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  • 2025.04.12

強くなりたきゃ知っておくべき! カードゲームの基本構造をゲームデザイナーが大解剖

強くなりたきゃ知っておくべき! カードゲームの基本構造をゲームデザイナーが大解剖

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KAI-YOU掲載の「TCGの歴史と未来」ではさまざまなトレーディングカードゲームTCG)が登場したが、それぞれのタイトルには異なる特徴があり、ルールやカードも千差万別だ。各タイトルを深く知るためには、それらの違いを把握することが欠かせない。

たとえば『Magic: The Gathering』(1993)において、毎ターン容易に4枚も5枚もカードを引けるようになれば、試合はたちまち破綻してしまう。そのため、カードを引くためのカードには相応のコストや条件が課されている。一方、『ポケモンカードゲーム』(1996)ではカードを何枚も引くカードが平然と飛び交っており、毎ターン何枚ものカードを引ける状況が蔓延している。

それでは、『ポケモンカードゲーム』は“クソゲー”なのだろうか? もちろん、そうではない。『ポケモンカードゲーム』において『Magic: The Gathering』より多くのカードが引けるのは、ゲームにおいて「カードを引く」という行為の価値が、両タイトルで異なるように設計されているからである。そしてその違いは、両者が持つコンセプトの違いによるものである。

このような違いを把握することは、TCGを上手くプレイする(勝つ)うえでも、上手くゲームをデザインするうえでも役に立つ。自分が普段プレイしているタイトルとは異なるタイトルをプレイする際に勘所をつかみやすくなるし、TCGを開発する際にも、先行事例の研究は不可欠だ。

タイトルごとの特徴の違いをどのように捉えればよいのだろうか。まず着目すべきは、違いではなく共通点である。

世の中には多種多様なTCGが存在するが、あらゆるゲームの中で比較すれば、どのTCGも似ている。ジャンルにはジャンル特有の「らしさ」があり、それを共有することで各タイトルは「TCG」と認識される。秋田犬とゴールデンレトリバーとブルドッグが“大体同じ”であるのと同程度には、『Magic: The Gathering』と『ポケモンカードゲーム』と『遊☆戯☆王オフィシャルカードゲーム』(1999)も“大体同じ”である。

似たゲームからは、似た体験が得られる。TCGが30年以上にわたって多くのプレイヤーに親しまれ、業界としても発展を続けてきたのは、ジャンル全体に共通する構造が、優れたプレイヤー体験を提供してきたからだ。もちろん、タイトルごとの個性は重要である。しかし共通の構造を理解せずに個性を論じることはできない。

TCGの本質に迫る前編となる本稿ではまず、現役ゲームデザイナーとしてTCGの開発・運営に携わる筆者が、TCG全体に共通する基本構造を抽出し、“TCGらしさ”の正体を明らかにする。TCGって一体何なんだ?

目次

  1. “TCGらしさ”を考察する
  2. ランダム性と非公開情報こそが、カードゲームを規定する
  3. 山札と手札のない特殊なゲームで、試合のパターンを増やす3つのアプローチ
  4. 場が存在しないTCGの可能性と、それが主流にはなり得ない2つの理由
  5. 山札から勝利条件へ カードの「移動」に着目
  6. 導き出されたTCGの“基本構造”

“TCGらしさ”を考察する

KAI-YOU掲載の「TCGの歴史と未来」では、「プレイヤーが自分の所有するカードの中から、デッキを事前に構築する」ことが、TCGの始祖である『Magic: The Gathering』が実現した画期的なポイントであり、TCGの特徴的な要素であると述べた。

この要素が、TCGにおけるデッキ構築の楽しさや、多種多様なカードの存在を可能にしている。多様なカードの存在はキャラクタービジネスとの親和性を高め、のちに続く『ポケモンカードゲーム』と『遊☆戯☆王オフィシャルカードゲーム』といったいわゆる「IPもの」のTCGが数多く制作される背景にもなっている。これらはいずれも“TCGらしさ”を構成する要素と言えそうだ。

