び」をテーマに活動するQuizKnockだが、一方でその胸中には、クイズの絶対視とはほど遠い、複雑な葛藤もある。

マスメディアで見せる闊達な様子とは裏腹に、彼らは常に自問自答を続けてきた──「そもそもクイズとは何なのか」「クイズの公平さはどのように保たれるべきなのか」「クイズの持つ暴力性をいかに克服していくべきなのか」。

鶴崎修功さんと徳久倫康さんとの対談インタビュー後編では、クイズの抱える構造的課題について今回はあえて踏み込んでいるが、2人は正面からそれに応えてくださった。

そうした問答を通して改めてクイズに多角的に焦点を当てることで見えてきた、現代社会におけるクイズの真の価値とは?

目次

  1. 「高学歴のクイズサークル出身の男性」が出題者に集中する構造
  2. クイズプレイヤーのジェンダーバランスと「化粧品枠」問題
  3. AI活用は、クイズの公平性に貢献するか?
  4. 「ファスト教養」から考える、クイズの真の価値?
  5. クイズは「知識」ではなく「視点」を提供する枠組み
  6. クイズへの誤解や幻想を、解いていくために──

「高学歴のクイズサークル出身の男性」が出題者に集中する構造

th_240522KAIYOU_0271.jpg

──まず、それぞれお二人のクイズ観について、改めて教えていただきたいです。

鶴崎修功 難しい質問ですが、めちゃくちゃ単純に定義すると「クイズとは、知識の多寡を比べるゲーム」です。

ただし、そこには10個くらい注釈を付ける必要がある。注釈の例としては、「専門的な研究で得られる知識のほとんどは出題できない」「体験や感覚といった非言語的なものは出題できず、限られた知識である」「クイズに勝った=物知り、博識というわけでない」などが挙げられます。

徳久倫康 クイズにはいろいろな側面がありますが、重要なのは「誰でもすぐに遊べる有名なゲーム」だというところだと考えています。将棋や囲碁のようなゲームと違ってルールのインストールに時間がかからないし、基本的なクイズのやり方自体は広く知られているしわかりやすいので、事前の準備や練習がなくてもできる。

つまり、「クイズはとても開かれている」と言えます。

ただ、開かれている一方で、少し深く触れることで感じられる面白さや奥深さもあって、それはまだ十分に伝わっていない気がしています。なので、それを知ってもらいたいと思ってQuizKnockの活動に取り組んでいます。

僕がクイズを魅力的だと思う点は、その人固有の経験などが活用できることです。例えば、音ゲープレイヤーが美味しいフランス料理を食べても、直接的には音ゲーのプレイ上達には繋がりませんよね。一方で、クイズは人生でのいろいろな経験や思いも寄らないことが役に立ちやすい。クイズ以外の趣味で学んだことが役立つというのが、とてもよく起こる。

つまり、クイズにおいては、その人の人となりが反映されるような強い武器を、必ずそれぞれが持っている──。それが一番の魅力だと考えています。

──知識の多い少ないを競うゲームだけど、どんな人でもそれぞれの人生を通した強みを活かせるのがクイズの魅力であると。

th_240522KAIYOU_0237_RE01.jpg

──一方、徳久さんやQuizKnockメンバーの伊沢拓司さんも寄稿されている『ユリイカ2020年7月号 特集=クイズの世界』(青土社/以下、ユリイカ)では、主に「競技クイズ」について、クイズプレイヤーは高学歴の男性が多く、また偏差値の高いクイズ研究会などで育まれた「見えないデータベース」の存在が言及されています。

徳久さんが『ユリイカ』に寄稿された「競技クイズとはなにか?」でも、競技クイズは「はじめから文化資本に恵まれた者のほうが有利だということになりかねない」との記述があります。改めて、クイズにおける文化資本(学歴や文化へのアクセスのしやすさといった個人的資本を指す)の差をどのように捉えていますか?

e81ATOnK8xXL._SL1500_-1.jpg

『ユリイカ2020年7月号 特集=クイズの世界』Via Amazon

徳久倫康 2つの観点があると思います。まずひとつは、今お話ししたようにクイズは自分の経験や体験が活きてくる面があるし、自分の身近なことを聞く問題も多くあります。つまりそういった問題では、どれだけ自分の生活の中にあるものに目を向けているか、ということが問われます。

