エロパロとクソマロ。一見これまで論じてきた「スポイル的鑑賞」とみなしうる在り方だが、これらは「正しい鑑賞」になりうるポテンシャルを秘めている。
読者に「スポイル的鑑賞」の特定化とその「正しさ/悪さ」を見定めるための手がかりを提示する、「不適切で、不愉快なVTuber鑑賞論」最終回。
これまでの連載では、「ケア誘いビジネス」としてのVTuberのビジネス構造を論じ、第二回では、VTuberが労働者として直面する「おもちゃ的労働」の構造を明らかにした。
私たちが次に考えなければならないのは、「私たち視聴者とVTuberのオルタナティブな関係性」である。なぜなら、これらに代表されるようなスポイル的鑑賞──VTuberの活動を邪魔したり、イメージを毀損したり、他のファンの鑑賞を阻害したりするようなVTuberの鑑賞──が前提とするのは、バッドケアの対象としてVTuberに過剰なケアをするにせよ、インターネットのおもちゃとしてVTuberで遊ぶにせよ、どちらもたとえ産業構造や事務所が必要とするにせよ、VTuberの心身を疲弊させる持続不可能な関係性だからだ。
もしも私たちがほんとうにVTuberをケアし、彼らと遊び続けたいと思うのならば、時にはVTuberを引退や卒業に追い込むようなスポイル的関係性からはぜひとも脱却したいと願うはずだ。
では、どうすればバッドケアでもなく、悪しきからかいでもない関係をVTuberと視聴者は築くことができるのだろうか。私は、別のスポイル的鑑賞にオルタナティブな関係性のヒントがある、と考える。「エロパロ=VTuberを扱ったポルノグラフィ的な二次創作」と「クソマロ=VTuberへの執着や異常な愛情に満ちた匿名コメント」に「私たち視聴者とVTuberのオルタナティブな関係性」がある、と私は主張する。
いっけん意味がわからないだろうか。だが、これらにVTuber文化が持続可能になるヒントがある。
エロパロはケア的関係がバッドな関係に至る可能性を解毒する「妄想の毒と薬効」を持っており、クソマロはおもちゃ的関係が悪しきからかいに至る可能性を解除する「ユーモアの毒と薬効」を持っている。エロパロもクソマロも劇薬である。VTuberを傷つける悪しき力がある。逆に、バッドケアと悪しきからかいという別の毒を中和する力を持っている。毒は薬にもなる。
たとえば、後者のおもちゃ的労働へのオルタナティブなアプローチが見られるのは、にじさんじ所属の卯月コウの配信だ。卯月はインターネットのおもちゃになることを進んで受け入れているように思われる。同時に、卯月はおもちゃ的労働をうまく制御しているようにもみえる。
たとえば、卯月の雑談や視聴者からのお便り、とりわけクソマロを中心に配信を組み立て、画像やテキストを介して視聴者と「いじりあう」ような掲示板のスレッド的感性を体現している。後ほど、卯月コウの配信を分析するために役立つ「傷つけるユーモア」という概念を考察することになるだろう。
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