さて、これらの要素は“TCGらしさ”を十分にカバーできているだろうか。もしそうであれば、「プレイヤーが自分の所有するカードの中から、デッキを事前に構築する」カードゲームは、すべてTCGと見なせるはずである。

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ここで一度、デジタルゲームに目を向けてみよう。『Hearthstone(ハースストーン)』(2014)をはじめとするデジタルTCG(DTCG)は、一般的にTCGの仲間と見なされている。だが、ここで一つの疑問が生まれる。デジタルゲームにおける「カード」とは、一体何を指すのだろうか。

SEGAが開発した『WORLD CLUB Champion Football』(2002)のように、実物のカードを端末で読み取ってプレイするゲームには、確かに物理的なカードが存在している。しかし、多くのデジタル「カードゲーム」には、そうした物理的なカードは存在せず、カードに見えるグラフィックが画面上に表示されるだけである。言い換えれば、DTCGにおける「カード」は、単なる視覚的な記号に過ぎない。

たとえば『ポケットモンスター』(2016)は、最大6匹のキャラクター(ポケモン)でチームを編成して戦うRPGである。ポケモンのグラフィックをすべてカード状に置き換え、用語を「カード」に変更すれば、『ポケットモンスター』はDTCGになるのだろうか。

これは荒唐無稽な仮定ではない。なぜなら、キャラクターを「カード」として扱うデジタルゲームには『神撃のバハムート』(2011)などの実例があるからだ。『神撃のバハムート』はチームのことを「デッキ」と呼称しており、先に述べたTCGの特徴を満たしているように見える。

暫定的なTCGの定義である「プレイヤーが自分の所有するカードの中から、デッキを事前に構築するゲーム」をデジタルゲームにも適用すると、テキストやグラフィックを少し変更するだけで、多くのゲームがDTCGに分類されてしまう。

このような分類も誤りとは言えないが、少なくともゲームの特徴を示す用語としては役に立たないし、大多数の人の直感とも一致しない。『Magic: The Gathering』や『ポケモンカードゲーム』などのアナログTCGと、『神撃のバハムート』などの「カードバトルRPG」には、ルール上の共通点が乏しいためだ。『神撃のバハムート』は『Hearthstone』とは異なり、明らかにTCGの仲間ではない

この「ルール上の共通点」とは何だろうか。『神撃のバハムート』が“TCGらしく”ないと感じられることから、TCGには「プレイヤーが自分の所有するカードの中から、デッキを事前に構築する」以外にも何らかの特徴があり、「デッキ構築」「多数のカード」「キャラクターの活用」から生まれる体験とは別の“TCGらしさ”があると推測される。その正体こそ、本稿のテーマである“TCGの基本構造”である。

ランダム性と非公開情報こそが、カードゲームを規定する

ここまで取り上げてきたのは、試合が始まる前の準備段階に関する特徴だった。ここからは、試合の中身に目を向けてみよう。

TCGはカードを用いて遊ぶゲームだが、試合中、カードはさまざまな領域に置かれる。たとえば、プレイヤーのデッキは試合開始時に「山札」となり、プレイヤーがカードを引くと「手札」へと移動する。つまり「カードを引く」とは、「カードを山札から手札へ移動させる行為」と言い換えることができる。

カードが山札から手札に移動すると、何が起きるのか。プレイヤーは自分の手札を見ることができるため、カードの公開状態が変化する。山札にある間は両プレイヤーに対して非公開だったカードが、移動によって自分にのみ公開された状態へと変わるのである。

カードの公開・非公開の状態は、以下の4パターンに分類できる。

1:両プレイヤーに非公開
2:自分には公開・対戦相手には非公開
3:自分には非公開・対戦相手には公開
4:両プレイヤーに公開

順に、1は「山札」、2と3はそれぞれ「自分の手札」および「対戦相手の手札」に該当する。4のうち、試合に影響を及ぼす領域が「」、影響を及ぼさない領域が「捨て札」である(タイトルによってさまざまな呼び方があるが、本稿ではこの呼称に統一する)。

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