「クラファンの約束が守られないから返金して」は本当に認められる? VTuber餅月ひまりの実例を弁護士が解説
2024.07.08
クリエイター
この記事の制作者たち
華々しいデビューを飾る者がいる裏で、人知れず表舞台から去っていく者もいる。激動のVTuberシーンの“今”をアーカイブすることで、後世に歴史的資料として残すことを試みる連載「おしえて、九条林檎様!」。
今回も吸血鬼と人間のハイブリッドレディこと九条林檎さんに、VTuberシーンのリアルを聞いていきます。
今回触れるトピック
・企業が著作権(IP)を売らないことのメリット
・VTuberと企業の認識がズレやすいマネジメントの範囲
・『学園アイドルマスター』のプロデューサーが凄い
・メタバースの何が終わって、何が終わっていないのか
・VRChatのスマホ対応と、clusterへの影響
・VTuberとVRシーンの距離はなぜ遠い?
第2回のテーマは「VTuberの著作権」。以前所属していたAVATAR2.0 Projectから、自身の著作権を買い取っていたことが話題になった当人に、VTuberの著作権とは何なのかを語ってもらいました。
もう一つの議題は、従業員の30%を解雇したことで動向が注視されているVRChatについて。「メタバース原住民」を自称する九条林檎さんに、1年前から語られているメタバースオワコンの正誤について解説してもらいます。
前回に引き続き、記事末尾には読者限定プレゼント企画も!
目次
- 卒業後も同じ姿で活動しているVTuberの著作権はどうなっている?
- 個人VTuberとイラストレーターのトラブルが頻発する理由
- VTuberが企業に所属する時に絶対に確認しておくべきこと
- VTuberとお金の話──企業案件の配分、契約書に書いてある?
- 半分正しく、半分間違っている「メタバースのオワコン論」
- 人員を整理したVRChatの次なる一手を考える
- clusterとVRChatの境目が曖昧になる未来
- VTuberとVRシーンが重ならない理由、例外的なfilianに見る光明
──今回のテーマは「VTuberの著作権」です。そもそもVTuberの著作権とは何を指すのでしょうか?
九条林檎 何か一つを指すとするならキャラクターデザインになるだろう。しかし実際にはもっと色々な権利がVTuberの活動には絡む。Live2Dモデル、3Dモデルはもちろん、配信画面、YouTubeの「チャンネル メンバーシップ」のバッジや絵文字なども使われるのでそれらもわかりやすい例だろう。そうしたあらゆるものが著作物で、権利が発生する。
──林檎さんは、Avatar2.0 Projectから著作権を買い取っていたから、VEE所属時に名前も姿もそのままでデビューできたんですね。
九条林檎 そういうことになる。補足しておくと、Live2DモデルはVEE所属後の著作物になるから3年前に買い取った著作権とは別だぞ。また、事務所から独立した我と似たようなケースのVTuberが皆、必ずしも著作権を買い取っているわけではないことは留意しておいてほしい。
──林檎さんと同じように、卒業して移籍または独立した後も同じ姿と名前で活動されているVTuberとしては、周防パトラさん、小森めとさん、エトラさん、前回の連載でも名前が出た雨ヶ崎笑虹さんなどがそうですね。
九条林檎 色々なケースがあるので彼女たちが著作権を買い取っているのかどうかはわからない。卒業後も著作権は所属していた企業にあり、著作物を使用するために月額で使用料を払い続けたり、活動で得た売り上げの何割かを支払っていたりということもある。移籍した場合でも、当の企業同士の話し合いによって企業が企業から著作権を買い取っている場合もある。
──スポーツ選手のようですが、VTuberの移籍に際して移籍金のやり取りがあることは考えられますか?
九条林檎 面白い視点だな。移籍先の事務所が著作権の買い取り代を肩代わりしたり、直接買い取ることはあり得るから、これが擬似的な移籍金と言えるかもしれない。まあ経済条件は基本的に公開しないし、当事者にも秘密保持の契約もあるので、そもそも外に話が漏れず、外野が知ることはないんだがな、ははは。
──YouTubeチャンネル、SNSアカウントはどうでしょうか? 6月ににじさんじから卒業した鈴鹿詩子さんは、非公開になる予定だったXのアカウントが本人の要望もあり、公開されたままになることが決まり話題になりました。
九条林檎 これも本人の希望のみならず、複雑な事情が絡まってくるので公開・非公開は一概に何が要因とは言えないんだが、一因になり得るものとして例えば、卒業するVTuberが1年前に企業案件を受けていて、PRのために行った投稿があるとする。案件を依頼してきた企業との契約書に「2年間はPRの投稿を残す」という一文があれば、Xを非公開にすることはできない。
ほかの事情で非公開にするにしても、違約金なりの相談が発生するだろう。YouTubeチャンネルも同様だ。あくまで一つの可能性だがな。
──なるほど、企業案件の契約が関わる可能性は全くの盲点でした。
九条林檎 芸能人だと時折、不祥事によるCMの違約金問題などは出てくるが、VTuber業界では表に出てこない事柄だな。我個人はこの傾向を好ましく思う。
──林檎さんのように著作権を買い取る、あるいは月額を払って卒業後も使用させてもらうという選択肢は、全てのタレントに与えられるのでしょうか?
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