個人的な体感ですが、最近では、身近なことをよく見ている、知っていることが有利になるような問題が出題される傾向にあります。こういった問題は、ハイブランドや高級料理店への知識を問うものよりも、文化資本の差が影響しにくいはずです。ただ、それとは別に、出題者との生活環境の類似性によって有利不利が生まれるわけですが……。

もう一方で、クイズそのものとは別に、今日本で行われている「競技クイズ」についての構造的な欠陥があります。それは、現在のクイズプレイヤーの人口では、必然的に「競技クイズの強いコミュニティが限られている」ということです。

前編でもお話しした通り、クイズ界では参加者も運営側に回るというギブアンドテイクの関係があるため、出題者と解答者とが近しい距離にある。この相互関係の中心にいるほど、競技クイズは有利になります。

「今出やすいのはどういう問題か」「どういう傾向が流行っているか」といったことも、強いコミュニティに属しているほど確実に掴むことができる。

たとえば、日本最大級の学生競技クイズ大会「abc/EQIDEN」では、参加権がなくなった社会人のプレイヤーが運営スタッフを担当します。同じサークルの1年先輩がスタッフ側、後輩が参加者側、ということが起こる。そうすると、いくら公平性を保とうとしても、やはり同じコミュニティにいる参加者のほうが有利になりやすい。これは競技クイズを文化として拡大していくうえで、クリアしていくべき課題だと感じています。

鶴崎修功 「abc/EQIDEN」の作問チーフが3年連続東大出身者だったこともあって、その時はさすがに変えたほうがいいのでは、という意見を個人的に送りましたね。

一方で、出題者を無作為に選んで作問してもらうというのも難しい。なぜなら、競技性が高く多くの人を楽しませられる問題を考えられる人は限られているからです。そのため、高学歴のクイズサークル出身者が出題者の中心となってしまう実情があります。

──しばしば指摘されている通り、現状、出題者は「高学歴のクイズサークル出身の男性」に集中する傾向がある。一方で、解答者として想定される平均的なペルソナはあるのでしょうか?

徳久倫康 面白い質問ですね。「abc/EQIDEN」のように、参加にあたって年齢制限のあるような大会では多少考慮されることもありますが、基本的には固定されたペルソナを想定することはまれだと思います。

僕は元々アーケードゲーム『クイズマジックアカデミー』でクイズを始めました。クイズゲームのプレイヤーには高学歴の人もそうでない人もいて、学歴と強さは関係がない。クイズゲームの開発者側は、ペルソナ、というか、ターゲット層を意識しているはずなので、それがジャンル設定や個別の問題に影響を与えているはずです。

クイズプレイヤーのジェンダーバランスと「化粧品枠」問題

th_240522KAIYOU_0281_RE01.jpg

──出題者は男性が多いということですが、女性が得意とする問題を採用する、ある種のアファーマティブ・アクション(格差を積極的に是正するために採用される行動)が取られたりはしないのでしょうか? ただし、これは一方で、例えば「女性はコスメに詳しい」といった既存のジェンダー・バイアスを強化してしまう危険性も懸念されますが……。

鶴崎修功 ここ数年、多くの大会にひとつは化粧品に関する問題、いわば「化粧品枠」が出題されていましたね。ただ、商品名を列挙して化粧品メーカーを聞くだけのような紋切り型の問題が多すぎて、ポリティカル・コレクトネスに形だけすり寄っている問題は無意味なのでは? という批判の声も上がっています。

  • 800本以上のオリジナルコンテンツを読み放題

  • KAI-YOUすべてのサービスを広告なしで楽しめる

  • KAI-YOU Discordコミュニティへの参加

  • メンバー限定オンラインイベントや先行特典も

  • ポップなトピックを大解剖! 限定ラジオ番組の視聴

※初回登録の方に限り、無料お試し期間中に解約した場合、料金は一切かかりません。

法人向けプランはこちら
10日間無料でおためし